映画コラム

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2017年09月20日

傑作『散歩する侵略者』は松田龍平のケムール人走りを見る映画!

傑作『散歩する侵略者』は松田龍平のケムール人走りを見る映画!

散歩する侵略者 ポスター


(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会



劇団「イキウメ」の人気舞台劇を、数々の問題作で知られるあの黒沢清監督が映像化する!

公開前からファンの期待度も高かった話題作『散歩する侵略者』を、今回は公開2日目の最終回で鑑賞して来た。都内の劇場では無く、地元のTOHOシネマズで鑑賞したためか、残念ながら場内は観客20人という寂しい状態・・・。タイトルの印象からはちょっと難しそうに思える本作だが、果たしてその出来はどうだったのか?

予告編


ストーリー


数日間の行方不明の後、不仲だった夫・真治(松田龍平)がまるで別人のようになって帰ってきた。急に穏やかで優しくなった夫に戸惑う加瀬鳴海(長澤まさみ)。

「地球を侵略しに来た」、真治から衝撃の告白を受ける鳴海。やがて会社を辞めて、毎日散歩に出かけていく真治。一体何をしているのか…?

その頃、町では一家惨殺事件が発生し、奇妙な現象が頻発していた。ジャーナリストの桜井(長谷川博己)は取材中、天野(高杉真宙)という謎の若者に出会い、二人は事件の鍵を握る女子高校生・立花あきら(恒松祐里)の行方を探し始める。


舞台劇だから難しい?そんな心配は無用な娯楽映画の傑作!


ネットのレビューを見ると、最初から「舞台劇だから難しい」との先入観を持ってしまった方も多い様だが、実はそんな心配は一切無用!

散歩する侵略者


(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会



昨年公開された、同じ前川知大の舞台劇の映画化である「太陽」と比べても、今回舞台劇要素は全然少なく、むしろ映画的見せ場が多いので、一級のエンタメ作品として安心して楽しめるからだ。

「言葉」が持つ様々な概念に縛られている日本人の脳から、その言葉の概念を奪うことで地球侵略の準備を進めて行く3人の宇宙人。概念を奪われた人間は、その「言葉」自体の記憶を失うのだが、実はそのことが人間にとって、必ずしも「不幸」とは描かれていない点が面白い。

確かに映画の冒頭、あまりに多くの概念を奪われてしまった天野の両親は廃人の様になってしまっているが、逆に我々を普段縛り付けているある種の「言葉」の概念を奪われた者は、逆に晴れ晴れとした表情を見せる様になる。

例えば、所有の意味である「〜の」の「の」を奪われた青年は所有欲から開放され、引き篭り状態から街に出て人々に演説する様になるし、「自分」と「他人」の概念を奪われた者が、他者と自分を含めて「私達」と認識するようになるなど、言葉から開放された人々が逆に広い視点からの思考に目覚める様子は、現代のディスコミュニケーションへの問題定義としても、実に面白いし効果的だ。

散歩する侵略者 サブ1


(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会



特に映画のラスト、決して失ってはならない「ある言葉の概念」を奪われた側と、その概念を受け取った側の立場が逆転する様子は、正に圧巻の一言!

地球人と宇宙人、更にはそれまでの妻と夫の立場が入れ替わって迎えるラストは、映画の冒頭と見事に呼応する物であり、その中には鳴海の将来に対しての希望が確実に含まれていると感じた。

今まで愛を与えられていた側が逆に与える側になり、お互いに補い助け合って暮らして行くという展開は、昨年の「太陽」にも通じる共通のテーマだと言えるだろう。

ただ、ネットのレビューで散見される様に、映画本編では直接説明されない部分があるため、観客によっては「様々な疑問」が生まれて来てしまうのも事実。

例えば、何故桜井は宇宙人に感情移入・味方したのか?や、基本的な所では、侵略は日本だけなのか?とか、何故宇宙人は侵略を止めたのか?などなど。確かに最近は、内容の全てを観客に分かりやすく説明してくれる作品も多い。だが、本作の様に観客がそれぞれ自由に考えて楽しむことが出来るのも、実は舞台劇の大きな魅力の一つ。一度の鑑賞では気が付かなくても、繰り返し鑑賞する中で新たな発見が生まれたりする。

そう、実はこれは決して欠点では無く、むしろ作品をより自由に多面的に楽しむための、余白や行間とでも言うべき物なのだ。

映画鑑賞後に、友達同士で色々な意見や解釈が楽しめる本作、是非あなただけの解釈を見つけてみては?



(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会



最後に


前述した様に、舞台劇の映画化作品はセリフが多いし難しい、そう思って鑑賞を躊躇している方も多い様だが、本作に関しては大丈夫!何故なら、本作の設定や展開はウルトラマンとデビルマン。宇宙人の基本設定からは、「ヒドゥン」や「スターマン」を連想させるからだ。

この様に想像以上にエンタメ要素や見せ場が多い本作の中で、一番「おおっ!」と思ったのが、政府機関から追われた真治と鳴海が逃走するシーンで、ちゃんと松田龍平の走り方が「ケムール人」の走り方になっていた点!

実はその他にも、様々な「ウルトラシリーズ」へのオマージュ要素が含まれる本作。
地球最後の時が刻一刻と迫る中、数奇な運命から宇宙人と接触した人々が何を考えどう行動したか?ここは是非、ご自分の目でご確認頂ければと思う。

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(文:滝口アキラ)

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