『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』正月映画の大穴として、ハロー!

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2018年も間もなく終わり、2019年がやってきます。

と同時に12月からは正月映画シーズン到来!

例によって華やかで大仕掛けな作品がずらりと公開されていくわけですが、そんな中で埋もれさせてはいけないイキな作品もいっぱいあるわけでして……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街345》

『セルゲイ&セルジオ 宇宙からハロー!』もそんな1本です! ほのぼのと、クスクス笑い,、感動しながら年末年始を過ごしましょう!

キューバの大学教授と
ソ連宇宙飛行士が無線通信

『セルゲイ&セルジオ 宇宙からハロー!』はスペインとキューバの合作映画で、劇中用いられる言語はスペイン語とロシア語と英語です。

一体何を書いてるんだ、あんたとつっこまれそうですが、これは東西冷戦時代が終結する直前の1991年のキューバ共和国と宇宙を繋ぐお話なのです。

ベルリンの壁が崩壊し、社会主義陣営崩壊の波が本家たるソビエト連邦にも達しつつあったころ、ソ連の友好国キューバもその余波を受けて深刻な経済危機に陥っていました。

エリート共産主義者の大学教授セルジオ(トマス・カオ)ですら、愛娘と母親の食費に事欠く始末ですが、アマチュア無線を趣味とする彼は、キューバではなかなか報道されない不都合な情報を、アメリカNYの無線仲間ピーター(ロン・パールマン)から教えてもらいながらギリギリの生活を確保しているようです。

一方、ソ連崩壊の危機は宇宙にも達していました。

ソ連の宇宙ステーション“ミール”に長期滞在中の宇宙飛行士セルゲイ(ヘクター・ノア)は母国改変のあおりを受けて地球への帰還無期限延長を言い渡されました。

しかし真実を知らされないソ連の国民は、セルゲイが宇宙連続滞在日数の世界記録更新を図っていると勘違いして大騒ぎ。

セルゲイは孤独を紛らわすかのように地球に向けて無線で語りかけます。

その無線は、偶然にもセルジオのもとへ届きます。

最初は雑音で何を言っているのかわかりませんでしたが、たまたまピーターが最新式の無線機を送ってくれたおかげで、お互い声での交信が可能となっていきます。

交信を続けていくうちに意気投合していくふたり。

やがてセルジオは、セルゲイを地球に帰還させようと、一大プロジェクトを思いつくのですが……?

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国家の都合で翻弄される
人々への温かなエール

本作は“最後のソ連宇宙飛行士”と称されるセルゲイ・クリカレフをモデルにした作品です。

彼は91年5月に2度目の宇宙飛行に参加しますが、ソ連崩壊などのあおりを受けて帰還無期限延長となるのですが、ではどうやって地球へ帰還することができたのか? 

それは映画を見てのお楽しみ⁉(もちろんフィクションも大いに交えてますけど)

いずれにしましても、この時期(いや、当時も今も)、国家の都合で多くの人々が翻弄されたのは間違いのない事実であり、本作はそういった体制の非をストレートに訴えるのではなく、ほのぼのとした風刺コメディ仕立てで描きながらエールを送る仕組みになっているあたりが妙味であり美徳でもあります。

また本作は一度もあったことのない者同士が友情を育んでいくバディ・ムービーとしての資質も備えています。

しかもキューバと宇宙を繋ぎながら!

さらにはギレルモ・デル・トロ監督作品でおなじみのロン・パールマンがふたりの友情に大きく貢献するアメリカ人を好演。

そしてセルジオの娘やお母さんの佇まいにも要注目!(などと言わなくてもすぐに目を引く面白さ!)

セルジオの住むアパートの内外の造りやロケセットなども、実に映画の雰囲気をさらに好もしく高めてくれています。

監督のエルネスト・ダラナス・セラーノはアカデミー賞外国語映画賞に2度ノミネートされたキャリアの持ち主で、本作で日本でも大きく注目を集めること必至でしょう。

かつてNASAの宇宙飛行士たちの勇姿を描いた『ライトスタッフ』(83)が公開された1980年代、「これからのSF映画は過去を描くこともできるのだ!」などと騒がれたことがありましたが、本作もまたそういった過去を描いたSFとしても語られるのかもしれません。

が、それに加えて従来になかったほのぼのバデイ・コメディとしての情緒を湛えた優れものとして、見終わって何となく口元が緩んで楽しい気分になれる正月映画らしい逸品としても、強くお勧めしたい所存です。

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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