意外に怖い!『映画クレヨンしんちゃん 襲来!!宇宙人シリリ』は社会派問題作!

映画クレヨンしんちゃん 襲来!! 宇宙人シリリ 本ビジュアル

(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2017

過去にも多くの名作を生み出してきた、劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズ。

現在公開中のシリーズ最新作、『映画クレヨンしんちゃん 襲来!!宇宙人シリリ』でついに25作目&25周年を迎えるこの人気シリーズを、今回は初日の夜に鑑賞してきた。

恥ずかしながら、実は今回が人生初の「クレヨンしんちゃん劇場版」初体験となる自分。予告編の印象から、いつもの様に笑って泣かせる大冒険が描かれるのだろう、との予想で鑑賞に臨んだのだが、果たしてその内容はどうだったのか?

予告編

ストーリー

ある日の夜、野原家に不時着したUFO。その中にいたのは、宇宙から来たという宇宙人のシリリだった。シリリが発した光線を浴びたひろしとみさえは25歳若返り、ひろしは10歳に、みさえは4歳の姿に戻ってしまう。シリリは、生き物を若返らせることは出来るものの、成長させることは出来ないのだという。そして、日本の南にいるシリリの父親なら、ひろしとみさえを元の姿に戻せるらしい。翌日、シリリはしんのすけのズボンの中に入り、野原一家は日本縦断の旅に出発する。

ようやく新幹線に乗り込んだ野原一家だったが、泥棒に全財産とシリリの私物を盗られてしまい一時静岡に下車することに。そしてヒッチハイクで八尾という宇宙人オタクの男に拾われ彼の家に行くが、シリリの存在に気づいた八尾がシリリを捕まえようとしたため、野原一家たちは森へ逃げる。そこで、しんのすけ、シリリ、シロの3人は誤って熊本行きのトラックに乗ってしまい、熊本へ。一方、ひろし、みさえ、ひまわりの3人は、反省した八尾と共にしんのすけ達を追って熊本へ車を進める。

なんとか熊本で再会を果たした野原一家だったが、謎の二人組のモルダダとカスリーに捕まってしまう。
そんな中、シリリの父親による恐るべき陰謀が進められようとしていた。

(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2017

果たして子供はどう見る?予想外にダークな世界観と深い内容に驚いた!

前述した鑑賞前の予想に反して、実は本作のテイストは意外に暗く、非常に深い内容の作品に仕上がっていた。

実際、大人の自分が見ても終盤までは本当に怖い内容で、未就学児童が下手に見るとトラウマになるのでは?と感じてしまったほど。

特に中盤でのUFO愛好家とのエピソードでは、最近続いていた児童関連事件のニュースと相まって、ちょっとゾっとさせられた。もちろん、後で彼が単にUFO好きな善人であることは判明するのだが、正直「子供向けアニメでこの描写か、凄いな!」と思ったと言っておこう。

とにかく本作で徹底して描かれるのが、子供と宇宙人という無力な存在が社会で様々な危険に会い、大人の思惑に左右されるという現実。

まず、地球に不時着して孤立無縁の状態である宇宙人シリリの境遇を、「ひろし」と「みさえ」を子供の状態にすることで、現代社会において子供がいかに危険で無力な存在かに置き換えて、しんちゃん側に追体験させるという脚本が上手い!

無力な存在の彼らが追われ逃げ回る恐怖。実はこれ、視点を変えて見れば、差別や偏見を受ける者の恐怖とも受け取れるのだが、それが炸裂するのが、本来ならファンタジーと笑いの舞台になりそうな、後半のサーカスのシーンだ。

いや、ここは本当に怖い!後に全てはシリリの父親の思惑によるものだったことが判明するのだが、鑑賞後に良く考えたら、これはわが子に対する立派な「虐待」ではないか・・・。間接的に父親の計画達成のために協力してしまったシリリの胸中といい、親の思い込みによる教育や過度の干渉が、子供にとっては重荷や苦痛、そして間違っている場合もある、とのメッセージが強烈に伝わって来る、悪夢の様な名シーンなので、ここは是非劇場で!

更にもう一つ重要な点として、実は本作には絶対的な「悪役」が登場しない!ということが挙げられる。

物語上はシリリの父親が悪役、ということになるのだが、実は過去に友好目的で地球を訪れたのに、地球人から受けた無礼な態度や冷たい仕打ち、差別などに深く傷つき絶望したために、今回の計画を実行に移したことが判明するのだ。

ここでシリリの父親から語られる主張、「人類の大人こそ、差別や暴力などすべての諸悪の根源である!」に、果たして胸を張って反論出来る大人がいるだろうか?実際見ていて「うん、その通りだな」と思わず納得してしまったほどだ。

この辺りの展開は、過去のSF映画や「ウルトラマン」「ウルトラセブン」へのオマージュが感じられて、さすが橋本昌和監督ならではのこだわりだと感じた。

思えば同じ橋本昌和監督によるシリーズ23作目、「クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃」も、実はSFの古典である「トリフィドの日」へのオマージュに溢れていたり、決して子供向けの作品として迎合して作られていなかったからだ。

更に、物語の終盤で父親からシリリに告げられる、ある絶望的な事実。今までの自分の行動や苦労・恐怖が、全て勝手な親心による押し付けだったと知らされる、あまりに絶望的な展開には、正直大人の自分が見ても胸に来る物があった。

シリリ親子の関係と対比して描かれる、しんちゃん親子の絆の強さ。そして、実の父親に裏切られ自分の将来さえも握られてしまった幼きシリリが、ついに父親から自分の人生を取り戻すまでの物語。そんな深いテーマを見出すことが出来る本作、全力でオススメします!

(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2017

実は賛否が非常に分かれる本作。エピローグで描きたかった物とは何だったのか?

ネット等で本作の評価をチェックしたのだが、今回非常に賛否が分かれているようだ。いつも通り面白い!の声も多い反面、今回はいまいち、或いはラストがすっきりしない、との声も同じくらい存在する中で、多くの方が触れられていたのが、エンドクレジット後のエピローグがあっさりしすぎている、という点。

確かに、それまでの展開を考えれば、もう少し見せ場として描いても良かったのかも知れない。

本作の後半で、今までは父親の元に早く着かなければとの想いから、焦りとしんちゃんへの不平不満しか口にしなかったシリリが、ある事件を経て初めてその足を止め、しんちゃんと二人で寝そべって地球の空を見上げる。そこから本格的に二人の和解と共感、友情の始まりが描かれて行くのだが、ここに至るまでのちょっと子供達には厳しいのでは?という描写の積み重ねにより、この二人の和解と歩み寄り、相互理解がより受け入れ易くなっている。

ここを踏まえて本作のエンドロールとエピローグを見れば、シリリの成長と、親子の関係が修復され改めて父親と向き合うための帰還、という意味が判ってくるはずだ。そして、そこに重要な役割を果たす母親という存在の大切さと、家族の絆。確かに一見あっさりし過ぎている様に見えるかもしれないが、限られた短い時間で効果的に伝えるためには、仕方が無い判断だと言えるかも知れない。
(実際、本作はクレヨンしんちゃんシリーズとしてはかなり長めの上映時間であり、100分を越えている)

最後に

人生初の「クレヨンしんちゃん」体験だったが、正直本当に見て良かった!

エンドクレジット後のエピローグで、ああ、これは子供向け映画なんだと思い出したほど、大人が見ても考えさせられる社会派作品だった本作。

実際鑑賞中、逆に子供はこれを見て理解出来るのか?と心配になったほど。

自分が見た20時からの最終回は場内に大人の姿しか無かったため、果たして子供達がこの内容にどう反応していたか?を確認することが出来なかったのが、非常に残念だ。

それにしても、親子連れのファミリー層を狙ったアニメ作品の内容として、これほど挑戦的な作品も無いのではないだろうか?

コアなファンはもちろん、今まで見たことが無い方にもオススメ出来る本作、是非劇場でこの世界を体験して頂きたいと思う。

(文:滝口アキラ)

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    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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