映画「クレヨンしんちゃん」新作はジャッキーファン必見の傑作!善悪を問う衝撃の展開を見よ!

(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2018 

昨年『映画クレヨンしんちゃん 襲来!!宇宙人シリリ』を紹介してから、早一年。今年も劇場版『クレヨンしんちゃん』新作公開の季節がやって来た。今回の内容はカンフーアクションと聞き、個人的にもかなりの期待度だった本作を、今回は公開2日目の最終回で鑑賞してきた。
夜9時過ぎからの上映のため、さすがに本来のターゲットである小学校低学年の子供たちの姿は見えなかったが、その分大人の観客で賑わっていた劇場内。果たして今回の内容と出来はどうだったのか?

ストーリー

しんのすけたちが住む春日部にある中華街、アイヤータウン。マサオの誘いで、伝説のカンフー”ぷにぷに拳”の修行にはげむ、しんのすけたちカスカベ防衛隊の面々。

一方その頃、アイヤータウンでは”ブラックパンダラーメン”が大流行!しかしそれは、食べた人々を凶暴化させてしまう危険なラーメンだった!アイヤータウンだけでなく、春日部全体をも飲み込もうとする、ラーメンパニック!

そんな中、マサオまでがカスカベ防衛隊からの離脱を宣言!?果たして春日部の平和は?カスカベ防衛隊の絆は?(公式サイトより)

予告編

ジャッキーファンも大満足の本作!その凄いこだわりとは?

いや、今回は本当に素晴らしい内容だった!

『ET』のような感動路線かと思わせて、実は子供たちにとって現実の世界がどれほど危険に満ちているかを描き、予想外に怖い内容だった前作の『映画クレヨンしんちゃん 襲来!!宇宙人シリリ』。子供の姿となってしまった両親と共に、日本を縦断する大移動となった前作から一転して、本作『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ 〜拉麺大乱〜』では、しんちゃんたちが中国に渡る後半からはロードムービー的になるが、基本的にしんちゃんたちの住む春日部の町に古くから存在する中華街、アイヤータウンが舞台となっている。

映画の序盤こそ、しんちゃんたちカスカベ防衛隊の仲間たちの幼稚園での日常が描かれるなど、「おっ、今回はギャグ路線で行くのか?」と思わせる本作だが、実はこの映画が凄いのはここからなのだ!

後述するが、今回の悪役の容赦ない行動と、アイヤータウンだけでなく春日部をも巻き込んで広がる、そのあまりに大きな被害状況には、大人の自分が見ても思わず「これ、最後はどうやって結末をつける気なんだろう?」と不安を覚えたほど。

とは言え、そのタイトル通りカンフー修行やアクションの部分では、『クレヨンしんちゃん」』のもう一つの顔である、おバカな世界が十分に楽しめる本作。

普段は弱虫のマサオくんが、アイヤータウンで伝説のカンフー”ぷにぷに拳”を修行していることを知った、しんちゃんたちカスカベ防衛隊が、”ぷにぷに拳”の師匠や一番弟子の玉蘭と一緒に自分たちも”ぷにぷに拳”の修行をすることから、本作の物語は始まることになる。

実はこの”ぷにぷに拳”の修行部分が、過去のジャッキー・チェン作品に登場した修行シーンへのオマージュで満載なのだ!『酔拳』や『蛇拳』はもちろん、『笑拳』の砂袋引きに加え、まさかの『少林寺木人拳』での油プール特訓まで登場するので、お父さん世代はこの部分だけでもう大満足間違いなし!その上、マサオくんが中華街を歩きながら鼻歌で歌っているのが、『プロジェクトA』主題歌のソラミミバージョンという素晴らしさなのだ。(ちゃんとエンドクレジットにも、曲名の表記あり)

更に判る人には判るネタなのだが、実は師匠の外見(特に帽子と顔のイメージ)が、『酔拳』『蛇拳』に出て来た師匠だけでなく、ジャッキーのお父さんや初期ジャッキー映画の常連俳優の石天に似ている点もファンには要チェックなので、ここも是非お見逃し無く!

(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2018 

敵の存在が謎すぎる本作!果たして最強の敵とは誰か?

実は今回非常に意外だったのが、悪役の過去や悪事に手を染めるに至る背景が、観客に一切明かされない点だった。

実際、今回のボスキャラである、”ブラックパンダラーメン”の総帥ドン・パンパンは、過去に”ぷにぷに拳”と因縁があったわけでもないし、ましてや師匠個人への恨みや過去にアイヤータウンを追い出されたわけでもなく、最初から容赦の無い悪人として登場する。

もちろんこれは意図的なものであり、そのため過去のアニメ作品に良くあった様な、敵にも過去のトラウマや悲しい過去があり、最終的にそのトラウマが克服されて改心したり皆と和解したりして、犠牲となった人々や町も元の状況に戻ってハッピーエンドという、そんな甘い展開には決してならないのだ。

そう、実は本作は終盤に向かって、観客が予想もしなかったハードな方向へと話が突き進むことになる!実はこのドン・パンパンでさえもラスボスでは無く、何と最強の敵が別に登場するという衝撃の展開が待っているのだが、果たしてその最強の敵とは誰なのか?その意外な正体は、是非劇場でご確認を!

(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2018 

予想を越えた衝撃の展開は、もはや子供向けじゃない!

前述した通り、序盤はしんちゃんの日常と幼稚園での生活が描かれるので、今回は平和なギャグ路線なのかと思わせる本作。更に修行シーンでのこだわり方を見て、今回はそのタイトル通りカンフー映画へのオマージュ全開の内容とも思ったのだが・・・。

しかし物語が進むに連れて、その予想は良い意味で大きく裏切られることになる。何故なら、物語の舞台がアイヤータウンに移る辺りから、本作に隠された闇の部分が次第に明らかになって来るからだ。

まず、真っ先に「あれっ?」と思ったのが、アイヤータウンとしんちゃんたちの住む春日部の町とが、川で分断されていて橋を渡らなければ行き来することが出来ない、という設定だったことだ。このことは今回の悪役であるドン・パンパンの目的とも大きく関わる部分であり、ある種の隔離された社会と外界との関係や、この隔離された地域から外界へと進出しようとする悪役の目的は、実はラストの玉蘭の旅立ちにも大きく影響する部分なのだ。

アイヤータウンと春日部の町の関係性をふまえて考えると、この二つを繋ぐ橋の両側で玉蘭としんちゃんたちが、「再見!」と言って分かれる描写が、映画の序盤とラストでお互いの立場が逆転していることに気づくはず。そう、実はこの描写にも本作の重要なメッセージが込められているのだ。

川と橋によって外界と隔てられた町が、日本の歴史において何を意味し、どういう扱いを受けて来たかのほんの一例として、是非ネットで川島雄三監督の名作映画「洲先パラダイス赤信号」を検索してご確認頂ければと思う。

もう一つ注目なのが、一番弟子の玉蘭が子供の頃にアイヤータウンに捨てられて、”ぷにぷに拳”の師匠に拾われて育てられたという本作の設定だ。もちろんこれは、ジャッキー・チェンの『蛇拳』を思わせる設定なのだが、本作ラストの驚愕の展開をふまえて考えると、むしろこれは『スーパーマン』の設定であり、更に本作で描かれるあまりにハードな善と悪との問題定義や、映画終盤での玉蘭のコスチュームや行動と併せて考えると、正に彼女の存在が映画『ウオッチメン』のオジマンディアスそのものだと言うことに気が付く。

絶対的な力を持ち、自身の判断のみを正義とする存在に支配される世界。その基準がどんどんエスカレートして厳しくなり、やがて一個人の判断によって善悪が決定されてしまうその恐怖!

ここまで深刻化してしまった問題に、果たしてしんちゃんたちカスカベ防衛隊はどう立ち向かい、アイヤータウンと春日部の町をどうやって救うのか?
実はこのラストの決着の付け方こそが、まさに『クレヨンしんちゃん』でなければ出来ない離れワザであり、今回の『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ 〜拉麺大乱〜』を大傑作!と断言する理由でもあるのだ。

その奇跡の展開を見るためにも、是非劇場に足を運んで頂ければと思う。

(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2018 

最後に

メインターゲットの子供たち以上に、一緒に行った大人たちも毎回夢中になるのが、この劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズの魅力の一つ。今やその深いテーマやクオリティの高さが一般に浸透しているだけに、年々高くなっていく観客の「果たして今回はどんな展開で何を見せてくれるのか?」という期待値のハードルを越えるのは、決して簡単では無いはずだ。

その中で製作された本作の内容と展開は、本当に心から「良くここまで攻めた!」と言わせて欲しいほどの出来となっている。

序盤は確かに子供向けのギャグ満載の映画と思って笑って見ていられるが、次第に深刻化して行く町の被害状況と、誤ってラーメンを食べて凶暴化したままの妹ひまわりをそのまま連れて移動する野原一家の描写には、観客の方も「これ、大丈夫なのか?」と次第に不安になって来る。そう、あまりに絶望的で先の見えない状況の連続に、もはや観客にも先の展開と結末が見えなくなってしまうからだ。

でも大丈夫、そんな雰囲気を一瞬で吹き飛ばしてくれるのが、本作の影の主役であるマサオくんの人生の真理ともいえる、あるセリフなのだ。

自分が先に修行を始めたにも関わらず、後から合流したカスカベ防衛隊の面々に次々と修行で抜かされて行くマサオくん。自分はやはり選ばれた特別な存在ではないと、カスカベ防衛隊を抜けてしまった彼が、やがて”ぷにぷに拳”の師匠と合流し生活を共にする中でたどり着いた、ある真実とは何か?

決して特別に選ばれたヒーローの活躍が世界を変えるのではなく、地道な努力の継続こそが大事なのだ!

そう我々に教えてくれるマサオ君のメッセージと、人間自身が本来持っている能力の素晴らしさは、この絶望的な状況への一筋の光明となって、しんちゃんたちに勇気と希望を与えることになる。

もはや、両親も師匠も社会さえも頼りに出来ない絶望的な状況という、今回しんちゃんたちが迎えた最大の危機に、果たして幼稚園児だけのカスカベ防衛隊が、どう立ち向かい決着をつけるのか?

これからご覧になる方々のために詳しくは書かないが、ちゃんと伏線回収にもなっているこの結末は実に見事!確かに後から考えると相当に強引な方法ではあるのだが、これこそ正に『クレヨンしんちゃん』で無ければ成立しない、最高のアイディアだと言えるだろう。

しかもこのラストの部分とOPの部分とが、そのままジャッキー・チェンの『カンフー・ヨガ』へのオマージュになっているという点も見事すぎる!もはやこの大傑作を前にしたら、大人が率先して劇場に足を運ぶしかないではないか!

親子そろって大いに楽しめる、この『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ 〜拉麺大乱〜』。大傑作なので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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