ありのままの相手を想う、心からの美しい気持ち『シェイプ・オブ・ウォーター』監督インタビュー

3月1日(木)からロードショー公開される『シェイプ・オブ・ウォーター』。2018年度アカデミー賞(R)で最多となる13部門でノミネートを獲得し、作品賞の最有力候補といわれています(2018年3月1日記事公開時点)。

本作は、『パンズ・ラビリンス』(2006)や『パシフィック・リム』(2013)などの世界的ヒット作で知られる、メキシコの巨匠ギレルモ・デル・トロ監督によるファンタジー・ロマンス。ひとりの孤独な女性と水の中で生きる不思議な生き物の、種族を超えた「愛」を描く、切なくも愛おしい「おとぎ話」です。

シネマズby松竹では、日本公開に先立って来日したギレルモ・デル・トロ監督にインタビューを実施。テーマとなっている「愛」や、映画を彩る音楽、本作に込める想いなどについてお話を伺いました。

──なぜ本作『シェイプ・オブ・ウォーター』のテーマを恋愛にしたのですか?

ギレルモ・デル・トロ監督:一般的なおとぎ話は、これはこのようでなければならない、という考え方の再確認を促している場合が多いと感じています。

たとえば、(『シェイプ・オブ・ウォーター』と同様、種族を超えたラブストーリーである)『美女と野獣』。物語を通して、プリンセスは純粋で容姿端麗という典型的な姫であり続ける一方で、自分を捕らえていた野獣は王子様へと変身を遂げる。そして、プリンセスは王子様と恋に落ちる。おとぎ話とはそういうものでないといけない、という認識が世の中にはあるんです。

私は『シェイプ・オブ・ウォーター』では、普通の女性の、普通の日常を描きたいと思いました。主人公イライザは、通常のおとぎ話のプリンセスと異なり、モデルのように美しい20代の女性ではない。本作の冒頭で出てくるイライザの部屋のバスタブも、キラキラと金色に輝いているわけではありません。

また、本作では、女性にはいろいろな側面がある、という点も描きたいと考えていました。物語の中で、イライザは自ら選択して相手を選び、その相手である不思議な生き物(「彼」)を自由にしてあげます。同時に彼女自身も自由になる。「彼」はありのままの自分で居続けますし、イライザ自身も変身を遂げるわけではありません。

要するに、ありのままのお互いを愛する、という最高の関係なのですね。イライザと「彼」の間に存在する、相手を想い合う、心からの美しい気持ちを表現したかったんです。

──今、恋愛がテーマの本作品をつくった理由を教えてください。

ギレルモ・デル・トロ監督:今の世の中は、ソーシャルメディアのおかげで、いまだかつてないほどコミュニケーションが盛んに行われていますが、それと同時に、いまだかつてないほど寂しさを感じている人が多いと感じます。皆、率直な気持ちや感情を見せたり伝えたりすることに対して、大きな不安を抱いている。無関心を装ったり、皮肉や嫌味を絡めたりしないと、コミュニケーションが取れない人も大勢います。

そのような世の中だからこそ、まるで歌のような映画をつくりたいと思ったんです。歌を歌うときみたいに、とにかく感情を出す。考えるのはその後でいい、というメッセージを込めました。

──歌のような映画をつくりたい、とおっしゃいましたが、『シェイプ・オブ・ウォーター』の音楽は物語の雰囲気に合っており、素晴らしいと感じました。作曲家アレクサンドル・デスプラ氏の音楽を起用した理由をお聞かせいただけますか?

ギレルモ・デル・トロ監督:デスプラ氏とは以前に2回、映画『Rise of the Guardians』(2012)とテレビシリーズ『Trollhunters』(2016~)で一緒に仕事をしたことがあります。彼はとにかく素晴らしい音楽を書くんです。(名作『突然炎のごとく』や『プラトーン』などの音楽を担当し、“映画界のモーツァルト”と呼ばれた)フランスの作曲家ジョルジュ・ドルリュー(1925~1992)を彷彿とさせる作風で、『シェイプ・オブ・ウォーター』のイメージどおりの音をつくってくれると感じました。

本作は、カメラが動いていないシーンがひとつもないんです。静かで、何も起こっていないように感じられるシーンでも、ほんの少しずつ動いている。まるで水の中にいるかのように、カメラは絶えず動いているんです。デスプラ氏は、その様子にぴったり合った楽曲をつくってくれました。

また、本作は感情に焦点を当てた映画なので、感情豊かな人と製作することが大切でしたね。私自身、メキシコ人ということもあって感情が豊かですし、デスプラ氏もフランス出身だからか、豊かな感受性を持っています。そこも彼を起用した理由でしたね。

──緑と赤のコントラストなど、『シェイプ・オブ・ウォーター』は色づかいも素敵だと感じました。特に緑は、イライザたち清掃員のユニフォーム、キーライムパイやキャンディなどの食べ物、車など至るところに使われていますが、何か意味があるのでしょうか?

ギレルモ・デル・トロ監督:もちろんです。パイやキャンディ、車のほか、(イライザたちが働いているアメリカ政府の機密機関の)研究室にも緑を用いています。そして、イライザのアパートの室内も。水の中のように、青緑色で統一されています。一方、隣人のジャイルズや同僚のゼルダ、ホフステトラー博士など彼女以外の登場人物の家には、オレンジや琥珀など温かみのある色が使われていて、太陽や風などを彷彿とさせます。

ただ、イライザのアパートで唯一異なる色が使われているのが、ドア。外の世界へと通じるこのドアは、階下にある映画館の扉と同じく、赤に塗られています。また、「彼」と恋におちたイライザは、赤色のものを身に着け始めますね。赤は、愛や血などを表現する場合に用いています。

(C)2017 Twentieth Century Fox

実はこの映画にはもう一つテーマがあって、それは“時間”なんです。この映画の舞台となっている1962年は、アメリカ人が未来に目を向けている時代。作中にも「You’re the man of the future(あなたは未来を生きる男です)」、「The future is green(未来は緑です)」など、未来に関するセリフが登場します。ちなみに、最初のセリフは、アメリカ政府のエリート調査官ストリックランドが車を見ている際にカーディーラーから掛けられる言葉。この直後に、ストリックランドは、teal(「鴨の羽色」と呼ばれる、青緑色の一種)の高級車キャデラックを購入します。

このように、ストリックランドは未来に生きようとしていますが、過去にとらわれている登場人物がいたり、現在を生きている人もいたり、と“時代”も本作のテーマになっています。色は“時代”を表すためにも用いられているんです。

──監督は、今までホラー映画や怪獣映画を多く撮ってこられていますが、『シェイプ・オブ・ウォーター』には昔のクラシック映画のような雰囲気があるように感じました。そのような一面は日本のファンにはあまり馴染みがなく、新鮮でしたが?

ギレルモ・デル・トロ監督:映画監督というものは、オタクなのか、あるいは世界的に有名で偉大な人なのか、といった具合に、常にカテゴリー分けされる存在であるように思います。ただ、私の場合は、自分のある一面を表現するために、映画を一作つくっているイメージなのです。

たとえば、ゴシック・ロマンス好きの一面を披露するために『クリムゾン・ピーク』(2015)を製作した。怪獣への愛を表すために『パシフィック・リム』を、そしてクラシック映画が好きな側面を見せるために本作『シェイプ・オブ・ウォーター』をつくったのです。なので、私の作品を見続けていくうちに、「なるほど、この監督はこれら全部が好きなんだ」「この監督はこれらすべてで構成されているんだ」というふうに感じてもらえたら。

『クリムゾン・ピーク』は、『パシフィック・リム』とはまったく違いますし、『パンズ・ラビリンス』とも異なります。『デビルズ・バックボーン』(2001)と『ヘルボーイ』(2004)もまったく違う。ただ、これらすべての映画を観ると、そこには間違いなく私がいるんです。そこに存在する何かは、紛れもなく私なのです。

だからこそ、私がつくる映画はそれぞれがまったく違うようでいて、実はかなり似ている部分もあるように感じます。

──『シェイプ・オブ・ウォーター』を観て、愛は分断を超えることができる唯一の方法だと強く感じました。分断を象徴する動きの一つに、米ハリウッドから広まった性暴力反対運動「#MeToo」がありますが、この運動について監督はどのようにお考えですか?

ギレルモ・デル・トロ監督:私は、愛することの反対は、ひとことで相手を言い表そうとすることだと思っています。たとえば、私を「メキシコ人」と呼ぶ。あるいは“女性”や“ユダヤ人”など、たったひとことで相手を表現しようとする行為には愛を感じません。人は皆、複雑でいろいろな面を持っているからです。

では、愛は何なのかというと、相手を理解することです。ありのままの、複雑な部分を持っている相手を見て、理解しようとする。理解しようとする行為と、愛するという行為は、同じだと思いますね。

今、世の中では「#MeToo」運動が巻き起こっていますが、女性に対するセクハラなどの行為は実に何百年と続けられてきたことです。そして、映画業界に限らず、靴、金融、不動産など、ありとあらゆる業界で繰り返されてきています。

映画監督である私は、女性俳優が輝けるいい役を用意する、男性俳優と女性俳優の報酬を同等に設定し、同等のリスペクトを持つなど、自分の考えを前々から行動で示してきています。もっとも大切なこと、もっともやらなければならないことは、まずは自分の周りにしっかりと意思表示をすることだと思います。

(C)2017 Twentieth Century Fox

3月1日(木)から全国公開される映画『シェイプ・オブ・ウォーター』。米ロサンゼルス・ハリウッドにて現地時間3月4日(日)に行われる、第90回アカデミー賞授賞式の結果が見逃せません。

(取材・文:Aya Satoh Hoshina)

『シェイプ・オブ・ウォーター』についての記事を読む

関連記事

大きな恐怖に包まれた時代にも、愛は生まれる『シェイプ・オブ・ウォーター』の魅力を力説
アカデミー賞、最多13部門ノミネート『シェイプ・オブ・ウォーター』とは?
誰も観たことがない究極のファンタジー・ロマンス!『シェイプ・オブ・ウォーター』とは?
第90回アカデミー賞、全ノミネート一覧!『シェイプ・オブ・ウォーター』13部門、『ダンケルク』8部門!
第75回ゴールデングローブ賞ノミネート作品が発表!『シェイプ・オブ・ウォーター』が最多7部門ノミネートに!


    ライタープロフィール

    Aya Satoh Hoshina

    Aya Satoh Hoshina

    人生の約半分を海外で過ごした、日英翻訳者&ライター。米ハリウッド近くの大学に通っていた頃は、「さっき○○を見かけたよ!」「○○と今期同じクラスなの!」といった具合に、友人と俳優&セレブ目撃トークで盛り上がっていました。印象に残っている映画は、『グッドモーニング,ベトナム』『インドシナ』『ゼロ・ダーク・サーティ』『トロイ』など。血みどろなシーンは苦手ですが、極限下で繰り広げられる人間ドラマが好きで、戦争や紛争を題材にした映画を選ぶクセがあります。

    ピックアップ

    関連記事

    新着記事

    WP Facebook Auto Publish Powered By : XYZScripts.com