「TAP THE LAST SHOW」踊る。踊る。踊る。踊る! 踊る!! 踊る!!!

■「役に立たない映画の話」

(C)2017 TAP Film Partners

「水谷豊は、映画監督をいつかやると思っていたよ」。

後輩 先輩、最近涙もろくなってませんか?

先輩 この間、眼科で診てもらったらドライアイがひどいようで、なんでもおれの涙の量は、常人の3分の1ぐらいしかないそうだ。

後輩 いや、医学的なことではなくて・・・。

先輩 もともとおれは泣き虫だから、泣ける映画を見た後なんて、もうぼろぼろだぞ(笑)。

後輩 「TAP」のシナリオを読んで、高田馬場のサイゼリアで泣いたって言ってましたよね。

先輩 ピザ喰いながらな。我ながら恥ずかしい。でも、良いシナリオだったことは事実。

後輩 で、映画になった「TAP」を見てどうだったんですか?やっぱり感動で涙が出ましたか?

先輩 うん。でもシナリオを読んで感動した箇所と、映画で「ここは良いなあ」と思うシーンが違っていた。そのあたり、活字を読むのと映像を見て感じることの違いはあるだろうけど、水谷豊監督のデビューは成功したんじゃないかな?

後輩 その水谷豊が監督に挑戦してタップダンスの映画を作ったというのが、この映画の話題のひとつなんですが、果たして彼は映画監督をやってみたかったのか、タップダンスの映画を作りたかったのか、どっちなんでしょう?

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先輩 うーん・・・・たぶん、両方だろうな。

後輩 両方?

先輩 こないだ本棚から「幸福」という、水谷豊が1981年に主演した映画のメイキング本を見つけて、久々に読んでみたんだけど、これに掲載されたインタビューでも、「ああ、この人は監督をやりたいんだな」と感じさせる発言があるんだよ。はっきりと「監督をしてみたいです」とは言ってないけど、クリエイティヴな仕事をしたいのだなあ、と。

後輩 タップダンスについても、愛着があったのでしょうか?

先輩 自分が踊ることよりも、23歳の時にブロードウェイで見たタップダンスのショウにショックを受けたそうだよ。だから、おそらく「自分で監督するのだったら、タップダンスの映画で」と決めていたんじゃないかな?

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「クライマックスの乱舞は、言葉で言い表せない感動が湧きあがってくる」。

後輩 でも、タップのドキュメンタリーを撮ったわけではなく、ドラマなんですよね、この映画は。

先輩 もちろんだ。何というか、普遍的な内容のドラマだよ。かつて花形ダンサーだった男が負傷して現役から退いたものの、若いダンサーたちの指導をし、その懸命な姿を見ているうちに、もう一度タップダンスに賭けてみようと決心するお話だ。

後輩 で、先輩が感動して、みっともなく涙したってぇのは、どのあたりなんですか?

先輩 みっともなくて悪かったな。それはラストシーンなんだが、さすがにこの部分はネタバレするわけには行かない。でも、岸部一徳、六平直政といった個性的な面々が、実直な演技で静かにドラマを盛り上げるぞ。

後輩 最高の見どころはダンス・シーンなんでしょ?

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先輩 そうだ。クライマックス24分間のタップダンスの乱舞は、まさに圧巻。とにかく踊る、踊る、踊る!! そのダイナミズムに打たれたのか、見ているうちに涙が出てくるんだよ。なぜか分からないんだけど、胸が熱くなる。そして言葉で言い表せない感動が湧きあがってくる。この辺りはやっぱり映像の力だね。優れたシナリオであっても、このシーンの素晴らしさを文字にして表すことは不可能だ。

後輩 映像だからこそ、表現出来る。

先輩 そうだ。今回水谷監督は、タップダンスの映画を撮るために、俳優にタップを習わせるのではなく、タップの経験のある俳優やタップダンサーたちに演技をさせた。すべてはこのシーンで本物の迫力を見せるためだったんだなあ。

後輩 すべてはこのクライマックスのために・・。

先輩 水谷監督は「以前、ブロードウェイでショウを見た時、涙が溢れてきたことがありました。本当に凄いダンスは、それだけで涙が出るものだと知ったのです」と言っている。つまり、この映画でそれを観客にも味わって欲しかったんだろうね。

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「映画という手段をとったのは、水谷豊が生粋の映画人だったからじゃないかな?」

後輩 でも、それだったら映画でなくてライブのステージのほうが良くないですか?迫力がありますし。

先輩 確かにその通りだ。ステージという手もあるし、テレビドラマにする方法もあっただろう。でも、映画にすることによって、全国のたくさんの人に見てもらえる。あのシーンの迫力を感じてもらえる。それと、最近では「相棒」の右京さんでお馴染みだけど、やっぱり水谷豊という人は、生粋の映画人だと思うんだ。長谷川和彦、工藤栄一、市川崑、降旗康男、出目昌伸、和泉聖治・・と、錚々たる監督たちの作品に出演し、演技を続けてきた。彼が今回監督業に挑戦したのも、そうした巨匠たちとの邂逅が影響しているだろうし、映画という手段を選んだのは彼の中では自然なことだったと思うよ。

後輩 なるほど。じゃあ監督2作目は考えているんでしょうかね?

先輩 さあ。ブロードウェイで見たショウと同じぐらいのインパクトがあり、映像で表現することがベストだと思った題材があればやるんじゃないかな?

後輩 これを機会に監督に転身するつもりはないのでしょうね。

先輩 ちなみにこの「TAP」には「の・ようなもの のようなもの」の杉山泰一監督が監督補として参加しているんだ。水谷監督のデビューを支えたわけだが、その後「相棒」のseason15の監督としてローテーション入りしているから、水谷監督も彼の腕を見込んだのだろうね。

後輩 本当ですか!? 「の・ようなもの のようなもの」、大好きな映画です!!

先輩 そういう形で、色々な人がチャンスに恵まれる。素晴らしいことじゃないか。

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(企画・文:斉藤守彦)


    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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