『保健教師アン・ウニョン』現代女性の幸福と生き方を問う「3つ」の見どころ!

第31回:『保健教師アン・ウニョン

今回ご紹介するのは、前回この連載でも取り上げた『82年生まれ、キム・ジヨン』のチョン・ユミ主演による、Netflixオリジナルシリーズ『保健教師アン・ウニョン』です。

日本でも翻訳本が出版されている、チョン・セランの小説「保健室のアン・ウニョン先生」を実写化した、全6話のドラマシリーズなのですが、予告編の映像からは霊能力を持つ保健の先生が、悪霊や妖怪から生徒たちを守るポップなゴースト退治もの? そんな印象を受ける本作。

気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものなのでしょうか?

ストーリー

保健教師のアン・ウニョン(チョン・ユミ)が新しく赴任した私立木蓮高校では、原因不明の怪奇現象や不思議な出来事が次々に巻き起こっていた。子供の頃から霊能力を持つウニョンは、BB弾を発射するオモチャの銃と、レインボーカラーに輝くオモチャの剣を武器に、同僚の漢文教師ホン・インピョ(ナム・ジュヒョク)の助けを借りて、さまざまな謎や邪悪なものたちに立ち向かう。はたして木蓮高校には、どんな秘密が隠されているのか?

予告編

見どころ1:第1話からすでにクライマックス!

第1話の冒頭、子供時代のウニョンと母親が先生と面談しているシーンでの違和感や、校庭にいる父親との距離感からも伝わるように、子供の頃から備わっていた霊能力が、彼女の人生を大きく変えてしまったことが描かれる、この『保健教師アン・ウニョン』。

そこから一気に話は現在へと飛んで、高校の保健教師として赴任したアン・ウニョンが、校舎内を浮遊する霊体を一つずつ封印していく日常描写へと繋がっていきます。

後述するように、さまざまな謎や伏線が散りばめられている本作ですが、第1話では大勢の生徒の前で女子生徒に男子生徒が告白する! という大イベントの中、学校の地下室に隠された秘密の封印が解かれ、地下から出現した巨大な妖怪とアン・ウニョンが対決する寸前で終了するという、もはやそのまま第2話を再生するしかないクライマックスが用意されているのは見事!

地下室から溢れ出す大量の妖気に憑依された大勢の生徒たちが、ゾンビの大群のように屋上に押し寄せ次々に飛び降りようとする上に、目の前には巨大な妖怪が迫ってくる! これに対してウニョンの武器は、なぜかレインボーカラーに光るオモチャの剣とBB弾を発射するオモチャの銃。しかもBB弾の使用は一日に22発まで、剣の方は一日に15分まで使用可能という制限が設定されている始末。

この絶対的に不利な状況の中、果たしてウニョンは生徒と学校を守り、この巨大な妖怪を退治することができるのか?

予告編にも登場する、こうしたハデな見せ場が目を引くだけに、てっきりCG合成がメインのエンタメ作品と思ってしまいそうですが、意外にも2話の中盤以降は生徒たちの問題やウニョンの過去、更に次第にその姿が明らかになる謎の教団組織“安全な幸福(HSP)”の存在など、CG合成やハデな見せ場は影を潜め、現実の社会問題や女性の自由な生き方を問う内容へと変化していく本作。

予告編で観た映像の感じから、明るいポップなゴーストバスターズもの? そんな印象を抱いた方にこそ、ぜひ観て頂きたい作品です。

見どころ2:散りばめられた伏線と謎に注目!

前述した通り、平和な学校の地下室に隠された重大な秘密や、ウニョンが木蓮高校の保健教師になった経緯、更には学校を狙う謎の教団組織“安全な幸福(HSP)”の存在など、とても全6話では描ききれない情報量とスピーディな展開に、ついつい次のエピソードを再生してしまう、この『保健教師アン・ウニョン』。

第2話で登場する、ある生徒を霊体から守るためにウニョンとインピョが考えたトンでもない方法からも分かるように、基本的には主人公ウニョンや漢文教師インピョのキャラクターが光るコメディでありながら、先の展開に通じる伏線や謎が巧妙に隠されている点も、このドラマの大きな魅力となっています。

例えば、第1話の冒頭に登場する木蓮高校の朝の日課である奇妙な体操にも、実は重要な秘密が隠されていたり、どこか違和感を覚える前理事長の肖像画に隠された謎や、ある人物の座り方が別の人物の座り方と似ているなど、気を抜くと見逃してしまいそうな細かい描写が、実は重要な伏線だったことに気付かされる演出も実に上手いのです。

加えて、アン・ウニョンの唯一の親友で良き助言者だった人物の正体や、実はウニョン自身も“安全な幸福”と過去に関係があったことが明らかになるなど、エピソードごとにテイストを変えながら、次第に木蓮高校に隠された謎や陰謀が浮かび上がってくる展開は見事!

ウニョンにしか見えないはずの霊が見えているらしい新任英語教師のマッケンジーを始め、すでに木蓮高校の深部にまで入り込んでいる“安全な幸福”との今後の対決も気になるところですが、ウニョンが子供の頃から大事に持っている恐竜のおもちゃや、シリーズ最大の謎である”なぜか必ず登場するアヒルの群れ”の理由など、第1シリーズで解明されないままの謎も多い本作。

全話鑑賞後に観返すと、実は第1話の冒頭で子供時代のウニョンと”あの女の子”が、すでに出会っていたことに気付かされるなど、まだまだ謎や伏線が満載の作品なので、全力でオススメします!

見どころ3:実は女性の生き方を描く内容だった!

第1話の展開から、学校を襲う悪霊や妖怪とアン・ウニョンが派手な戦闘を繰り広げるコメディタッチの作品に思えていた印象が、ストーリーの進行と共に次第に覆されていく本作。

中でも第4話から登場する転校生ヘミンの存在は、本作のテーマや問題提起をより際立たせるものとなっています。

一見、普通の女子高生に見えるヘミンですが、その正体は、人間の不運と不幸を招くダニ型の悪霊を捕食して退治するために、数百年前からこの世に出現しては転生を繰り返してきた、人間ではない存在。

これまでは、ずっと男性の姿でこの世に出現してきたヘミンですが、今回は初めて女性の姿に生まれ変わったことが、本人の口から明かされます。

ウニョンや保健室に集まる生徒たちと交流を深めるうちに、学校生活の楽しさや女性としての意識に目覚めるヘミン。しかし、ヘミンのような”ダニ捕り”たちは20歳までしか生きられず、しかも自分の担当地区から半径5.38キロ以上離れられないという運命にあったのです。

このまま人間として皆と生活したいと願いながら、「自分が”ダニ捕り”でなくなったら、この学校と友達が不幸になってしまうから」と、”ダニ捕り”としての運命を受け入れようとするヘミンに対し、ウニョンは彼女の願いを叶えさせるため、ある選択をすることになるのですが…。

男性の姿から女性として転生したヘミンが経験する、さまざまな制約や差別には、『82年生まれ、キム・ジヨン』でも描かれていた、自分の夢や将来を犠牲にして家族に対する責任を果たすという、それまで模範的とされてきた女性の生き方に対する問題提起が含まれています。

更に、第5話に登場するもう一人の重要な人物である、高校時代にウニョンの隣の席だったガンソンとの哀しい再会には、建設機械よりも人間の命の方が軽く扱われる、厳しい社会状況や労働環境が描かれているのです。

加えて、なぜウニョンが悪霊と闘うための武器が、レインボーカラーに光るオモチャの剣とBB弾を発射する銃なのか? その理由がガンソンとの出会いにあったことが語られることで、ありのままのウニョンを理解してくれた人々の存在が、現在の彼女を動かす原動力となっていることが明らかにされていく本作。

この他にも、女子生徒同士の恋愛や貧困家庭の生徒に対する差別・いじめなど、韓国の抱えるさまざまな現実問題が込められた内容は、先週の連載でもご紹介した同じチョン・ユミ主演の『82年生まれ、キム・ジヨン』を観た方なら、大いに共感できるものとなっているのです。

最終第6話のラストで見せた、ウニョンの表情の意味が非常に気になるところですが、まずは一日も早い第2シリーズの登場を待ちたいと思います。

最後に

注:以下は若干のネタバレを含みます。鑑賞後にお読み頂くか、本編を未見の方はご注意の上でお読み下さい。

自身の霊能力のおかげで苦しい人生を歩みながら、それでも生徒と学校を救うために孤軍奮闘するアン・ウニョンを、少女のように豊かな表情で演じるチョン・ユミ。彼女の表情の変化を見るだけでも、今回の実写化は大いに価値があったと言えるでしょう。

加えて、木蓮高校の生徒たちを演じる個性的なキャスト陣の演技のおかげで、霊に憑依された生徒たちの集団パニックシーンが迫力満点の見せ場となっている点も、本作成功の要因となっているのです。

ただ欲を言えば、主人公アン・ウニョンのキャラクターが定まっていないためか、第1話とそれ以降とで、主人公の印象が微妙に違って見えるのも事実。

とはいえ、CGに頼ったハデな見せ場や同僚教師のインピョとのラブコメに走ることなく、アン・ウニョンが歩んできた過去の人生や、ダニ退治のために何度も転生を繰り返し、決められた地域の外に出ることを許されないヘミンの状況が、多くの女性や主婦の立場を連想させるなど、実は現代女性が置かれた厳しい状況や差別が根底にある内容は、同じチョン・ユミ主演の『82年生まれ、キム・ジヨン』に通じるものと言えるのです。

ヘミンが人間として生まれ変わったのと入れ替わるように、突然自分の霊能力を失ってしまったアン・ウニョン。彼女は学校に辞表を提出し、普通の生活に戻ろうとするのですが、ちょうどその頃、ある生徒の手によって地下室の封印が解かれてしまいます。

地下室から溢れ出した大量のゼリー状の霊体が、校舎内の生徒や先生に憑依し始めたことで、ついに木蓮高校は休校状態に陥り、廃校の是非が議論される事態に。

学校と生徒の危機を救うため、ウニョンはインピョの助けを借りて最終手段に出るのですが、果たして霊能力を失ったウニョンは学校と生徒を救えるのか?

予想外に濃密な人間ドラマとアン・ウニョンが直面する人生の選択を経て、ついに迎えるその結末を、ぜひご自分の目で目撃頂ければと思います。

作品情報

Netflixオリジナルシリーズ『保健教師アン・ウニョン
独占配信中

(文:滝口アキラ)

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    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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