映画人・斎藤工のコロナ禍と対峙し続ける頼もしき“活動屋”的行動の実践!
ようやく国内の非常事態宣言は解除されましたが、まだまだ気は抜けず、完全に元の世界に戻るにも時間はかかりそうです。
そんな新型コロナ・ウイルス・パニックのさなか、映画人も自粛を余儀なくされつつ、その中で何をやればいいのか奮闘していた人も少なくありません。
斎藤工もそのひとりです。
1981年8月22日生まれ(現在38歳)の彼は、幼少期より映画に親しみ、その虜になりながら成長し、モデルを経て2001年に映画『時の香り~リメンバー・ミー』で俳優デビュー。
その後も製作規模の大小、スタイル、ジャンルなどにこだわることなく、現場そのものの魅力に導かれながら多数の作品に出演し、今に至っています。
また2012年に短編映画『サクライロ』で監督デビューを果たし、2014年『半分ノ世界』以降は監督活動の名義を本名の“齋藤工”とし、初の長編映画『blank13』では第20回上海国際映画祭アジア新人賞部門最優秀監督賞を受賞。
映画的活動は出演や制作の域に留まらず、2014年には映画館のない地域に映画を届ける移動映画館プロジェクト《cinema bird》を始め、そうした功績を讃えられて2019年に日本映画ペンクラブ賞特別奨励賞を受賞しています。
そんな斎藤工ですから、世界を揺るがすコロナ禍に対しても、ただ黙っているはずもありません……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街471》
今回は、そんな斎藤工のコロナ禍に立ち向かいながら映画を護ろうとする(まさに彼が主演する映画『シン・ウルトラマン』さながら!)活動のいくつかに着目していきたいと思います。
過剰な自主規制や忖度に物申す
『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』
(C)EAST FACTORY INC.
まずは今年2月21日より公開された、齋藤工が企画・原案・撮影・脚本・総監督ほかを手掛けた映画『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』の紹介から始めていきましょう。
コンプライアンス“COMPLYANCE”とは「法令順守」といった意味があります。
そもそも規制されてないにも関わらず、最近は少しでも問題が起こらないように、あらゆる表現を控え目にしてしまうという“自主規制”や“忖度”の過剰化。
そんな表現の自由まで狭められてきている現代日本のコンプライアンス問題に対して危惧する斎藤工が放送&映画業界に一石、二石、いや百万石を投じよう(!)という意欲の許に制作された、実にユニークで面白いエンタテインメント作品です。
映画は大きく3つのパートに分かれています。
斎藤が「天才」と称する岩切一空監督による、華村あすかなど若手女優陣を起用しての情感豊かな実写映画パート。
ほぼひとりですべての制作を手掛ける気鋭の人形劇作家・飯塚貴士監督によるクレイ・アニメーションのパート。
そして齋藤工自身が演出したパートは、ひとりのタレント(秋山ゆずき)にTVスタッフが取材を敢行するというものなのですが……。
周囲に写りこむさまざまなものがコンプライアンス的に「ヤバい」ということで、どんどん画面にモザイクがかけられていきます。
また彼女が発言する一言一言に対して、たとえば「ディ●ニーランドはまずいよね」といった感じで、どんどん発言の変更、もしくはピー音が施されていきます。
そういった「何じゃこりゃ?」という、まるでナンセンス・ギャグ漫画の中で繰り広げられているようなことが、今や現実に、普通に起きていることを描いた作品なのでした。
彼は往年の「スネークマンショー」に影響されて本作を企画するに至ったとのことですが、映画を通して社会を鋭く(そして映画として面白く)風刺しようとする姿勢は、今の若者層を中心とした客層にフィット。
また劇場舘のアップリンク渋谷&アップリンク吉祥寺では劇中歌を歌うラッパー狐火による劇中ライヴを行うという〈体感上映〉など、映画の新しい上映スタイルを試みています。
そんな折、今回の新型コロナ・ウイルス・パニックのあおりを受けての、全国の映画館休館に伴う上映の中断!
(※現在は非常事態宣言解除により、徐々に上映再開されるところも増えてきています)
しかし、斎藤工はめげません。
では、コロナ禍の逆風に彼はいかに立ち向かっていったのか?
オンラインシアターにおける
積極的な映画活動の数々!
現在さまざまな形でミニシアターなど映画業界を支援しようという運動が起きていることは、以前本サイトでも幾度か紹介させていただいたことがありました。
□ミニシアター支援のさまざまな方法
□『カメ止め』だけではない!続々登場、リモート映画の勧め!
その中で、本来ならこの時期に上映予定であった新作や過去上映作品などを期間限定でデジタル配信し、その収益を劇場と配給会社、製作サイドで分け合うというシステムの“オンラインシアター”があります。
斎藤工はこうした一連の支援活動を応援しつつ、オンラインシアターのひとつ《STAY HOME MINI-THEATER》(Powered by mu-mo Live Theater)に参加。
具体的には定期的に短編作品を制作し、そのつどこの場でお披露目していくというものですが、加えて5月21日には『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』オンライン体感上映が開催されました。
これは劇中歌を歌う狐火がリモートで劇中のラップパートをライヴ配信し、飯塚監督によるアニメ・パートの脚本をコロナ禍の今に合わせて新たに構築し、斎藤工と秋山ゆずきがテレワーク・アフレコ生配信するという、オンライン上映のシステムをフルに活かした、まさに“今”の時代に応じた優れものになっていました。
そして今度は同シアター内【SCREEN❶-A】にて、『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』オンライン体感上映の再挑戦に加えて、およそ20分の予定となる短編映画『C●RONAPLY+-ANCE』プレミア上映が開催されます。
これは映画『COMPLY+-ANCE』の齋藤工監督パートによる、あの“史上最低の取材”の悪夢が、コロナ禍に即しての“リモート取材”によって蘇る(!?)というもの。
いわば『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』の続編といったもので、当然キャストも秋山ゆずきをはじめ平子祐希(アルコ&ピース)、斎藤工、大水洋介(ラバーガール)、古家翔吾(元)・曇天三男坊 現・TCクラクション)といった前作の面々が再集結!
もちろん監督は斎藤工です。
★『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』オンライン体感上映+『C●RONAPLY+-ANCE』プレミア上映のスケジュールは以下の通り。
【SCREEN❶-A】
5月29日(金)19:30~
(チケット1800円)
また『C●RONAPLY+-ANCE』に加えて、これまで制作し、同シアターでお披露目してきた『TOKYO TELEWORK FILM #1』『同 #2 潜入!限界集落』『同 #3 HOME FIGHT』の一挙上映も【SCREEN❶-B】にて開催されます。
2020年3月下旬の東京都外出自粛要請を受け、自宅環境での娯楽の選択肢として特別WEBサイト《A TAKUMI SAITOH FILM》を立ち上げ、これまでの齋藤工監督作品や出演関連作、レコメンド作品などを随時更新し続けています。
http://www.b-b-h.jp/film
『TOKYO TELEWORK FILM 』もそうした彼の行動の一環で、コロナ禍に屈することなく、“Stay at HOME”をテーマに日常化するテレワークを舞台にした映画企画シリーズです。
現在3作品が制作されていますが、いずれも監督・脚本・編集は清水康彦、企画・プロデュースは斎藤工。
『TOKYO TELEWORK FILM #1』は、伊藤沙莉や大水洋介(ラバーガール)、酒井健太(アルコ&ピース)などをテレビ電話で招いてのリモート・ドキュメント。
『同 #2 潜入!限界集落』は斎藤工とお笑い芸人の永野が一般人のオンライン飲み会に参加するというドッキリ企画。
そして『同 #3 HOME FIGHT』は、伊藤沙莉が在宅自粛を余儀なくされている妹を、大水洋介(ラバーガール)が頼りない兄を演じるリモート会話劇です。
(これはマジに面白い! ジワジワとシニカルな笑いが醸し出されていき、ふたりのキャストの個性と魅力もすこぶる引き出されたリモート映画の快作と言えるでしょう!)
【SCREEN❶-B】『C●RONAPLY+-ANCE』プレミア上映+『TOKYO TELEWORK FILM #1』『同 #2 潜入!限界集落』『同 #3 HOME FIGHT』一挙上映は以下のスケジュールです。
★5月31日(日)14:00~
★6月7日(日)17:00~
(共にチケット1500円)
※【SCREEN❶-A】【SCREEN❶-B】どちらの上映も、詳細はサイトをご覧ください。
https://stayhome-minitheater.com/
俳優として、監督として
まだまだ続く新たな挑戦
斎藤工の挑戦はまだまだ続きます。
現在、彼は樋口真嗣ら5人の監督がコロナ禍と対峙すべく発動させた“カプセル怪獣けいかく”の一環として樋口が原案、岩井俊二が監督・脚本・造詣を務めた超短編リモート映画シリーズ『8日で死んだ怪獣の12日の物語』に主演しています。
これは斎藤工本人が正露丸くらいの大きさの白い卵から怪獣を孵化させ、育てようとするもので、YouTubeの《岩井俊二映画祭チャンネル》にて毎朝更新中。
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コロナ禍でずっと自粛している斎藤工の日々の姿(イケメンって無精ひげですらオシャレに映えるのですね)を見られて、ファンはさぞ嬉しいことでしょうが、ドラマそのものもなかなかマニアックでウルトラ怪獣ファンならにんまりすること請け合いです。
基本的に1話1分30秒くらいの尺ですが、5月27日配信の第8話は3分34秒になっていました(なかなか残酷で哀しい回でした……)。作る側もどんどん面白くなってきていることの証左かもしれません。
もちろんこうしたテレワーク活動のみならず、非常事態宣言解除後も『糸』『劇場版ひみつ×戦士ファントミラージュ!~映画になってちょーだいします~』『騙し絵の牙』『HERO~2020~』と、新作映画が続々と待機中。
そして2021年には今なお多くのベールに包まれている庵野秀明・企画&脚本、樋口真嗣監督による空想特撮映画『シン・ウルトラマン』が公開予定!
監督活動としても、竹中直人、山田孝之と共同監督した『ゾッキ』が、2021年公開を目指して鋭意制作中です。
斎藤工のこういった映画的活動の姿勢とその意欲的実践は映画業界のみならず、現在のコロナ禍の中、特に自粛が解消されたことに喜ぶ反面、今後どういう風に行動していけばよいのかと悩み、時に立ち止まってしまいがちな人々にも何某かの啓蒙を与えてくれるような気がしています。
映画人のことをかつては“カツドウヤ”と呼んでいた時期がありましたが、彼などはまさに現代の“活動屋”として讃えるべきでしょう。
どんな逆境にもめげることなく、しかと対峙して、まずは動いてみること。
少なくとも昨今の彼の行動の数々からは、巧まずしてそういった頼もしいアドバイスが感じられてなりません。
後はいかにこちらも彼に倣って続いていくか? でしょう。
(文:増當竜也)
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