映画『ヴェノム』が乗り越えた5つの壁に迫る!!

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公開されるやいなや、全米の10月公開作品として新記録を出す大ヒットスタートを飾った映画『ヴェノム』。

実際に作品は主演のトム・ハーディーのはまり具合もあって、見事な娯楽大作に仕上がっていて、アメコミファンならずとも必見の娯楽大作映画に仕上がっています!

今回はそんな『ヴェノム』に関しての「壁」のお話です。

実は超難産企画

ところが、この映画『ヴェノム』、実は超難産企画でありました。

ぼんやりとした企画自体は90年代後半にはあったと言いますからなんと20年越しの企画であったりもします。

今ではちょっと信じられない話ですが、90年代半ばまでマーベルコミックスは経営難もあって、コミックの映画化権を安くあっちこっちに叩き売っては、安っぽい映画を生んで回るという黒歴史の真っただ中にありました。

そのころの作品の写真などは調べれば見ることができますが、がっかりすること間違いなしなのでお薦めはしません。

いい加減この負のスパイラルから脱したいと思っていたマーベルは自社の映画制作部門マーベルスタジオズを創設して、自分から映画を発信していきます。

その後は『ブレイド』→『X-MEN』→『スパイダーマン』→『アイアンマン』から始まるMCU(マーベル・シネマンティック・ユニバース)へと一気に勝ち組に回っていきます。

ただ、光があればもちろん影もあって、マーベルの連勝街道の脇を見ると微妙な顔をした作品たちが寂しそうに立っています。『ヴェノム』はまさにそんな微妙な作品の中に長い間いました。それでもいくつもの壁を乗り越えて、ついに文句なしの勝ち組映画の仲間入りを果たそうとしています。

果たしてヴェノムはどんな壁を越えてきたのか、そしてその超えた壁の先にある、たまらない期待に迫ってみました。

最初の壁:残念過ぎる初登場

ヴェノムはマーベルスパイダーマン大全によると86年に初めてスパイダーマンのヴィラン(=悪役)として登場しました。
 
スパイダーマンが62年にマーベル映画にカメオ出演することでお馴染みのスタン・リー(白髪でサングラスのおじいさん)によって生み出されたことを考えると、ヴェノムは実は存在のインパクトに比べると意外と新参・後発のヴィランでした。
ということで、実は思い入れが浅い人もいます。
トビー・マグワイア主演版『スパイダーマン』の監督サム・ライミもまたその一人でした。
数万冊のコミックを持っているという生粋のコミックファンでもあるサム・ライミですが、自分の少年時代(59年生まれ)を彩った時代のものに特に愛着があったようです。

そんな中で“それでも人気キャラなので”という大人の事情もあり『スパイダーマン3』でヴェノムが登場します。

ただ、ここで登場したヴェノムに対してコアなファンは小柄で痩せっぽちで小悪党なエディ・ブロック=ヴェノムに強烈な違和感を抱きました。

演じたトファー・グレイスには申し訳ないですが、今回トム・ハーディーが適役!!とファンから歓迎されたのですから、やっぱり『スパイダーマン3』のヴェノム=エディ・ブロック=トファー・グレイスというはチョイスミスだったと思われます。(気に入られていた方、申し訳ありません!!)

こういうディープなファンではなく、もっと単純に娯楽大作シリーズの3作目として『スパイダーマン3』を見たライトな方々にとってはもっと印象が薄く感じたのではないでしょうか?なにせ、『スパイダーマン3』にはニュー・ゴブリン、サンドマン、ヴェノムとヴィランが3人も登場したうえに、スパイダーマン自身がブラックスーツを纏ったりと、お話もキャラも渋滞気味で、結果、普通に見ているとヴェノムは“なんかいつの間にか登場してあっさり消えたキャラ”にしか見えませんでした。

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第2の壁:リベンジ戦は登場すらできなかった

実は4~6まで行くつもりもあったサム・ライミ版スパイダーマンですが、3で打ち止めとなりました。それでもヒットコンテンツであるスパイディを放っておく話はありません。
というわけで07年に『3』からわずか5年で仕切り直しの『アメイジング・スパイダーマン』シリーズとしてリブート企画がスタートしました。

また“蜘蛛に噛まれるところから始まった”新シリーズですが、このころにはもうMCU映画が軌道に乗っていて、これに合流してこないスパイダーマンはどこか微妙な立ち位置となってしまいました。

前の3部作の印象も強かったこともあってか、『アメイジング…』シリーズは大コケではありませんが、大成功でもないという映画になりました。

それでも続編の『アメイジング・スパイダーマン2』が制作され、改めてハリー・オズボーン=グリーン・ゴブリンが登場したり、ヒロインがメリー・ジェーンからグェイン・ステイシーに変わったりして新味を必死に出していっていました。

このころは『アメイジング…』は『アメイジング…』でブランド化してシリーズを推し進めていく気持ちがまだありました。

実際に『アメイジング・スパイダーマン2』はいろんなものを匂わせて終わります。
後から、“これがこのシリーズの最期の映画です”と何も知らない人に言ったら、そんな馬鹿な!!と怒られるかも知れません。

この『アメイジング2』のラストでは“シニスターシックス”というスパイダーマン世界のヴィラン同盟の存在がはっきりと描かれます。『スーサイド・スクワット』みたいな存在です。

いくつかの話がありますが『アメイジング3』の前に『シニスターシックス』を映画化して、そこにドクター・オクトパスなども再登場してヴィランチームの活躍を描く予定でした。そして、『スパイダーマン3』のリベンジ!!という気持ちもあってその中心にヴェノムを据える予定でした。ところが『アメイジング…』とファンの気持ちの距離感がどうにも埋まらず、どうしたものかと頭を抱えている横でMCU映画がどんどん大ヒットを連発し行きます。そして、とうとうあきらめて『アメイジング…』は終了、MCUに合わせた形でスパイダーマンをまたまた仕切りなおすことになりました。

ということで、なんと“ヴェノム第2ラウンド”はヴェノムが登場することすらできずに終わりました。

『スパイダーマン』の1が02年に公開され来年の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』までが決定済み。なんと17年の間に3回仕切り直しがあって、その間に9本も実写映画があるというのですからちょっとすごい話ですね。

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第3の壁:本当の悪役を主人公にできるのか?

ヴェノムというキャラを一言で言えば”ダークヒーロー”ということになりますが、果たしてこの言葉、本当に当てはまっているでしょうか?

ダークヒーローと言えばまず真っ先に挙がるのがバットマンでしょう。蝙蝠の衣装に身を包み犯罪都市ゴッサムシティでヴィジランテ=非合法自警行為ヒーローです。

ダークという言葉通り映画の大半は宵闇の中で進み、とにかく絵面が暗いです。

ドラマで大ヒット中の『アロー』なんかもそうですね。アメコミではありませんが『デス・ウィッシュ』や『マッドマックス』の主人公もこれに当てはまると思います。

そうなんです!現行法や一般倫理観に照らし合わせて見ると異論は出るかもしれませんが、基本的に“ダークヒーローも正義の味方であることは変わりありません”

ところがヴェノムは最近の原作コミックではだいぶ品行方正になっていますが、文字通りの悪役です。

映画『ヴェノム』は文字通りの悪役をどうにかしてヒーロー=善行を行う人と描かなければいけない映画となりました。

余談ですが、来年にはホアンキン・フェニックス主演で『ジョーカー』というバットマンシリーズきっての悪役を主役にした映画が登場予定ですが、こちらもどうするつもりなのでしょうね?

結果、どうしたかというとスパイダーマンと距離を置くことで(大人の事情で簡単に出せないということもありますがw)、ヴェノムに対しての“正義・善”のキャラを映画の中に登場させないことでヴェノム=悪役という図式をまず崩しました。

単純な方法でしたが、これで気持ちよくヴェノムに感情移入できるようになりました。
さらに劇中にもっと陰湿なタイプの人間や、解決するのに方法論などに構ってられないような危機を作ることで“人間を喰ってエネルギーとしている宇宙生物”がヒーロー然とスクリーンに映っていてもいつの間にか違和感を感じなくなりました。

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第4の壁:主役は誰に?

さてさて、”本当の悪役を、ヒーローとして描く”ことを上手くやっていけそうな感じになりましたが、じゃあ、誰に演じてもらおうかという段になってまた話が詰まります。

そんな中で地の演技力でもアカデミー賞にノミネートされた経験もある一方で『マッドマックス怒りデスロード』などでタフガイも演じているトム・ハーディーに白羽の矢が立ちました。ちなみにトム・ハーディーは『ダークナイト・ライジング』で最凶の悪役ベインを演じてバットマンの背骨を折った男でもあります。DCコミックスの代表的な悪役を演じた俳優にマーベルコミックスの代表的な悪役を託すというのはなかなかの英断ですね。

そういえば『スパイダーマン:ホーム・カミング』でもかつてバットマンを演じたマイケル・キートンにヴィランのヴァルチャーを託したパターンがありましたね。

体当たり取材派のエディ・ブロックを演じるトム・ハーディーは原作のイメージにも近く、ヴェノムの中の人としてもファンも納得です。

さらに、エディの体に共棲することになるヴェノムという“周りから見ると自分の中の誰かさん相手に独り言を言っているような”二つの人格の持ち主を演じることなったトム・ハーディーですが、すでに『レジェンド狂気の美学』で一人二役で実在の双子ギャングを演じた経験があって、これが大きなプラスになったと本人も言っています。

ヴェノムを演じてもらうのに最高のタイミングで、最高の経験を持っている、最高の役者が手に入りました。

トム・ハーディーのエディ・ブロックは弱音も吐けば醜態もさらします。どうやったもんかと色々考えたうえで迷惑をかけた元カノにも頭を下げます。

シンプルなタフガイ以上の姿を見せてくれるトム・ハーディーは意外に珍しく、そこまた新鮮さを感じることもできます。

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第5の壁:壁の向こうにあるものは?

アメコミ映画ではすっかりお馴染みになったエンドロール中の特典映像ですが、早くも次回作の大きな方向性が明らかになります。『ヴェノム』の監督ルーベン・フライシャーの長編デビュー作品『ゾンビランド』で抜群の存在感を見せてくれたウディ・ハレルソン。

かなり早い時期から彼が『ヴェノム』に出演するというニュースが出ていました。本人も認めていたのですが、『ヴェノム』本編を見ていていつ出るのかいつ出るのかと思っていても、なかなか出てきてくれません。あれ、もうすぐ上映時間が終わっちゃうぞというところでついに、彼が登場します。

個性派にしてハリウッドの問題児で、なおかつハリウッド映画に欠かせない存在のウディ・ハレルソン。本物のマフィアの殺し屋を父(終身刑で刑務所で死去)にもつ本当に危ない血が流れているこの俳優。

『ヴェノム』の劇中で登場する彼の役どころを彼のバックグラウンドを知ってみると本当にゾッとしてしまいます。

ネタバレを避けながら表現するのはなかなか難しいのですが、ものすごく怖い笑顔で大殺戮宣言が出ます。(これでもギリギリな表現ですので言葉からお察しいただくと幸いです)。

これからどうなるか?スパイダーマンとの共演はあるのか?MCUと世界観は共有しているというプロデューサーの言葉はどの程度信用していいのか?

難産の末に誕生した『ヴェノム』に早速、次の壁が見え隠れしてきます。

が、ここはひとまず本作『ヴェノム』に素直に、どっぷりと使って楽しんでください!
文句なしの痛快娯楽アクションに仕上がっています!!

(文:村松健太郎)

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    ライタープロフィール

    村松健太郎

    村松健太郎

    村松健太郎 脳梗塞と付き合いも10年目に入った映画文筆家。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在NCW配給部にて同制作部作品の配給・宣伝、イベント運営に携わる一方で各種記事を執筆。

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