令和の夏に改めて訴える!戦争とその傷跡を描いた3本の映画

先週『アルキメデスの大戦』をご紹介させていただいたばかりではありますが、やはり戦争の惨禍に関する映画は夏に限らず定期的に取り扱っていきたいもの。

とはいえ、やはり夏にその手の作品が多くなるのも必定なので、せっかくのこの機会を逃す手はないでしょう……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街398》

今回ご紹介するのは、およそ四半世紀ぶりに発掘された劇映画『夏少女』、名作ドキュメンタリー映画のリバイバル『東京裁判』、そしてナチスドイツ支配下の島で起きた悲劇の真相を探る洋画『ガーンジー島の読書会の秘密』と、邦洋取り混ぜての3作品です!

名脚本家・早坂暁が
広島原爆の惨禍を問う『夏少女』

(C)「夏少女」上映委員会

早坂暁といえば「天下御免」(71~72)「事件」(78)「花へんろ」(85~88)など数々の名作ドラマの脚本家として知られていますが、愛媛県生まれの彼はお遍路みちに面した商家に育ち、その遍路に置き去りにされた少女を家で引き取り、妹として育てられた少女を広島の原爆で亡くす(正確には、8月5日に広島に赴き、そのまま行方不明)といった過去などから原爆に対する忸怩たる想いが強く、それが原爆症を患う芸者の運命を描いた「夢千代日記」(81)などの創作に繋がったともされています。

その早坂暁が1990年代に手掛けた映画脚本作品が『夏少女』(8月3日公開)です。

ただしこの作品、1996年に広島県で限定上映された以外は諸所の事情で劇場公開が成し遂げられず、そのうちフィルムの所在も不明になっていたのですが、早坂暁の生誕90周年を迎えた今年、オリジナルネガが発見され、当時の関係者の尽力でようやく劇場公開が実現できたという奇跡的な作品でもあるのです。

本作は映画制作当時の1990年代半ばの瀬戸内海の小島が舞台となっています。

子どもの頃に原爆の光を浴びて以来、今も体調が思わしくない父(間寛平)と、島と広島を結ぶ郵便船の船長を務める気丈な母(桃井かおり)の間に生まれた12歳の少年マモルがこの映画の主人公です。

父には広島に原爆が落とされたとき、大好きだった少女を助けてあげられなかったという悔恨が今なお心の中から消えていません。

実は母もマモルを生む前に、夫しか知らない苦渋の秘密を隠しながら生きています。

そんな父母を持つマモルの前に、突如として謎の少女が現れます。

しかし、どうもその少女は一般の人々には見えていないようなのです……。

果たして少女の正体は……?

本作は広島原爆の惨禍そのものを描くのではなく、ファンタジーの衣を借りた人間ドラマとして屹立させていきます。

いわゆる特撮的ショットもありませんが、情感豊かな絵作りによってどこかしらこの世とあの世の狭間を曖昧にした幻惑的な趣が醸し出されています。

原爆の惨禍を描いたおぞましい戦争画やアニメーションの挿入も効果的です。

実はこの時期の早坂暁は手かざしで病気を治す実在の人物を主人公にした『超能力者 未知への旅人』(94)や、現代の大学生が戦時中にタイムスリップする『きけ、わだつみの声 Last Friends』(95)、北京原人を現代に蘇らせる『北京原人Who are you?』(97)と、論理や理屈を超えた彼岸の彼方とでもいった世界観の作品を多く輩出しており、本作もそのラインで紐解いていくと実に興味深いものがあります。

監督は『若者たち』3部作(67~70)や『わが青春のとき』(75)『次郎物語』(87)などの名匠・森川時久。素直な作風で知られる彼は、理屈を超えた早坂脚本を疑うことなく奇を衒うこともなく素直に演出することで、あとあと考えるとツッコミどころ多数な内容であるにもかかわらず、観る側を素直に納得させるとともに、改めて原爆の惨禍に心を痛ませつつその犠牲者に哀悼の意を捧げるに足る作品を具現化させているのでした。

戦争犯罪を問う記録映画
『東京裁判』リバイバル

(C)講談社2018

次は1983年に製作された、何と4時間37分の一大長編記録映画『東京裁判』(8月3日公開)です。

文字通り、第2次世界大戦に敗北した日本を戦勝国が裁いた極東国際軍事裁判の全貌を描いたものです。

もともとは裁判の模様をアメリカ側が映像に記録しており、その膨大な長さのフィルムを『人間の條件』6部作や『切腹』などで世界的に知られる名匠・小林正樹監督が5年の月日をかけて構築したもの。

さらに小林監督はこれを単なる裁判記録にするのではなく、20世紀前半の世界戦争史といったテイストで、戦争そのものの愚かさを提示すべく、世界各国の戦争記録映像なども集めて織り交ぜていき、これによって見事なまでの反骨の巨匠・小林正樹監督作品に成り得ています。

日本はいかにして戦争という泥沼の道を歩んでいったかを世界史的見地から描き、その上で勝者が敗者を裁く戦争裁判の矛盾を通して戦争犯罪とは何かを問いつつ、さらには裁判にかけられたA級戦犯28名それぞれの素顔を暴露していきます。

まるで劇映画を見ているかのごとき臨場感、名優・佐藤慶による硬質のナレーション、合計9分にも満たない楽曲で4時間37分の映画を見事に支えるとともに20世紀のレクイエムを奏で得た武満徹の音楽など、日本の映画人の威信をかけた成果は世界中で絶賛されるとともに、以後これが東京裁判を描いた映画のスタンダードとなって久しいものがあります。

徹底して理不尽な裁判ではありましたが、それでもアメリカ側の弁護士が日本人被告を弁護し、ついには自国アメリカの原爆投下を批判するといった姿勢など、日本人からすると驚嘆に値する事実も多く見られます。

クライマックスとなる対米戦争開戦時の首相・東條英機とキーナン検事との法廷でのやり取りも圧巻!

それにつけても昭和の終わりに作られた本作が、時を越えて令和元年の夏にリバイバルされるというのも、また一つの運命なのかもしれません。

乱れまくった政治や憲法改正問題に揺れる現代日本の未来を占うためにも、これは全国民必見といってもいいでしょう。

戦時下悲劇の謎を解く
『ガーンジー島の読書会の秘密』

©2018 STUDIOCANAL SAS

最後にイギリス映画『ガーンジー島の読書会の秘密』(8月30日公開)を。

第2次世界大戦において、イギリスは唯一ガーンジー島をドイツ軍に占領されていました。

そして戦後、ロンドンの作家ジュリエット(リリー・ジェームズ)は1冊の本をきっかけに“ガーンジー島の読書会”のメンバーと文通するようになります。

ナチスの横暴に怯えつつも読書会を創設した事実に感銘を受けたジュリエットは、その記事を書こうとガーンジー島を訪れますが、創設者のエリザベスはそこになく、メンバーの幾人は彼女をよそよそしく接します。

やがてメンバーとの交流の中からジュリエットはなぜエリザベスが島にいないのか、戦時中、島で一体何が起きたのか,その真相にたどり着いていくのですが……。

戦中の市井の秘話をミステリ仕立てで描きつつ、その中から戦争そのものに対する怒りと哀しみを際立たせ、しかしながら謎が少しずつ解けていくにつれてヒロインと読書会メンバーひとりひとりの絆が深まっていく前向きな感動にも満ち溢れた人間ドラマ。

ガーンジー島の壮大な自然の美しさを捉えた映像美も特筆的で、2時間強の上映時間を映画的至福の時間に転じさせてくれています。

監督は『フォー・ウェディング』(94)などの名匠マイク・ニューウェル。『マリー・ゴールドホテルで会いましょう』(11)『スリー・ビルボード』(17)などの製作チームを迎えての端正な仕事の成果が画面から匂い立つように発散されるとともに、観た人たちを不思議と幸せな気分にさせてくれること必定でしょう。

これまでも、そしてこれからも映画という名の娯楽は戦争について何某かの事象を訴えかけていくことでしょうが、そのひとつひとつにどれだけ接しながら、戦争に対する認識を深めていくかが映画ファンに与えられられた大きな課題といってもいいかもしれません。

(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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