(C)2022 FOCUS FEATURES LLC.

『TAR/ター』良い意味でまったく普通じゃない“劇薬映画”である「5つ」の理由


4:予測不可能な結末!実はブラックコメディか?

そして、衝撃的なのはクライマックスおよびラストだ。もちろんネタバレになるので詳細はいっさい書かないでおくが、もはや「どういう気持ちになれと?」とさえ思える、誰も予想はできないであろう「何か」が用意されている

(C)2022 FOCUS FEATURES LLC.

このクライマックスおよびラストを含めて、(もちろん超現実的なことは起きないのにも関わらず)もはや「ぶっ飛んでいる」様は、良くも悪くも戸惑ってしまうが、その戸惑いも含めて面白い映画なのだ。結末に限らず毒っ気はかなり強く、もはや変な笑いが出てしまうブラックコメディ的なシチュエーションもある。観終わってみたらやっぱり「この映画は一体なんなんだ!?」とやはり困惑する。そんな映画でもあるのだ。

5:権力者への戒めの物語なのかもしれない

物語を読み解くヒントがあるとすれば、トッド・フィールド監督が本作の発想について語った以下の言葉だろう。
「子供の頃に何が何でも自分の夢を叶えると誓うが、夢が叶った途端、悪夢に転じるというキャラクターについてずっと考えていた」

「リディア・ターは芸術に人生を捧げた結果、自分の弱みや嗜好をさらけ出すような体制を築き上げてしまったことに気づく。彼女はまるで全く自覚がないかのように、周囲に自分のルールを強要する。しかし、作家のジャネット・マルカムが言うように、『自覚していたとしても、非道は許されない』のだ」

なるほど、単純に解釈するのであれば「例え夢を叶えたとしても、他者に対して非道なことをしたり、一方的なルールを強要してはいけない」という、普遍的な権力者への戒めの物語とも取れるだろう。そのことを、指揮者という「コントロールする立場」の人間の視点で描くことには必然性がある。

(C)2022 FOCUS FEATURES LLC.

ターの場合、周囲に対して厳しいことそのものは自覚しているようにも思えるのだが、それが度を越していることに彼女はどうやら気づいていないし、おそらくは積もり積もった自信があるがゆえになかなか反省しようともしない。たとえ、ターのように才能や努力でのしあがったという自信がなかったとしても、それは誰もが注意をしておかなければいけないことなのかもしれない。

おまけ:今年のアカデミー賞はアバンギャルドな映画が目白押し?

2023年のアカデミー賞受賞作&ノミネート作は、良い意味でアバンギャルドで変わった内容の映画が多い印象がある。ごく簡単に紹介してみよう。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』……主婦が確定申告中にマルチバースを救うためバトる映画。U-NEXTで配信中。

【関連記事】<考察>『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』から考えるマルチバース論



『イニシェリン島の精霊』……「なぜかよくわからないけど友達に嫌われている」ことから始まる閉鎖的な場所での大喧嘩。ディズニープラスで配信中。



『逆転のトライアングル』……だいたい性格が悪い人たちが船に乗り合わせて大惨事が起きる、通称「汚いタイタニック」。

【関連記事】アカデミー賞3部門ノミネートの『逆転のトライアングル』が超良い意味で「汚いタイタニック」だった件



『EO イーオー』……かわいいロバが人間の良い部分も悪い部分も知っていくロードムービーで、ロバ版『A.I.』または『2001年宇宙の旅』的とも言える内容。2023年5月5日より劇場公開中。



そんな中でも、冒頭に掲げたように「世界的な女性指揮者が精神のバランスを崩していくサイコサスペンス」と、それだけだとわかりやすく思える『TAR/ター』が、ぶっちぎりでアバンギャルドで変わった映画だとは思ってもみなかったのである。

しかし、これらの単純明快ではない、主体的に考えられる、奥深い内容の映画こそ、普通の映画に飽き飽きしている方にこそ観てほしいし、それこそ映画の多様な面白さであり魅力であるとも再確認できたのだ。ぜひ、劇場で『TAR/ター』を観てこその「この映画は一体なんなんだ!?」という衝撃を受けてほしい。

(文:ヒナタカ)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

(C)2022 FOCUS FEATURES LLC.

RANKING

SPONSORD

PICK UP!