(C)黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会
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映画コラム

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2023年12月20日

【全力解説】『窓ぎわのトットちゃん』今すぐ映画館に駆け込んで観るべき理由

【全力解説】『窓ぎわのトットちゃん』今すぐ映画館に駆け込んで観るべき理由


4:「多様性」と相反する「戦争時の全体主義」を伝える映画でもある


主人公であるトットちゃんは、落ち着きがなくおしゃべり好きで、「困った子」と言われたからこそ退学となってしまい、自由でユニークな校風のトモエ学園に入学する。トットちゃんは今で言えばADHD(注意欠如・多動症) だったとも言えるし、LD(学習障害)の傾向もあったのかもしれない。

しかし当時にはそういう言葉はなかったし、トモエ学園はトットちゃんに困った子という「レッテル貼り」をすることもしない。小林校長先生は、入学する時にトットちゃんの話を4時間も聞いた上で、やっと「どうして私のことをみんな困った子っていうの」とネガティブな疑問をぶつけてきたために、「きみは、ほんとうは、いい子なんだよ」と返すのだ。


その後もトモエ学園では、子どもそれぞれの個性や自主性を尊重して自由に学ばせたり、世の中には様々な大切なものがあるといった、多様性を意識した教育がされていることがわかるだろう。

さらに、クラスメイトには「泰明ちゃん」という小児麻痺を患っている子どもがいる。彼に対してのトットちゃんや小林校長先生が親身に接する様や、時には泰明ちゃん自身がしっかりとした意志を持つ人間として描かれることにも感動がある。

そして、そのトモエ学園での楽しい生活に、前述したように戦争が侵食してきて、その多様性に溢れた教育の場も、戦時中の全体主義的な価値観に染まってしまうことがとてつもなく恐ろしいし、それがなんと愚かで間違っていることなのかとも思わせる。詳しくは後述するが、そうであったとしても、「戦争にも奪わせないこと」を提示してくれた時に、涙がもう滝のように溢れてきたのだ。

おまけその1:現在は多くの戦中・戦後の映画が公開中!

©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会

くしくも、2023年は『君たちはどう生きるか』『ゴジラ-1.0』『ほかげ』『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』と、この『トットちゃん』と同じく戦中・戦後を描く(しかも子どもが物語に関わる)映画が公開中だ。

【関連コラム】映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』で“鬼太郎”の見かたが変わるワケとは

いずれの作品もロシアによるウクライナへの侵攻、イスラエルによるガザ地区侵攻と、痛ましいという言葉でも足りない戦争が起こっている今こそ、多くの人が問題を考える意義があるだろう。ぜひ、可能な限りあわせてご覧になってほしい。

おまけその2:『この世界の片隅に』と『マイマイ新子と千年の魔法』に通ずるポイントも



本作の凄みは、2016年に公開された、戦争時における普通の人たちを描いた『この世界の片隅に』に通じている。当時の人が本当に「生きている」と思えるアニメの豊かさや、小さなエピソードそれぞれが呼応しているような物語など、多くの共通点を見つけることができるだろう。



同じく片渕須直監督作『マイマイ新子と千年の魔法』は、昭和の時代を舞台とし、子どもの想像力を画として見せながらも、シビアな問題が終盤に提示されるアニメ映画で、こちらも『トットちゃん』を観て連想する方は多いはずだ。

おまけその3:『屋根裏のラジャー』ともまさかのシンクロが!

Ⓒ 2023 Ponoc

さらに、12月8日(金)より公開されている『屋根裏のラジャー』は想像上の友達こと「イマジナリーフレンド」を題材としたファンタジーアドベンチャーであり、『トットちゃん』とは「子どもの想像力」をアニメで見せてくれる大きな共通項がある。



その『屋根裏のラジャー』の緻密かつ大胆に作り上げられた想像のシーンは、今敏監督によるカルト的な人気を誇るアニメ映画『パプリカ』になぞらえて、「光のパプリカ」「病んでないパプリカ」といった例え方もされている。

さらに、「子どもの視点」を丁寧に描いていることも似ているし、「過酷な現実」を容赦無く見せることも同じであるし、だからこそのエモーショナルな感涙シーンも待ち受けている。

『屋根裏のラジャー』 Ⓒ 2023 Ponoc

何より、『屋根裏のラジャー』も『トットちゃん』日本のアニメ映画の底力を見せつける超労作であるし、今の子どもと、かつて子どもだった大人にも誠実なメッセージを投げかけている作品だ。ぜひ、あわせて観てほしい。

【関連コラム】『屋根裏のラジャー』アニメ映画に疎い大人にこそ観てほしい理由

ネタバレなしまとめ:ここまで言って観てくれなかったらどうしたらいいんだ



もし、ここまで言って『トットちゃん』を観てくれなかったら、どうしたらいいんですか?


筆者は2023年に350本ほどの映画を観たが、個人的にその中のぶっちぎり1位が『トットちゃん』である。

前述した『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』『屋根裏のラジャー』、さらに『BLUE GIANT』『SAND LAND』『アリスとテレスのまぼろし工場』など、今年は日本のアニメ映画の歴史を塗り替える傑作が続々と誕生した、ものすごい1年だった。

その『トットちゃん』は口コミが広がったおかげもあり、公開2週目で満席に近い回もあったという報告が寄せられている。それでも、最優先で観ないといけない理由がある。

それは12月22日(金)に、原作およびテレビアニメが社会現象となった超大物『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』が公開されるからだ。



だからこそ、上映回数が少なくなる中でも、今すぐに予約して観てもらわないといけないのだ。というか、この『トットちゃん』も小学校に入学したばかりの女の子がスパイに憧れているし、家族に犬もいるので実質スパイファミリーである。だからスパイファミリーが好きな方も観るべきなんだよ!


さて、全人類が可及的速やかに観るべき映画だとわかっていただけたと思うので、ここからネタバレ全開で、筆者が泣いた場面6選を紹介しよう。1本の映画で6回泣けることがあるというのもすごいことだ。中でも6つ目はもう泣き死ぬかと思うほど号泣した。

だから、もう、まだ観ていないという方は、今すぐ映画館に駆けつけてください。一生のお願いですから!あと2回目のほうがより泣けたのでリピート鑑賞もおすすめです!

※以降、『窓ぎわのトットちゃん』本編のラストを含むネタバレに触れています。

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