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<予習&復習におすすめ>『オッペンハイマー』とあわせて観たい「4つ」の映画

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『オッペンハイマー』が2024年3月29日(金)より、ついに日本でも劇場公開された。

本作は「原爆の父」と呼ばれたロバート・オッペンハイマーの生涯を描いた伝記映画にして、3時間の上映時間で、彼の「主観的な苦悩」を「体感」させる内容

前置き:予習の上で、映画館で観てほしい作品

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『オッペンハイマー』は第96回アカデミー賞で作品賞・主演男優賞・助演男優賞・監督賞・作曲賞・撮影賞・編集賞の最多7部門を受賞している。

映像作品としてのクオリティーが全方位的に高いことは言うまでもなく、劇場の音響および大きなスクリーンでの鑑賞を前提とした作りでもあるので、何よりも映画館で観る(体感する)機会を逃さないでほしい。

予習としては、とにかく登場人物が多いため、公式サイトのキャラクターのページで、ざっくりとでいいので把握するといいだろう。

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さらに、劇中で時系列が複雑にシャッフルされているため、オッペンハイマーのおおよその来歴や第二次世界大戦にまつわる時代背景も頭に入れておくといい。また、「共産主義」と「赤狩り」という用語の意味も、軽く知っておくことをおすすめする。(その意味をわかりやすく教えてくれる映画も後述する)

ここでは、さらに『オッペンハイマー』をより理解するための予習&復習として特におすすめの、映画4作品を紹介しよう。

  • 『アインシュタインと原爆』(2024年)
  • 『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015年)
  • 『メメント』(2000年)
  • 『この世界の片隅に』(2016年)

また最後に、共通点のある映画も一挙にあげておく。

1:『アインシュタインと原爆』(2024年)

『アインシュタインと原爆』Netflixにて独占配信中

Netflixオリジナル作品で、ナチス政権下のドイツから逃れた理論物理学者アルベルト・アインシュタインの姿を描く実話ものだ。

劇中のアインシュタインのセリフは、実際のスピーチや手紙、インタビューで語られた本人の言葉のみで構成されている他、第二次世界大戦の状況下がモノクロの記録映像と共に綴られる場面が多いため、劇映画ではあるがドキュメンタリーに近い作りだ。

『アインシュタインと原爆』Netflixにて独占配信中

その上で、アインシュタインが亡命し、その中でも日本へ訪問したり、はたまた演説を頼まれたことへの葛藤は、とても人間くさく感情移入しやすいものとして描かれている。『オッペンハイマー』の劇中ではあまり深掘りされていなかったアインシュタインのことを知るにはうってつけだ。

なお、原爆および核兵器製造の発端のひとつが「ルーズベルト大統領に手紙を出したこと」と語られることもあるが、それに対するアインシュタイン本人の言葉も、知っておく価値はある。76分と上映時間もやや短めなので、時間がないという方はこの1本だけでもいいだろう。

『ターニング・ポイント:核兵器と冷戦』Netflixにて独占配信中

なお、Netflixではドキュメンタリーシリーズ『ターニング・ポイント:核兵器と冷戦』も配信中。こちらは冷戦時代を知る人々の証言、そして世界の要人や識者たちへのインタビューを交えながら展開しており、オッペンハイマーや被爆体験者の姿もある。

2:『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015年)

(C)2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED / Photo: Hilary Bronwyn Gayle

『ローマの休日』の脚本家ダルトン・トランボの人生を綴る、こちらも実話もの。ハリウッドの黄金期に第一線で活躍していたトランボは、「共産主義者」を過剰に摘発する「赤狩り」の標的となり、ついには投獄されてしまう。

こう記すと重い内容に思われるかもしれないが、実際は主人公の家族の物語が主であるため親しみやすく、クスクス笑えるコメディーシーンも多くなっている。



『オッペンハイマー』の予習にうってつけな理由は、劇中で「共産党ってなに?」「なんで共産党が恨まれたの?」という子どもの疑問に、わかりやすい言葉で答えていること。

オッペンハイマーは、共産主義者への関与およびソ連のスパイだという疑惑をかけられため苦悩していた。この『トランボ』で、同様の(あるいは別種の)問題が映画業界にもあったと知ることに意義があるし、こちらでは悲劇的な面よりもユーモアが強めに描かれているいうのも面白い。



トランボは釈放後に偽名での仕事も余儀なくされるのだが、その過程では「名前を隠すためにこんなこともしていたんだ」という驚きがあるし、「パパがいつも仕事ばかりで構ってくれないし家に仕事を持ち込みすぎ!」「私たちの生活をないがしろしすぎ!」といった「父親が責められるあるある」も楽しく見られる。

そして、娘役のエル・ファニングが史上最高にかわいい(重要)。いわゆる「B級映画」への愛に溢れたセリフに、笑いつつも感動する映画ファンもいるはずだ。

3:『メメント』(2000年)

(C)2000 I REMEMBER PRODUCTIONS,LLC

クリストファー・ノーラン監督の出世作となった長編第2作。基本は妻を殺した犯人を追うサスペンスであるが、最大の特徴は物語の時系列を「逆行」させながら描く構造。

主人公は記憶障害により10分間しか記憶を保てず、この構造で「映画を観る観客もまた主人公と同様に10分前に起こったことがわからない」という、その記録障害を擬似体験できる内容となっている。



その『メメント』では一部にモノクロのパートがあり、それは過去から現在へと近づいていく、通常の時間の流れで描かれていた。

同じく『オッペンハイマー』でもモノクロのパートが挟み込まれており、こちらで主に描かれるのはロバート・ダウニー・Jr.演じるルイス・ストローズという人物の視点だ。彼は海軍少将かつ原子力委員会の委員長で、「水素爆弾の開発に反対の意を示し続けるオッペンハイマーと激しく対立する」ことを認識して観るのがいいだろう。

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なお、ノーラン監督はその『メメント』でカラーとモノクロを切り替えた手法を気に入っていたそうで、今回の『オッペンハイマー』では「物語は非常に主観的であり、けれど同時に客観的な物語も絡み合っている」ことを理由に、その手法をもう一度取り入れたのだとか。

なるほど、両者のモノクロのパートはどちらも「主人公の主観から外れた客観的な出来事」であるようにも思えたし、『オッペンハイマー』では「ストローズの灰色の記憶」という悲哀を表現しているように見えた。

観客それぞれで、『オッペンハイマー』は「なぜ時系列が複雑にシャッフルされているのか」「なぜモノクロの映像を用いたのか」と、その意図や理由を考えるのも楽しみのひとつ。その思考の一助のためにも、『メメント』を観ておくといいだろう。

4:『この世界の片隅に』(2016年)

(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

『オッペンハイマー』は、(前述したモノクロパート以外では)ほぼほぼ「オッペンハイマーの主観」を描いているといっていい。

議論の的になっている「広島に原爆が落とされた光景が描かれていない」ことも、その主観に絞ったための、意図的なものだろう。そして、オッペンハイマーの恐怖、あるいは「罪」が、やはり主観的なある形で表出する様も、大きな見どころだ。



一方で、『この世界の片隅に』で描かれるのは、やがて原爆が落とされる、はたまた戦争の影響がじわじわと忍び寄る広島という場所で、日常を過ごしている人々の姿。ちょうど『オッペンハイマー』の劇中では(もちろん意図的に)まったく描かれなかったことなのだ。

自分の主観、はたまた内的な世界に没入するオッペンハイマーが、見えていなかったことがそこにある

さらに、『オッペンハイマー』公式サイトで『この世界の片隅に』の原作漫画の作者であるこうの史代が寄せたコメントが、SNSで話題となっていた。

「『核兵器は狂気の天才のしわざ』なんて逃げ道は、この映画にはありませんでした」「科学は誰にでも微笑みかけるし、私欲はどこにでも罠をはる」という言葉には迫力があるし、本編を観ればその真意がさらに伝わることだろう。

(C)2019こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

また、2019年には新たなシーンを追加した『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』も公開され、リンという女性との関係性がより生々しくも尊く描かれている。2016年版とは物語全体から受ける印象も大きく異なるので、そちらしか観たことがなかったという方も、ぜひ観る候補に入れてほしい。

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さらに共通点のある映画を一挙に紹介

その他にも、『オッペンハイマー』とあわせて観るのにもおすすめの、共通点や似た要素のある、はたまた前述した『この世界の片隅に』と同様の「別の視点」がある映画を一挙に紹介しよう。

  • 『π<パイ>』(1998年)
  • 『フォロウィング』(1998年)
  • 『戦場のメリークリスマス』(1983年)
  • 『風立ちぬ』(2013年)
  • 『アルキメデスの大戦』(2019年)
  • 『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(2015年)
  • 『エターナルズ』(2021年)
  • 『映画 太陽の子』(2021年)
  • 『RHEINGOLD ラインゴールド』(2024年)

『π<パイ>』(1998年)

(数字に取り憑かれた男の)妄想に取り憑かれ狂気が暴走するダーレン・アロノフスキーの作家性が長編デビュー作から全開で、モノクロの映像や主観での苦悩は『オッペンハイマー』に似ている。デジタルリマスター版が2024年3月14日より劇場上映中。

『フォロウィング』(1998年)

クリストファー・ノーラン監督の長編デビュー作。他人の尾行をする男が思わぬ事件に巻き込まれていく姿を、時間軸を交錯させて描く、こちらもモノクロ作品。2024年4月5日よりデジタルリマスターが上映開始。

『戦場のメリークリスマス』(1983年)

第2次世界大戦中のジャワの日本軍捕虜収容所を舞台にしたドラマ。『オッペンハイマー』ではアインシュタイン役だったトム・コンティが、ローレンス陸軍中佐を演じている。

『風立ちぬ』(2013年)

ゼロ戦設計者の堀越二郎の姿を描く宮崎駿監督作。「戦争で人を殺す兵器(爆弾)を作ってしまう」ことはオッペンハイマーと一致している。

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『アルキメデスの大戦』(2019年)

同名漫画を原作とした、戦艦大和大和の建造計画の不正を天才数学者が暴こうとするドラマ。主人公が抱える矛盾や苦悩は『風立ちぬ』や『オッペンハイマー』に通じている。

本作を監督した山崎貴とクリストファー・ノーランの対談映像も公開された。


『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(2015年)

第二次世界大戦化で戦況を大きく変えた天才の動向を描く実話ものであることが『オッペンハイマー』と共通。その苦悩もどこかオッペンハイマーに通じている。

『エターナルズ』(2021年)

ヒーローアクション大作であり、劇中では原爆の投下がとてつもない悲劇として描かれている。

『映画 太陽の子』(2021年)

日本の原爆開発に翻弄される若者たちのドラマ。柳楽優弥演じる科学者の葛藤や、有村架純の「戦争が終わった後の話」が強く印象に残る。そして、三浦春馬の遺作のひとつ。

『RHEINGOLD ラインゴールド』(2024年)

©2022 bombero international GmbH & Co. KG / Palosanto Films Srl  / Rai Cinema S.p.A / Lemming Film / corazón international GmbH & Co. KG / Warner Bros. Entertainment GmbH

『オッペンハイマー』と同日3月29日より劇場公開中の『RHEINGOLD ラインゴールド』もおすすめだ。

描かれるのは、実在するラッパーで音楽プロデューサーのカターの半生。不良に理不尽に殴られればボクシングを習得してやり返し、ドラッグの売人や用心棒もして、さらに金塊強盗まで…!と、とても褒められた人物ではないはずだし、悲惨な状況も描かれるのだが、どこかブラックなユーモアもあり、その姿は清々しく思えるほど。

刺激的な場面が多い&エンターテインメント性も高い、破天荒な「事実は小説よりも奇なり」な実話を求める方にこそおすすめだ。

語り口も主人公の人間性も『オッペンハイマー』とは好対照な実話ものとして楽しんでほしい。

(文:ヒナタカ)

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