俳優・映画人コラム

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2016年05月06日

「世界から猫が消えたなら」「バクマン。」「モテキ」「告白」「電車男」、映画の顔になれるプロデューサー川村元気

「世界から猫が消えたなら」「バクマン。」「モテキ」「告白」「電車男」、映画の顔になれるプロデューサー川村元気

世界から猫が消えたなら


(C)2016 映画『世界から猫が消えたなら』製作委員会


いよいよ公開の「世界から猫が消えたなら」。話題作ゆえに様々な切り口があるが、その中でも目を引いたのが原作者として参加する、いま最も勢いと知名度のある映画プロデューサー川村元気の存在だろう。

セールスポント・映画の顔になれるプロデューサー


主演・監督がセールスポントになるのが映画の常だが、まれに映画プロデューサーの名前がセールスポントになることがある。それが今の時代でいえば川村元気である。

もちろん、話題の俎上に上がらないからと言って、プロデューサーという役職の人間が映画制作の現場に不在だというわけではない。むしろプロデューサーなしでは映画は映画としてすら存在できない。クランクインするはるか前から、ひと・モノ・お金・時間・場所あらゆる部分で下準備を入念行い、さらに映画公開後もシリーズ化、ソフト化、TV放映など映画双六のあがりまできっちりと追わなくてはならないのがプロデューサーだ。

川村プロデューサーの特徴は一言でいえば異端ということになるだろうか?しかも、彼が所属しているのは日本映画界の絶対王者東宝である。

複数のアニメシリーズを地盤にヒット作を連発。ドル箱であった“ジブリ”“踊る”“海猿”がなくなった昨年も歴代4位の興行収入を記録し、王者盤石を印象づけた。しかもこの状態は少なくとも20年は続いているのであるから、恐れ入る。昨年末あの「スターウォーズ フォースの覚醒」を「妖怪ウォッチ2」ではじき返したことをご記憶の方もいるのではないだろうか?

そんな、ともすれば安定路線に走りがちな王者の中で、劇場勤務時代に社内企画募集に応募した「電車男」がいきなり大ヒット。まだまだサブカルチャーであったインターネットの世界を描き、見方によってはネガティブ志向のヲタク人間でしかない主人公の物語を、閉塞感を打ち破りたい青年の成長譚に仕上げて、社会現象になった。

以降、デスメタルというこれもまたニッチな世界の住人を描いた「デトロイト・メタル・シティ」。自身も暗すぎると認めるミステリー湊かなえ原作の「告白」。そして、邦画メジャーがサブカルチャーを本格的に取り上げたらどうなるかという「モテキ」「バクマン」。

そしてポスト宮崎駿の一角を占める細田守監督作品。どれも大ヒットして、今や王道のように見えるが、実績の部分を取り除いて作品そのものだけの姿にして、見直すとやはり異彩を感じずにはいられない。そう考えると「世界から猫が消えたなら」は珍しいぐらいの本格派王道の布陣の作品といっていいかもしれない。

時代の顔となったプロデューサーたち


今の川村元気と同様に映画の顔になったプロデューサー過去にもいる。1976年の「犬上家の一族」で始まり、今年で40周年を迎える角川映画(現在のKADOKAWA)を興したのが角川春樹。一口に“角川映画”といっても実は春樹自身のトラブルが原因で93年のところで大きな線が引かれる。その後、改めて大映や日本ヘラルドを内包しなおし、現在の形になっている。

角川春樹のプロデューサーとして最大の特徴は“読んでから見るか、見てから読むか”のキャッチコピーに象徴される本格的なメディアミックスの導入だろう。さらに、東宝・東映・松竹の宣伝配給網・興行網を自由自在に横断して、今から考えてもちょっと驚かされるような公開形態を連発した。

それと入れ替わるように90年代から一気に頭角を現したのが松竹の奥山和由プロデューサー。松竹大船調という言葉で会わらされる作品を制作する松竹において、アクションとバイオレンス色の強い作品を連発した。特に「その男、凶暴につき」から「ソナチネ」までの北野武監督初期作品をバックアップしたことは、松竹発信ということを考えると二重三重に強いインパクトをのこした。

また映画ファンドを導入したの「226」やミニシアターブームの到来を先読みしたようなシネマジャパネスクプロジェクトでは黒沢清、原田眞人、坂本順治を輩出した。90年代後半からの00年代半ばまでの日本映画の流れで無視できないのが、仙頭武則プロデューサー。

出向する形で所属したWOWOWで日本映画ではなく“J・MOVIE”を作ると宣言し、J・MOVIE・WARSを企画。ここからは「月はどっちに出ている」の崔洋一、「女優霊」の中田秀夫、「Helpless」の青山真治、「萌の朱雀」の河瀨直美が出ている。本格化したミニシアターブームに乗って一気に売れっ子プロデューサーへ。その後、出てきた面々が本格化「リング」「らせん」「EUREKA」などが大ヒット。批評面でも国内外で成功をおさめた。

時代の寵児、業界の風雲児となったお三方だが、残念ながらお三方とも自身も含む諸々の事柄から今は往時の輝きはなく、栄枯盛衰という言葉を感じてしまう。

では、川村元気プロデューサーは?


川村元気プロデューサーは今、まさに上記のお三方と同じような立ち位置にいるといっていい。しかも、少し縁起の悪い話をすればそれぞれの華々しい時期を計算すると、「電車男」から計算すると、そろそろというころ合いになっている。ところが、そういう悪い兆しは見えない。もちろん、絶対王者東宝に所属しているということも大きいが、それ以上に次の二点で大きく秀でているように思う。

一つは必勝パターンを作らない、乗らない点だろう。“角川三人娘”に代表されるアイドル映画路線などのように、系譜化できる作品は続いていない。もう一つが、“トラブル・イズ・マイ・ビジネス”という信条を語ってはいるものの、丁寧なリスク管理をしているところだろう。もちろん、風雲児・革命児と呼ばれる人は冒険心・野心にあふれていて、それがなければその立ち位置には着けないことは確かだが、やはり、戦略性を兼ね備えていかなくてはいつかは破綻を迎えることになる。

この二点が川村戦略にしっかりと感じ取られる。最初から引き算で映画を作ること初めてはやはりそのサイズの映画しかできない。そんな中、拡げるところと絞るところというバランス感覚がフィルモグラフィーから見て取れる。これがあるうちは、快進撃は止まらないのではないだろうか?

ちなみに、次の作品もすでに制作中。「桐島、部活やめるってよ」で知られる朝井リョウの直木賞受賞作「何者」が今秋公開予定。監督は劇団ポツドール主宰の三浦大輔が監督・脚本を担当。主演は「バクマン」「世界から猫が消えたなら」に続いて佐藤健が主演し、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生、山田孝之共演という、なかなか楽しみな座組だ。

また「世界から猫が消えたなら」公開に合わせて出版された世界の巨匠との架空の企画会議を描いた「超企画会議」も一読の価値がある面白い本となっている。

【川村元気 フィルモグラフィー】


電車男(2005年) - 企画
スキージャンプ・ペア Road to TORINO 2006(2006年) - 企画・プロデュース
サイレン 〜FORBIDDEN SIREN〜(2006年) - 企画
ラフ ROUGH(2006年) - 企画
7月24日通りのクリスマス(2006年) - 企画
そのときは彼によろしく(2007年) - プロデューサー
陰日向に咲く(2008年) - 企画・プロデュース
デトロイト・メタル・シティ(2008年) - 企画
告白(2010年) - 企画
悪人(2010年) - プロデューサー
モテキ(2011年) - 企画・プロデュース
friends もののけ島のナキ(2011年) - 企画 ※アニメーション作品
宇宙兄弟(2012年) - 企画・プロデュース
おおかみこどもの雨と雪(2012年) - アソシエイトプロデューサー ※アニメーション作品
聖☆おにいさん(2013年) - プロデューサー ※アニメーション作品
青天の霹靂(2014年) - 企画・プロデュース
寄生獣(2014年) - プロデューサー
寄生獣 完結編(2015年) - プロデューサー
バケモノの子(2015年) - プロデューサー ※アニメーション作品
バクマン。(2015年) - 企画・プロデュース
世界から猫が消えたなら(2016年) - 原作
何者(2016年)-プロデューサー

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(文:村松健太郎

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