清純、聖女から極妻まで!変幻自在の名女優・岩下志麻

写真家『早田雄二』が撮影した銀幕のスターたちvol.28

現在、昭和を代表する名カメラマン早田雄二氏(16~95)が撮り続けてきた銀幕スターたちの写真の数々が、本サイトに『特集 写真家・早田雄二』として掲載されています。
日々、国内外のスターなどを撮影し、特に女優陣から絶大な信頼を得ていた早田氏の素晴らしきフォト・ワールドとリンクしながら、ここでは彼が撮り続けたスターたちの経歴や魅力などを振り返ってみたいと思います。

岩下志麻

岩下志麻ほど世代によってイメージの異なる女優はいないかもしれません。彼女と同世代的の方々には清楚で可憐な存在として、80年代あたりから映画を見始めた向きには『極道の妻(おんな)たち』シリーズのおっかないけどかっこいい姐御として(当時、彼女に憧れる若い女性はかなり多かったですね)、また映画フリークからは篠田正浩監督と二人三脚で優れた映画を作り続けてきた名女優として、それこそ彼女はいくつものの顔を持ち続けながら20世紀後半の映画界を駆け抜けてきました。

テレビの新進若手女優から
松竹女性映画のホープへ

岩下志麻は1941年1月3日、東京市京橋区銀座生まれ。

父は野々村潔、母は山岸美代子、母の姉は山岸しづ江、その夫は河原崎長十郎という新劇俳優一家の環境に育ちました。

高校3年生の58年、父の知人のNHKプロデューサーに誘われ、『バス通り裏』に十朱幸代の友人役で出演したところ、これが好評でそのまま準レギュラーとなり、芸能界デビューしました。

しばらくはテレビ出演が続きますが、60年、人気スキーヤーのトニー・ザイラーを主演に迎えた松竹映画『銀嶺の王者』相手役が骨折で急きょ代打が必要となり、キャメラテストを受けたところ、役こそ獲得できませんでしたが、それが縁となって松竹に入社し、木下惠介監督の時代劇大作『笛吹川』に出演しますが、その次に撮った篠田正浩監督作品『乾いた湖』のほうが公開が先になり、こちらがデビュー作となりました。

小津安二郎監督『秋日和』(60)や篠田監督『夕陽に赤い俺の顔』(61)などに出演した後、松竹は清純派で血筋、容姿、ムードと三拍子そろった岩下志麻を、第2の岸恵子として売り出そうとし、テレビドラマの映画版『あの波の果てまで』の主役に抜擢し、作品は結果3部作となる大ヒットとなり、桑野みゆき、鰐淵晴子とともに松竹女性映画のホープとなり、61年度の製作者協会新人賞や第12回ブルーリボン賞新人賞を受賞。62年には小林正樹監督の『切腹』や小津安二郎監督の遺作となった『秋刀魚の味』、63年には中村登監督の『古都』、64年には野村芳太郎監督『五辨の椿』、66年は中村監督『紀ノ川』と、それぞれヒロインに抜擢され、年を追うごとに女優としてのステップアップを遂げていきます。

67年に篠田正浩監督と結婚してからは独立プロ・表現社を夫らとともに設立し、その第1作となった篠田監督『あかね雲』と、中村監督『智恵子抄』でキネマ旬報女優賞、毎日映画コンクール女優主演賞、NHK最優秀主演女優賞を受賞しました。

数々の芸能界的な修羅場を
潜り抜けてきた大女優

69年には篠田監督『心中天網島』や岡本喜八監督『赤毛』、中村監督の『日も月も』『わが恋わが歌』で再度キネマ旬報女優賞&毎日映画コンクール女優主演賞を受賞。その後も野村監督『影の車』(70)、今井正監督『婉という女』(71)、斎藤耕一監督『内海の輪』(71)などで大人の女のエロティシズムを匂わしながら、清純派から着実に脱皮していきます。

77年には篠田監督『はなれ瞽女おりん』で聖女のように純粋な盲目の瞽女を熱演し、キネマ旬報主演女優賞、ブルーリボン主演女優賞、毎日映画コンクール女優主演賞、日本アカデミー賞主演女優賞と、その年の演技賞を独占。翌78年には野村監督『鬼畜』で夫が他の女に産ませた幼子3人を虐待する非情な妻役で異彩を放ちました(この時の撮影ほどつらいものはなかったと、彼女自身後に述懐しています)。

82年には五社英雄監督『鬼龍院花子の生涯』の土佐侠客の妻役と野村監督『疑惑』の弁護士役で気を吐き、85年の降旗康男監督『魔の刻』では坂上忍扮する息子と母子相姦する母親を演じ、そして86年、五社監督の『極道の妻(おんな)たち』で着物にピアスといった凛々しいいでたちで見事に極道の妻を演じ切り、以後シリーズ化され、岩下志麻=極妻のイメージを定着させていきました。

その後も順調に映画やドラマ出演を続けていった岩下志麻ですが、2003年、篠田監督が『スパイ・ゾルゲ』(岩下志麻は本作のメイキングも担当)を最後に映画監督を引退すると宣言し、彼女もそれに付き添うかのように女優としての活動を抑えめにしていきます。特に映画出演は2006年『あかね空』以降途切れているのが残念な限り。

そろそろ極妻のようなキレのいい啖呵でもよし、実はコメディエンヌとしてのセンスも抜群なので、そちら方面でも良し、また美しい姿を銀幕でも披露していただきたいものです。

私自身は96年の高山由紀子監督『風のかたみ』撮影中の彼女を取材させていただいたことがありますが、このときは共同取材で、ベテラン新聞記者たちがわざといじわるな質問ばかりぶつけて、彼女を感情的にさせながら何か面白いことでも聞き出そうといった、正直その場にいたくないほど嫌な気分になってしまうものでもあったのですが、そのときの彼女は何を聞かれようとも一切顔色を変えることなく、淡々と公的な発言のみを発し続け、ついには記者たちを煙に巻いてしまったのが、いっそ痛快でした。

きっと彼女は長年の芸能生活の中、マスコミも含めたさまざまな修羅場を潜り抜けてきて今に至るのだろうな、とまで思わせる潔さをそこに感じてしまいました。

※「東京スポーツ」「中京スポーツ」「大阪スポーツ」は毎週月曜、「九州スポーツ」は毎週火曜発行紙面で、「生誕100年 写真家・早田雄二が撮った銀幕の名女優」を好評連載中。

(文:増當竜也

    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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