2015年フランス映画祭開幕!代表のイザベル・ジョルダーノ氏合同取材書き起こし
2015年6月26日(金)から29日(月)までの4日間、有楽町朝日ホールおよびTOHOシネマズ 日劇で開催されるフランス映画祭。その開幕に先立ち、ユニフランス・フィルムズ・インターナショナル代表のイザベル・ジョルダーノさんへの合同取材がおこなわれました。
シネマズではその内容を全文書き起こしてお届けします。
「フランス映画祭2015」公式サイト
http://www.unifrance.jp/festival
イザベル・ジョルダーノ氏プロフィール
1963年パリ生まれ。パリ政治学院を卒業後、ジャーナリストとして活動の後、10年にわたってテレビ局で映画情報番組の制作とプレゼンターをつとめる。2009年、フランス芸術文化勲章オフィシエ受勲。2013年にレジオンドヌール勲章シュヴァリエ受勲。2013年9月よりユニフランス・フィルムズ代表に就任。フランス文化の海外での普及振興に力を注いでいる。
質問:ユニフランス・フィルムズ代表として2回目の来日となりましたが、日本の印象はいかがでしょうか?
イザベル氏:私は日本に来るのがすごく好きです。そしてフランスの人たちと日本の人たちはすごく繋がりがあると思っています。共通点や同じようなテーマに関心を持っていると感じます。カンヌ映画祭の時も日本の映画関係者や監督と話をしましたが、同じようなテーマに関心があると感じました。私もジャーナリストでしたので、昔は取材側に座って、北野武監督にもインタビューをしました。そのインタビューを通しても関心は共通していると思います。
ユニフランス代表として日本にフランスの映画を持ってきましたが、ぜひたくさんの日本の方々に観ていただきたいと思っています。今回もいい映画が揃っています。監督もとても才能がある人達が多いですし、(イベントが)成功して欲しいと考えています。
質問:今回のオープニング作品が『エール!』になっていますが、とてもおもしろい偶然に気付きました。去年は『グレートデイズ!』がオープニング作品に選ばれ、一昨年は「最強のふたり」が選ばれています。この三作品はどれもハンディキャップがある人が主人公として輝いている映画だったんです。2013年の『イン・ザ・ハウス』でも家族が介護を必要としている方がいました。この数年、毎年毎年ハンディキャップがある人が必ず出てきているのですが。
イザベル氏:オープニングにハンディキャップがある人の話が出ているのは偶然だと思います。フランスの映画すべてが身体障害者の話をするわけでないですが、フランス映画の今の特徴として、社会的な問題をコメディにして深刻な話も楽しく語るという点が挙げられます。例えば身体障害者の話であったり、人種差別の話であったりですね。
今年の共通点として、異なる人たちをどのように受け入れていくか、また自分が人と違う時にどうやって他の人に受け入れられていくかということが挙げられます。フランソワ・オゾンの作品「彼は秘密の女ともだち」でもロマン・デュリス演じる男の人が女の人になります。耳と口が不自由な人が受け入れられていく物語もあります。このように、複数の映画で人と異なる人が「受け入れられる」ということがテーマになっています。また映画というのは、そのようなテーマをよりわかりやすく伝えられると思います。
質問:イザベルさんが映画に携わる仕事に就きたいと思ったきっかけはなんですか?
イザベル氏:ずっと昔から映画が好きで、中学・高校の時から映画をたくさん観に行くようにしていました。映画監督や俳優さんに近い仕事はないかと考え、最初はジャーナリストとして働いていました。偶然にもユニフランスの会長になったわけですが、この仕事というのは全体を見渡すという意味ではすごく面白い仕事で、フランス映画を観るだけでなく世界の映画館や映画のビジョンを観ることができて非常に面白いです。
質問:当時のお気に入りは?
イザベル氏:40年代50年代のアメリカ映画をよく観に行きました。ハンフリー・ボガードなどの役者が夢を見させてくれました。ディテールが素晴らしく、背景や光の感じ、いろいろと見出すものがあり本当に良かったです。
質問:フランス国内で、日本映画や日本文化はどのように捉えられていますか?
イザベル氏:日本の映画はカンヌでもよく紹介されているので観ることも多いですし、フランスの人にはよく観られています。フランス人の中で日本の文化に興味を持っている人も居ます。私は幸いにもパリの日本文化会館の近くに住んでいるので、日本文化に触れる機会も多いです。
またお寿司が日本文化かと言えるのかはわからないのですが、お寿司を通じて日本文化は広がっています。パリの日本料理屋は毎年増え続けています。パリの人はお寿司大好きです(笑)。お寿司だけに日本文化は限らず、3週間前に大江健三郎さんもパリに来られてマスコミのインタビューを受けていましたし、村上春樹さんの書籍もパリではよく読まれています。
質問:今回のフランス映画祭の中でお気に入りの作品と、特徴を教えてください。
イザベル氏:どれがお気に入りかというのは、お母さんにどの子が一番好きですかを聞くようなものなので非常に答えるのが難しいです(笑)。ただ、『エール!』はすごく好きですね。フランスでもすごくヒットして、500万人以上の観客動員がありました。でもやっぱり全部の作品が好きですね。それぞれ違います。笑える作品もあるし、考えさせられる作品もあります。セバスチャン・サルガドの『地球へのラブレター』は非常に美しいドキュメンタリーです。
40歳以上の女性をテーマにした、オリヴィエ・アサイヤス監督(『アクトレス ~女たちの舞台~』)の描き方も非常に好きです。オゾン(『彼は秘密の女ともだち』)はオゾンらしさが出ていて本当にアーチストだと思います。彼の、貫き通す自分の世界があるし、みんなを驚かせるようなテーマをやり遂げるというのはやっぱりアーチストですね。
そしてフランス映画祭2015団長としてエマニュエル・ドゥヴォスに来て頂いていますが、とても名誉に感じます。フランスの人たちはとてもエマニュエルが好きで、非常に人気のある女優です。道を歩いているとフランスの人がエマニュエル・ドゥヴォスに「ありがとう」って言うんです。「もしあなたが出演していなければ観に行かなかったけど、行ってみたらすごいいい映画だった。新しい発見をさせてくれてありがとう」と。彼女自身が自分の出演する映画を選ぶのが上手ですね。
質問:フランスの映画はどのぐらい海外で紹介されているのか?フランスの映画作家たちは海外で見られることを意識したつくりをしているのか?
イザベル氏:観客にどのように観られるかを考えて作ってはいません。それはフランス人の観客、日本、ブラジル、中国に限らずです。たとえ普遍的な作品を作りたいと思っている人でも、具体的な観客を意識せずに作っています。必ずしも世界中に観られるかどうかは蓋を開けてみないと分かりません。ただ、フランスの人たち自身はフランス映画を海外の人に観てもらいたいと考えていて、輸出にも力を入れています。『最強のふたり』が世界的ヒットをしましたので、以来、世界的にもヒットする映画を作りたいと思っている気持ちはあります。すべてが成功するとは限りませんが『エール!』はうまくいっている例だと思います。
2014年は世界で1億1千500万人の人たちがフランス映画を観てくれました。世界の映画輸出国としては第二位なので、そういう意味では良い位置につけています。フランス映画の世界での売上は8億ドル、ヨーロッパのトップ10の映画の中にフランスの映画が5つ入っています。世界的に有名な監督としてはオリヴィエ・アサイヤスも居ます。国際的に知られている名前を上げるとリュック・ベッソンも居ます。作り方はアメリカ映画っぽいところもありますが、フランスの人を使ってフランス映画を作っていますし、世界的にも成功していると思います。
質問:フランスから見て日本市場は満足いく市場なのか?
イザベル氏:毎年、日本では40本ものフランス映画が公開されています。そういった意味では悪く無いと思いますが、もう少し頑張れるんじゃないかとも思っています。アラン・ドロンの時代ほどフランス映画が観られているわけではないので、ハリウッド映画に少しスペースを空けてもらってフランス映画が入り込む余地があればいいと思います。そして若い人にも観に来て頂きたいです。
質問:今後、日本の観客に観てもらいたいと強く願う監督作品はなんですか?
イザベル氏:この映画祭で、他では観られないような映画が観ることができたと考えてもらうのがすごくいいと思います。生きていて面白いのは、自分で思いもかけなかったことに出会える、発見できるというのは楽しいと思うんです。
フランスにも若手の才能溢れる人というのは非常に多く、そういう人たちが知られると良いと考えています。その中で一人挙げると、エマニュエル・ベルコが居ます。エマニュエル・ベルコは非常に才能あふれる女性監督で、そういう人がいて私たちも名誉に思います。女性の監督は男性監督よりも、さらに鋭いテーマを選ぶことが多いんです。だから女性監督も知られるようになるといいと願っています。
質問:『エール!』の中で、音楽教師が課題曲にする歌が十代の少年少女とはかけ離れているぐらい激しい愛の歌だったんですが、それはフランスで普通に選ばれているものなのか、たまたま『エール!』の中だけだったのか、どちらでしょうか?
イザベル氏:映画だからあのようなチョイスをしています。ミシェル・サルドゥの歌はフランスではすごくポピュラーな歌で、シャワーを浴びながら口ずさむような歌なんです。なので、ほとんど歌詞の意味を考えずに歌っています。確かに小学校では教えないですね(笑)。
学校で教えられる歌はジャック・ブレルとかジョルジュ・ブラッサンスとか、詩的に美しい歌が好まれますね。
質問:イザベルさんの経験を交えて、40代の働く女性たちになにかメッセージをお願いします。
イザベル氏:アドバイスと言うと非常に僭越ですが、私はたとえ不可能だと思える自分の夢があっても、その夢を持ち続け、実現するために突き進むのが重要だと思っています。私が高校を出た時に、映画好きの少女だということを話しましたが、まさか自分が東京に来てオリヴィエ・アサイヤスたちと一緒にいるなんて想像もできませんでした。夢を持つということと、仕事をしっかりとするということが大切です。100の時間があったら95%が仕事!残りの5%が自分の楽しむ時間ですね。
皆さんのジャーナリストとしての活動を見ていると懐かしさを感じます。私も20年間、インタビューなどをしてきましたので、ジャーナリストの仕事は素晴らしいと思っています。いろいろな人に情報を届けたり、知を拡げたりすることはとても大切です。
質問:ユニフランスの選定方法は?日本で公開が決まっているものもあれば、決まっていないものもある。どのようなバランスで選んでいますか?
イザベル氏:セレクションは配給の方々と協力して決めています。配給予定の作品も入れていますし、配給が決まっていない作品も入れています。
あとは多様性を楽しめるようにバランスを意識したセレクションをしています。悲劇(ドラマ)もあればコメディもあればドキュメンタリーもあればと気をつけて選んでいます。今年はアニメがありませんが、作品がある年はアニメも選んでいます。
質問:女性監督の活躍が目覚ましいですが、フランス映画の女性の活躍比率は高まっていますか?
イザベル氏:フランスはおそらく女性監督の比率が一番高い国だと思います。約25%が女性監督です。アメリカでは3%と言われています。観客は男性女性半々ですね。書籍は8割が女性が読んでいます。
質問:イザベルさんが感じる日本映画の特徴は?
イザベル氏:フランスで観られる日本映画は一部に限られているのですべてがそうではないと思いますが、長所は美しいという点があります。あとテーマが面白いと思います。心にグッとくる深いテーマが多く感じます。学校でいじめがあって、自殺する映画を・・・、「ソロモンの偽証」を観たのですがとてもいい映画でした。あれは日本映画の強さを感じました。
この合同取材に続いて、フランス映画祭オープニングセレモニーやトークショーも開催されています。そのレポートについてはまた追ってご紹介します。
2015年6月26日(金)から29日(月)まで、フランス映画祭は絶賛開催中です!
(取材:大場ミミコ・染谷昌利)
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