その 新作『ARIA』を見る前に伝えたいこと・・・
その 厳しい日常から夢の世界へ誘うヒーリング効果…
放送時間帯が日曜深夜であったこともプラスだったのかもしれません。明日からまた会社や学校といったことを考えて眠れなくなりそうな憂鬱な時間、こうしたヒーリング感覚のアニメーションに癒され、みな心地よく眠りにつく。そういった効果もあったように思われます(一方では、深夜アニメとは思えないほどにピュアな内容ゆえ、子どもたちにも見てもらいたいと夕方オンエアする地方もありました)。全体を優しく包み込む音楽効果も素晴らしいものがあります。
ユニークなのは、ウンディーネたちはそれぞれ会社に属しているのですが、人の言葉を解する火星ネコを社長に据えていることで、もちろんネコが経営一切をやるわけではなく、あくまでも会社の象徴として担っているわけですが、これを怠る会社は長続きしないといったジンクスもあるようで、それを裏付けるかのように、人間界とは隔絶されたネコだけの不可思議な世界がネオ・ヴェネツィアにあることを示唆してくれる回もあったりします。
その 知る人ぞ知る才人監督・佐藤順一…
監督は佐藤順一。『きんぎょ注意報!』(91)『美少女戦士セーラームーン』(92~93)『夢のクレヨン王国』(97~99)『おジャ魔女どれみ』(99~00)『カレイドスター』(03)『ケロロ軍曹』(04~11)『ふしぎ星の☆ふたご姫』(05)『ファイブレイン 神のパズル』(11)などなど、たとえその名は知らなくても、少なくとも現在30代以下で彼の作品を見たことがないという人(特に女性)はほとんどいないのではないかと思われます。
劇場用映画では、TM NETWORKの木根尚人の小説を原作にした『ユンカース・カム・ヒア』(95)がスタジオジブリの『耳をすませば』(95)を押さえて毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞し、ファンの熱意によって舞台となった東京・下高井戸で上映会を定例化させたほどの名作として知られています。また『ケロロ軍曹』の劇場版シリ-ズ全5作(06~10)では総監督を担い、最近では『たまゆら~卒業写真~』4部作(15~)のイベント上映も始まっています。
画コンテマンとしての才能も豊かで、『機動戦士Zダム』(85)『新世紀エヴァンゲリオン』(95~96)『少女革命ウテナ』『宇宙戦艦ヤマト2199』(13)など錚々たる作品群で画コンテを頼まれるなど、庵野秀明、細田守、幾原邦彦など多くの才能からリスペクトされています。さらには音響監督としての面もお持ちで(『ARIA』シリーズも音響監督を兼ねています)、声優陣からの信頼も高い才人です。
こういったキャリアの中で『ARIA』シリーズは佐藤監督がすべて監督を務めてきた点でも思い入れの深いシリーズであることは間違いなく、TV放映中も映画化を待望する声は多くありましたが、残念ながら当時はまだTVアニメの劇場用映画化に対して映画業界が積極的ではなく、よほど大ブームを巻き起こしたものでない限りは難しいといった状況でした。しかし映画のデジタル化も手伝い、今では多くの作品の劇場版が可能となって久しく、そうした風潮の中で『ARIA』という10年ほど前の作品の企画が蘇るというのは、やはり作品そのものの力が根底にあったと考えていいとも思います。
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