『向日葵の丘 1983年・夏』で描かれた 30年前の映画と自主映画製作
芳根京子のピュアな存在感
『向日葵の丘』では、3人の女子高校生が映画製作にいそしむ様子が、躍動感を伴って実に楽しく(時に照れ臭く⁉)描かれていますが、中でも芳根京子の存在感は圧倒的で、あの時代、確かにああいった雰囲気の少女がいたような……と素直に思わされるものもあります(ホントにいたかどうかは別にして)。
芳根京子は福島原発事故後の福島を舞台にした青春映画『物置のピアノ』(14)で主演し、そのピュアな存在感で見事に福島の悲劇とそれでも前に進んでいく希望の両面を体現していましたが、本作も同様で、現在TBS系ドラマ『表参道高校合唱部』でもお茶の間の好感度大。秋には新作映画『先輩と彼女』も公開される、個人的にも強く推したい期待の若手女優です。
こういったみずみずしい83年パートを受けて、30年後の現代パートを請け負う常盤貴子(多香子)、田中美里(みどり)、藤田朋子(エリカ)も負けていないのが本作の妙味でしょう。
ネタバレになるので多くは記せませんが、3人が再会してからのクライマックスは、ハンカチ必須。特に常盤貴子の壇上演説シーンはさすがの貫録です。
さらにはバブル期に突入したころの83年、皆が思い描いていた経済的豊かさの夢が、30年経ってどういう顛末を迎えたのか。そういった悔恨もそこはかとなく描かれることで、今なお経済面ばかり追求しがちで精神面の充実をおざなりにしている体制に対する意見具申もなされているように思えました。
古い映画館が重要なモチーフになっているため、日本版『ニューシネマパラダイス』的な宣伝もなされている本作ですが(音楽もかなりエンニオ・モリコーネを意識しているみたい)、むしろ映画を軸に3人の女性の友情の軌跡を描いた作品として認識したほうが作品の本質に触れやすいような、そんな気もしています。
少し照れ臭くも懐かしい、そんな30年前を体験した人もしていない人も、ひとときのノスタルジーに浸ってみるのも一興でしょう。
(そういえば、あのころ使っていた8ミリのキャメラも映写機も、いつだったか人に貸して、そのまま帰ってこなかったなあ。残っているのは、完成した作品のフィルムのみ……)
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(文:増當竜也)
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