『先輩と彼女』からさかのぼる芳根京子の魅力
前にも記しましたが、少女漫画の実写映画化は少年漫画のそれよりも成功例が多いように感じます。現在も『ヒロイン失格』が好評大ヒット中。そんな中、またも成功例として推したい『先輩と彼女』が公開されますが、その成功の理由には主演の芳根京子が大きく一役買っているようにも思われます。
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街 vol.42》
ただただ単純に、芳根京子礼賛!
直情的ヒロインの片想いと行動を
微笑ましく描き得た快作
『先輩と彼女』は南波あつこが2004年に描き、全2巻のコミックが100万部を越える大ヒットとなったバイブル的同名漫画を原作に、『東南角部屋二階の女』(08)で商業映画デビューを果たした池田千尋が監督した青春ラブストーリーです。
甘い恋を夢見る高校1年生の都築りか(芳根京子)が、ひょんなことから入部させられた現代文化調査研究部(とは名ばかりの、要するに遊び部)の高校3年生・美野原圭吾(志尊淳)に一目ぼれして猛烈アタックを開始するも、彼はOBの沖田葵(小島梨里杏)のことを想い続けていて……といった三角関係のお話。
単に恋する乙女の片想いストーリーかと思いきや、このヒロイン、なかなかの行動派というか、きっと自分に素直すぎるのでしょうか、先輩に対するアタックを含める言動の多くが、男性の目からするとあまりにも直情的で、「いや、それじゃ上手くいくものも上手くいかないよ……」とアドバイスしたくなるほどおののいてしまうのですが、何だか勝手にはしゃいでは勝手に傷ついていく、そんな片想いの現実が微笑ましく描出されているのが本作の長所であり、池田監督の同性を見据える温かな目線の賜物ではないかと思われます。
中盤以降、ようやくつきあうことになったものの、りかの余計な気苦労が災いして問題連発となっていくあたりも、さもありなん。このあたりは演出の方向性を誤るとヒロインの愚かさへ直結してしまう危険性も伴いますが、本作は決して道を誤ることなく、観客が望む結末へとスリリングかつ心地よく向かっていくのが美徳ともいえるでしょう。
そして、こういった美徳に大いに貢献しているのが芳根京子の個性であるとも思われてなりません。
ピュアな性格がオーラとなる存在感
テレビドラマ『ラスト・シンデレラ』(13)で女優デビューを果たし、NHK朝の連続テレビ小説『花子とアン』(14)では仲間由紀恵の娘を演じたりしていた芳根京子を注目したのは、映画『物置のピアノ』(14)です。
これは福島原発事故後の福島県桑折町を舞台に、風評被害に遭って苦悩する桃農家の内気な次女を主人公に、社会の偏見や家族内の確執、そしてヒロインの幼い頃のトラウマや思春期の成長などを慈愛豊かに描いた似内千晶監督の意欲的作品です。
華やかで社交的な姉がかつて用いていた物置のピアノを心のよりどころに、内気ながらも健気に3・11以降の福島で生きる少女を、芳根京子は映画初出演にして初主演、そして初々しく好演し、その印象を鮮やかなものとしていました。
今年に入ると、ももいろクローバーZ主演の快作『幕が上がる』(本広克広監督)で演劇部1年生の一人を演じていましたが、7月に始まったテレビドラマ『表参道高校合唱部!』で四国から東京に転校し、廃部寸前の合唱部を再建させつつ、離婚寸前の両親の仲をとりもとうとするヒロイン少女を好演。『物置のピアノ』とは真逆な、元気印に満ちたキャラもまた味わい深いものがありました。
8月に入ると、83年に文化祭で上映する自主映画を作ろうとした高校生少女たちの青春群像回顧劇『向日葵の丘・1983年夏』(太田隆文監督)でヒロインの一人を演じ、はてさて、あの頃はこういう映画少女がいたっけなあと、当時を知る世代としては気持ちよく妄想に浸らせてくれるものがありました。
これまで彼女が演じてきた役柄は快活であれ内気であれ、ピュアな性格がそのままオーラとなって存在感を決定づけるものが多く、その意味では『先輩と彼女』のりかもまさに同質のキャラクターといえるでしょう。
相手役の志尊淳も、本作と『表参道高校合唱部!』で芳根京子と共演していますが、こういうマジなイケメンって本当にこの世にいるものだなあと、男から見ても嫌味なく壁ドンも顎クイもこなしてしまえる二枚目ぶりで(自分がこういう顔だったらどんなに人生変わっていたことかと溜息をつかせてしまうものまである⁉)、その意味でも両者のコンビネーションも掛け算となって作品に大いに貢献しているのは間違いありません。
芳根京子も志尊淳も、しばらくは青春スターとしての登板が多かろうと思われますが、やがてどのような大人の俳優になっていくのか、何だか父親みたいな気分で見守っている自分がいたりしています⁉
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(文:増當竜也)
映画『先輩と彼女」は2015年10月17日(土)より全国ロードショー!
公式サイト http://senpaitokanojo.jp/
(C)「先輩と彼女」製作委員会
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