インタビュー

2015年11月05日

行定勲監督にきっかけを与えた作品——映画『ピンクとグレー』トークイベント

行定勲監督にきっかけを与えた作品——映画『ピンクとグレー』トークイベント



モノクロシーンの意味


MC「ピンクとグレーという言葉の意味合いはどう理解したんですか?」

行定監督「これもまたトラップで、常に原作ものをやるときはそうなんですけど、自分なりの理解がないといけなかった。『GO』みたいな明確なタイトルだったらいいんですけど、吉田修一さんの『パレード』のときも、じゃあなんでパレードなんだよ、と。まぁ『ピンクとグレー』は鮮やかなものと色がない世界と、そういうつかみ方でいいと思うんですよね」

MC「画面の中でもそれをにおわせる表現がありますよね」
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行定監督「モノクロのシーンもあってね。でも、グレーだからモノクロにした訳じゃないんですよ(笑)。『ピンクとグレー』だからモノクロにしたんだろう、と言われるとちょっと違う。単純にそう思ってる人もいるけど、まぁそれはそれでいいかな(笑)」

MC「姉と弟みたいな同じ血が流れてる人間と、結局自分と同じじゃない血が流れてるヤツへの思いと、そういう解釈もできますし、言えばいろいろ出てくる気もしますけど」

行定監督「今回、初めてモノクロで撮って思ったんですけど、モノクロって生々しく見えるもんだなぁって。色の情報が俺に向いてないと思いましたね。できればずっとモノクロで撮っていたい感じがする。モノクロだと役者の顔しか見ないでしょ? 余計なものを見ないし、演出してても余計なことが気にならない。「今、後ろに人が通ったんじゃないの?」とか、気が散らずに被写体に目がいくんですよ。カラーで見ていても作り物のように見えるし、生々しさってなかなか出ないものだなぁって。生々しく映し出すっていう手法はあると思うんですけど、モノクロの方がやけにひとつひとつの表情みたいなものを明確に捉えられる気がしましたね」

行定監督の感じたアイドルのすごさ


イベントの後半ではQ&Aが行われ、客席から監督への質問が寄せられました。

質問「行定監督の『真夜中の5分前』という作品を観た時もアイデンティティについて考えさせられたんですけど、今回撮るにあたってアイデンティティについて考えられたところはありますか?」

行定監督「自分自身が何者かわからないですからね、常に。僕自身もわからないから撮るというのもあるんです。特に人の小説を映画にする時、その作家が何をいわんとしてるかなんて、聞いても答えないですから。で、自分なりに登場人物のことを考えながら、その考えてる状況とか結果とか、自分が考えたなりに見つけ出したものの断片が映画の中にあるんだろうと考えていて。僕個人としては自分自身のアイデンティティはあまり考えないですね。それはだいたい他人が決めてることだと思ってるんですよ。他人から言われると、そうかなって。僕の発言とかが「キツいですよ」って言われると、「優しいのにな」って思ったり、「じゃあ静かにしてよう」と思ったりとか。他人に言われないとわからないですよね。それでいいと思っているからでしょうけど。ただ、小説家や映画を作る人間たちっていうのは、常にアイデンティティっていうものを思うのかもな。それは、何者か分からないものを少しでも知ろうとする行為かなと思ってます。そういう意味でいうと『ピンクとグレー』という作品は、アイデンティティが明確にならない時期から、少しそれがつかめてる時期の愚かさを描いてる感じがします。わかっちゃいないくせに、みたいな。結果、リバちゃんは何も分かってないですよね。もう一度ゼロから、ここから始まるんだろうな、と。「サリーのことを大切にしてやってくれよ」というのが他者が彼に対して与えた評価ですよね。今は「お前はサリーを大切にしてやることくらいしかできないよ」っていうね。でもそれがすごくいいなと思って、そこを強調したいなと思って作りました」

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質問「小説ではリバちゃんが主人公ですけど、映画でゴッチを主人公にした理由が知りたいです」
行定監督「中島裕翔くんが似合うのがゴッチだと思ったんですよね。本当にアイドルってすごいんですよ。ジャニーズ事務所のアイドルのすごさを僕は映画の中の演出で実感できた。「Hey Girl」っていう80年代っぽい感じの不思議な歌があるんですけど、プロモーションビデオを撮った時、ものの15分くらいの撮影ですけど、彼はキメキメでほとんどOK。柳楽優弥くんでも同じものを撮ろうと思ったんだけど、彼は全くできなかったからカットしたのね。誤解を恐れずに言うと、恥ずかしげもなくカメラに向かってアピールするっていうのは、本当にプロじゃないとできないんですよ。それができちゃうし、恥ずかしくもない。そりゃそうですよね、東京ドームとかで「きゃー!!」って言われる中でアピールしてますから。でも、後半で彼は芝居の引き算をしないといけなかったから、クセで首の後ろに手をやるクセを前半ではやめさせて後半に生かそうと思って。後半は黙ってるとすぐ首の後ろに手を回してるんですよ(笑)。あと、菅田将暉という優れた俳優、今日本映画界が本当に欲しているような奇才だと僕は思うんですけど、彼と五分にやれるし、お互いがリスペクトしてるのが分かる。仲が良くて、いつもベタベタしてるし、釜山映画祭の時もふたりで手をつないで夜の街を歩いてるんじゃないかっていうくらい。そのおかげもあって、この映画の関係性をうまく作れたと思ってますけどね」

質問「原作小説があるものを映画化するにあたって、いろいろな意見があると思いますが、原作者の加藤さんや他の方と原作との違いについて話したりはしましたか?」
行定監督「加藤くんにはまだ聞いてないんですよ。加藤くんは映画が好きで、映画をよく観ていて、役者としても映画俳優をもっとやっていきたいという気持ちを持ってる方だと思うんですけど、そういう意味では理解してくれるだろうなと最初から思っていて。脚本を読んでもらった時には「実験的な部分もあって、行定監督の本気度が伺えました」というコメントだったので、原作を元にした映画の作られ方があると理解してる人だと思うんですよね。自分の原作を大切にしている小説家だと「一字一句直すな」という方もいらっしゃると思うんですよ。それはそれで受けて立たなくちゃいけないし、こっちのハードルも上がるっていう話だけど。そういうタイプと、加藤くんみたいに、あえて言わず監督がどう受け取ったかというのを見るっていうふたつに分かれると思うんですよね。「変えるな!」といわれるのも、ものすごく燃えるんですけど、あまり言われたことがないんですよね。僕が聞いてないのかもしれないですけど(笑)。でも、誰よりもこの小説が好きだと思わないと映画にできないと思うんですよ。そうじゃないと、その小説を預かれないというかね。だって、生み出す小説家が絶対に一番大変。だから映画監督も原作に頼らないで、ゼロからオリジナルを生み出すべきだと思う。それは一番大変なことだし、一番面白いことだとは思うんですよね。「これだったら」と思う小説と出会えば映画化しているっていう気持ちは、常にありますけどね」

これまで行定監督がどのように映画を作ってきたのかも知ることができ、より深く作品を楽しめるトークイベントとなっていました。
映画『ピンクとグレー』は2016年1月9日(土)より、全国ロードショーです。

(文・取材:大谷和美)

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