「ちょっくら映画館に行ってきました。」~第2回:横浜シネマリン~
試行錯誤ながらも
さまざまな意欲的試み
かくして2014年12月12日より。新しい横浜シネマリンがスタート。プレイベントとして小津安二郎監督の無声映画『青春の夢いまいづこ』(32)を柳下美恵のピアノ演奏で上映。ピアノは横浜の名物映画館のひとつジャック&ベティからお借りしたとのこと。
「これは素晴らしかったですね。もとから音楽があったかのように画にぴったりしていて、あたかも台詞のある映画を見ているような気分でした」
13日からはいよいよオープニング作品『おやすみなさいを言いたくて』(13)と、その主演女優ジュリエット・ビノシュ特集を開催したものの、これが意外に苦戦だったようだ。
「もう全然入りませんでした(苦笑)。特集上映のほうも『汚れた血』(86)や『ポンヌフの恋人』(91)はそこそこでしたが、最近の『夏時間の庭』(08)や『トスカーナの贋作』(10)はもう燦々たるありさまで……。映画館が置かれた厳しい現実を思い知らされましたね」
しかし翌15年2月には、40年以上におよぶ日本のフェミニズム運動を描いた松井久子監督のドキュメンタリー映画『何を怖れる What are you afraid of?』(14)を上映し、これが大成功を収めた。
「松井監督の新作ならばぜひ観たいと、あいち国際女性映画祭2014のプレミア 上映に名古屋まで駆けつけましたが、監督は自主上映活動で上映してくことしか考えていなくて、それはもったいない、それならぜひうちで上映させてくださいと直談判しました。そういうことならばと、とりあえず東京の渋谷シネパレスさんとうちの2館で上映することが決まり、蓋を開けてみれば全国からお客さんがいらっしゃいまして大盛況だったんです」
それ以降も自分たちが見せたい映画という基本理念を崩すことなく、ジャンルを問わず何でも上映し続けてきた。
「この地域にどんな映画がぴったりくるのかがまだわからないので、ひと通り何でもやってみようということで1年やってきましたが、一番当たったのは『この国の空』(15)で、同時期に公開した『ソ満国境 15歳の夏』(15)も相乗効果ですごく好評でした。そもそも2015年は戦後70年ということもあって、私自身も興味ありましたし、こういった関連の作品はドキュメンタリー映画も含めて、今後も上映し続けていきたいです」
12月には戦争映画特集「戦後70年は終わっていない」を開催。『野火』(15)の塚本晋也監督をはじめ、各作品の監督を招いての舞台挨拶なども行っている。
「戦後70年の締めくくりとして、どうしてもうちでもやりたかったんです。また『ソ満国境 15歳の夏』はまた見たいという声がすごく多かったので再上映することに決めました」
地域性という点では、韓国映画も好評とのこと。
「近くに韓国人街があるので『国際市場で逢いましょう』(14)を上映したら、ものすごく入りまして、ご覧になったみなさんから『次、韓国映画はいつやるの?』って聞かれたんですね。それもあって16年1月9日から、同じファン・ジョンミン主演の刑事アクション映画『ベテラン』(15)を上映いたします。ファン・ジョンミンならシネマリンだぞと(笑)」
子ども向けワークショップの開催
映画学校との連携も
一方で、前横浜シネマリン時代は定番でもあった春や夏、正月のファミリー向けアニメーション映画の上映を今年はやらなかったことで、かなりの問い合わせがあったようだ。
「館としての路線をいきなり変えすぎてしまったことの反省はありますね。実際、日本のアニメは素晴らしいものがいっぱいありますし、『百日紅』(15)もうちで上映しています。私自身、大友克洋監督や今敏監督作品など好きなものもありますので、今後はそういう方向性も見直していければと思いますね」
ただし、12月13日にはチェコの実写と人形アニメーションを組み合わせた快作『クーキー』(10)を用いての子ども向けワークショップを開催といったユニークな試みも行っている。
「映画館を始めるにあたって、子どもたちに向けた企画はやってみたかったものですから、石川県金沢市シネモンド代表の土肥悦子さんがずっと催されている〔こども映画教室〕をぜひご一緒させていただきたいと。今回はシネクラブということで、映画鑑賞+ワークショップのプロジェクトです。まず映画館探検をしてもらい、映写室見学も含めて映画はこうやって映すんだよということや、パラパラ漫画をさわってもらいながら映画の原理をわかりやすく説明し、その後で実際に映画『クーキー』を見て、その感想を語ってもらいつつ、ではその魅力をみんなに伝えてみようとポスターを作って、それを親御さんたちに発表するといった内容です。作品の選定は土肥さんと二人で作品を出し合うことになっていましたが、それぞれ別のところで試写を観て選んで来たのが二人とも『クーキー』で、即決定でした(笑)」
ちなみに、私が初めて横浜シネマリンを訪れたのは、未だに東京では上映されていない、一人芝居で知られるパフォーマーいずみひながお姫様から王子、魔女に至るまで全役を一人で務めるという前代未聞の渡邊世紀監督による怪、いや快作カルト・ファンタジー映画『愛のレシピ~卵ランド~』(15)のときで、こういったインディペンデント作品の上映にも積極的だ。
「あれは不思議な映画でしたね(笑)。上映中もイベントに毎回登壇されたいずみひなさんのパワーに押されまくりで、その盛り上がりもすごかったのですが、館の常連さんからは『シネマリン、これからどこへ暴走するつもりだ?』とも言われました(笑)。
実際、インディペンデント作品の興行そのものはなかなか厳しいところがあるのも実情ですが、私自身映画美学校を卒業しておりますので、今後は美学校や日本映画大学さんなどとの連携も企画していますし、近所に東京藝術大学さんもあるのですが、そこの大学院映像研究科の教授も務めてらっしゃるアルタミラピクチャーズの桝井省志さんと小学校時代の同窓生だった縁もありまして(笑)、自主映画の撮影に協力したり、いろんなことをやらせていただいております」
リニューアル1周年を迎えての
今後の展望
さて、こうしてめでたく1周年を迎えた横浜シネマリンだが、その記念の一環として会員限定ではあるが、12月6日にはアルタミラピクチャーズ制作の『がんばっていきまっしょい』(98)を無料上映し、桝井プロデューサーに磯村一路監督、そして主演の清水真実、葵若菜、真野きりな、久積絵夢が来館してトークショー&会員との交流イベントを開催。
「当日は撮影当初からの応援団“がんば会”の方々も全国から集まり会員になって参加され、さながら同窓会のようなトークイベントとなりました。4人のボート部メンバーたちは、それぞれ魅力的な女性に成長され、撮影当時を振り返った爆笑トークに、会場も終始笑いが絶えませんでした。来年もこの贅沢な企画を、がんばって企画しまっしょい!」
ちなみに特集上映「戦後70年は終わっていない」と、12月13日に開催された『クーキー』上映とこども映画教室シネクラブも、1周年記念企画のひとつである。
そして年末年始は“松竹120周年祭”として9作品が上映されるが、奇しくもラインナップの中には『晩春』(49)『東京物語』(53)『秋日和』(60)と、先頃亡くなったばかりの原節子主演映画も含まれていた。
「本当に驚きました。ちょうど松竹さんのデジタルリマスター化された名作9作品を上映させていただくことになっており、チラシを入稿しようとしているときに訃報が入りまして……。結果として追悼上映になってしまいましたが、この機会にぜひみなさんに見ていただければと思います」
この1年やってきて、今後の展望なども見えやすくなってきているのではないだろうか。
「せっかく女性がオーナーの映画館なのですから、女性がきちっと生きていく様を描いた映画は上映していきたいですね。もちろんシネコンさんで上映した作品のムーヴオーヴァーもやっていきますが、その上でやはり自分たちがやりたい作品を。さっそく来年早々には写真家を題材にした『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』(13)など写真家の特集を企画していますし、また食の安全とか食べ物にまつわる映画の特集もやってみたいです。
11月には日本映画大学さんと連携して、脚本家特集をやらせていただいたのですが、こういった旧作を集めた特集上映も、せっかく35ミリ映写機もありますので、今後も定期的にやっていければと思っております」
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(文:増當竜也)
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