映画コラム
SEXによって相手に伝染する「それ」に迫り、考えさせる「イットフォローズ」
SEXによって相手に伝染する「それ」に迫り、考えさせる「イットフォローズ」
日本では今年の1月8日に公開され、その斬新な内容と怖さが、映画ファンの間に口コミで広がり、未だにロングラン上映を続けているのが、この「イット・フォローズ」。
SEXによって相手に伝染する「それ」。それは静かにゆっくり、しかし確実に、真綿で首を絞めるかのように、次第に自分を狙って近づいて来る。誰か異性とSEXして相手に移せば、自分は一時的に助かるが、その相手が「それ」に殺されれば、再び自分が狙われる事に!
果たして「それ」の正体は?主人公は、「それ」から逃れる事が出来るのか?
(C)2014 It Will Follow. Inc,
イギリスの映画雑誌「エンパイア」が選ぶ、2015年のベスト映画20本の1本に選ばれた事からも判るように、その面白さと怖さは保証付きと言える。しかし、「難解な内容」との前評判から、意外と劇場に足を運ぶのを躊躇されている方も多いようだ。
本作がアメリカで公開された際、多くの観客が「性病=エイズ」に対する警告、つまりセーフセックスの重要性が、「本作の裏テーマ」だと考えたらしく、様々な意見や解釈が、ネット上で論争を巻き起こした。
しかし、後に監督自らがこれらの解釈が間違いであり、実は本作は「愛」についての映画だと、語っている。
そう、確かにこの映画は、単なるホラー映画では無い。紛れも無く「愛の意味」についての映画だ。
表面上はホラー映画の形を取りながら、映画全体に漂う「爽やかさ」「瑞々しさ」が非常に印象に残るのは、役者の自然な演技を引き出した、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の演出力による所が大きい。
特に主人公のジェイを演じた、マイカ・モンローの存在感と、独特の透明感あふれる演技は素晴らしく、彼女の次回作が、あの超大作「インディペンデンスデイ2」なのも納得だ。
そして本作のもう一つの魅力が、今回脚本も担当したデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の見事な構成力だ。
過去のホラー映画が発明してきた、数々の「オリジナルの設定」を集約し、なおかつJホラーの要素までも取り入れていながら、単なる「模倣」や「パクリ」で終わらせておらず、完全なオリジナル作品として完成させた、彼の構成力は評価できる。
作品中に散りばめられた数々のセリフや、ラストで語られる「ある詩」の朗読、そして次々に姿を変えて出現する「それ」の姿を見れば分かる様に、本作での「忍び寄る恐怖」とは、結婚・出産・老後の介護など、人間が成長する上で現実に生じる、様々な問題に他ならない。
更に言うなら、誰にでも必ず訪れ、決して逃れられない物。つまり、「時間の経過」や「老い・死」の象徴であるとも言える。
女性にとっては、結婚・出産後の「育児問題」と置き換えた方が、より判り易いかも知れない。
よって、その姿が作り物のモンスターである必要は無く、過去のホラー映画の様に、無差別に殺戮を繰り広げる必要も無い。
むしろ、嫌でもいつかは向き合わねばならない「自分にとっての現実的な姿」である事に意味があると言えるだろう。
だからこそ、「それ」は、取り付かれる人間によって、その姿を次々に変えるのではないか?確かに、見る人によって様々な受け取り方が出来る点で、その造型は十分に成功している。
冒頭で述べた様に、これは「愛についての物語」。「それ」が決して避けられない、いつかはやって来るものであるなら、二人で受け入れる。
そう、この映画「イット・フォローズ」は、人生の伴侶を得て、やがて現実に直面する様々な困難に、二人で立ち向かうにいたるまでの物語だ。
その意味では、女性にこそオススメしたい映画だと言えるだろう。
意外にも、本作には直接的な残虐描写は、ほとんど出て来ない。冒頭の導入部で一瞬だけ見せて、以降は観客の想像力に訴えかける演出を取り、あえて直接的な表現や描写を避けているので、「えー、でも怖いの苦手だし・・」と言っている、そこのあなたでも全然大丈夫!
果たして、あなたは「それ」を受け入れるのか、それとも永遠に「それ」から逃げ続けるのか?監督の言う通り、「愛」の意味が試されるこの映画、まさに我々全男子にとっても必見の映画だと言える。
最後に、「難解な映画」との前評判に、ちょっと観に行くのを躊躇しているあなた、大丈夫です!
本編中のセリフや詩の内容、その他にも様々なヒントが隠されていて、気をつけて観ていれば十分理解できる様に作られているので、ここは安心して自分の大切な人とカップルで観に行くのがオススメ!
きっと鑑賞後、その人と手を繋いで、帰りたくなるはずだから。
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(文:滝口アキラ)
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