映画コラム

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2016年07月18日

史上最恐ホラー誕生!超コワいと大評判!その秘密とは?「死霊館」続編。

史上最恐ホラー誕生!超コワいと大評判!その秘密とは?「死霊館」続編。

死霊館 エンフィールド事件 ポスター

(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED


前作「死霊館」を遥かに上回る恐怖と、観客の高評価を引っさげて、ついに日本上陸した待望の続編!それがこの「死霊館・エンフィールド事件」だ。

本作を見た人が口々に言う、「今まで見た中で一番コワい!」、「この映画はコワい!」との感想の数々。それらをネットで眼にした方も多いのではないだろうか。実は今回、ネットでのあまりの評価の高さに、急遽公開二日目の日曜日、夜の回で鑑賞して来ました。千葉のシネコンという立地条件を考慮しても、残念ながら大ヒットというほどの入りでは無かったものの、それは映画の出来とは関係無し。さて、実際に劇場で観たその内容は・・・。

はい、出ました、今年下半期ベスト1!いや、評判通りこれは素晴らしかった!映画として良く出来ているのはもちろんだが、まさか、「映画史上、未だかつてない恐怖体験に世界は戦慄する」、この宣伝コピーそのままの映画だったとは!

女性の方、あるいはデートでの鑑賞にも十分対応出来るという、まさに「神対応」ホラー映画として心からオススメ出来るのが、この「死霊館・エンフィールド事件」なのです!

ストーリー


1977年、イギリスのロンドンで実際に起こった、「史上最長期間続いたポルターガイスト現象」、通称「エンフィールド事件」。少女ジャネットと家族を襲う様々な心霊現象は、次第にその激しさを増し命までも脅かすようになっていった。アメリカに住む心霊研究家のウォーレン夫妻は教会の依頼を受け、事件の調査と少女を救うためロンドン北部の街エンフィールドへと赴く。しかし、そこで彼らは文字通り地獄を眼にすることに!果たして、夫妻は少女を悪霊の魔手から救うことが出来るのだろうか?

1977年のロンドンが舞台。その時代を反映してか、なんとモンティ・パイソン風のテイストが!


本作の舞台となるのは、1977年12月のイギリス・ロンドン。そのためか、特に前半のシーンに、70年代当時のイギリス人気テレビ番組「モンティパイソン」へのオマージュが多数含まれている。ホジソン家で起きた心霊現象を伝えるテレビ番組の描写などは、完全にモンティパイソンのテイストを再現したものであり、一番良く判るのは、ある印象的なおもちゃとして登場する、「シリーウォーク=アホ歩き」へのオマージュだろう。その他にも色々隠されているので、興味のある方はぜひご自分で探して頂くのも面白いかもしれない。

実は「モンティ・パイソン」以外にも、70年代当時を象徴するアイコンが本作の中には登場しているのだが、今となっては判りにくいと思うので、ここでちょっと解説させて頂こう。

ジャネットとお姉ちゃんの部屋に貼ってあったポスターは、当時大人気だったドラマ「刑事スタスキー&ハッチ」の主役の二人、ポール・マイケル・グレーザーとデビッド・ソウルのポスター。ちなみにお姉ちゃんがヘッドフォンで聞いている曲は、歌手でもあったデビッド・ソウルのヒット曲「やすらぎの季節」であり、この歌は日本で「スタスキー&ハッチ」が放映された際には、日本版エンドクレジットに流されていたので、聞き覚えのある方も多いのではないだろうか?

その他にも、やはりこの時代に抜群の人気を誇っていた、イギリスのアイドルグループ「ベイシティ・ローラーズ」のポスターも貼ってあるなど、1977年当時のポップカルチャーアイコンを見事に押さえたこの並び!実は、エンドクレジットに出て来る実在のホジソン家の写真を見れば判るとおり、実際の部屋に貼ってあったポスターを忠実に再現したものだということが判る。こんなことまで完璧に再現した製作陣のこだわりこそ、本作成功の重大な要素だと言えるだろう。

天才子役、マディソン・ウルフちゃんがコワ過ぎる!


本作で数々の心霊現象に巻き込まれる少女ジャネットを演じるのが、若干13歳の天才女優、マディソン・ウルフ!とにかく彼女の天才的な演技力には驚かされた。特に本格的に悪魔に取り付かれてからの表情といったら!70年代を代表する心霊ホラー映画「エクソシスト」で本格的なデビューを飾ったリンダ・ブレアを彷彿とさせるほどの、大人顔負けの演技力を見せてくれる、彼女の表情と演技のあまりの凄さに、本気でコワくなるので要注意!

人も死ななきゃ、血も出ない!だが、最恐にコワい映画、これはもはや奇跡!


「ホラー映画って残酷で血がドバドバ出るから苦手・・」。はい、実は、そんなあなたにこそ是非観て頂きたいのが本作!

なにしろ、登場人物が誰も死なない、しかも殆ど血が流れない!「え〜!でもそれじゃホラー映画としてコワくないんじゃ?」、そんな声が聞こえて来そうだが、それも全然大丈夫!本作のコワさとは、そんな表面的な部分ではないからだ。なにしろ、直接的な残酷描写に頼らない分、観客の想像力に直に訴えかけてくる部分が多い、そこが最高にコワいのだ。今までのホラー映画とは一線を画す、真の「心霊恐怖映画」の上陸を、是非劇場で体験して頂ければと思う。

夫婦愛と家族愛、そしてやはりご近所付き合いも大事!


本作が単なるホラー映画とは一線を画す点、それはこの映画で描かれる「家族愛と夫婦愛」の要素だろう。特に前半部を通じて丹念に描かれるホジソン家の生活描写。貧しく厳しい経済状態でありながら、多くの愛情を母親から受けて育っている子供達の様子が描かれることで、突然の心霊現象に襲われた家族の恐怖と驚きがより観客にリアルに襲い掛かってくる。更には、夫婦お互いを唯一無二のかけがえの無い存在だと思っている、心霊研究家のウォーレン夫妻の描写。この二つの物語が出会い、そして共通の目的に向かって戦う中で両者が理解しあう瞬間の素晴らしさ!

それに加えて個人的にツボだったのが、ついに本格的に心霊現象に襲われたホジソン一家が、お向かいのお家に助けを求めて押しかけるシーン。まるで「サザエさん」のアニメを観ているようで、思わず笑ってしまった。でも、ちゃんとお隣の家族は一家を受け入れて泊めてくれるし、ラストの展開ではお隣のご主人が結構重要な役割を果たしたりするので、やはり日頃のご近所付き合いは大事!皆さんも、もしもの時のために日頃のご近所付き合いだけは、くれぐれも大事に!

現代のホラーマスター、ジェイムズ・ワン監督のカメラワークは、やっぱり凄かった!


冒頭の学校でのワンシーン長回しの移動撮影に始まり、各所で印象に残るのが、その個性的なカメラワークだ。まるで生き物のように滑らかにスルスルと動き回るカメラ!特に素晴らしいのが「神の目線」とも言える俯瞰からの移動ショットだろう。完全に人間の生理を越えた動きからは、それだけで異質・異様な印象を受ける。観客の深層心理に直に働きかけ、不安感を煽るようなそのカメラワーク。あなたも気が付かないうちに恐怖の種を植え付けられているかもしれない。

最後に


この映画で最高なのは、その使用される楽曲のチョイスだろう。冒頭で流れるホリーズの「バス・ストップ」だけで、すでにグッと心を鷲づかみされたのだが、中でも素晴らしかったのが、本編で印象的に挿入される、エルビス・プレスリーの「ラブミー・テンダー」を歌う場面だ。一見唐突で、ホラー映画の世界にはそぐわない場面のように見えるのだが、実はこの場面こそが、ラストのある展開での主人公たちの「モチベーション」となる大事な場面だと後に判る。アメリカ文化の象徴であるエルビスの代表曲を通じて、イギリス人であるホジソン一家とアメリカ人である霊能者のウォーレン夫妻が、お互いに分かり合ってまるで一つの家族の様になる、素晴らしいシーン。これがあるからこそ、ラストの展開におけるあの疾走感と緊張感が、抜群の説得力を持って観客に迫ってくるのだ。

それに加えて、映画の前半部でじっくり丹念に積み重ねて描かれる、ホジソン家の生活の様子。こうした丁寧でツボを心得た演出こそが、本作を通常のホラー映画とは一線を画す傑作に仕上げた最大の理由だと言えるだろう。

鑑賞中は全く長さを感じなかったのだが、本作の上映時間はホラー映画としては異例の134分という長さ!これだけの長時間にも関わらず、全くダレることなく最後まで観客の興味を引き付けていったのは、やはりその見事な脚本によるところが多いと言える。

なにしろ脚本にクレジットされているのが4人、しかもその中には「エスター」の脚本家である、デヴィッド・レスリー・ジョンソンの名が!このように練り上げられた脚本に、天才職人監督の演出力、そして優れた俳優陣の演技によって深みを与えられた登場人物。しかも、人が死なない血も出ない、でも最恐にコワい!こんな奇跡のような映画を劇場で観ない理由があるだろうか?DVDレンタルで観て、「やっぱり映画館で観ておけばよかった!」、そんな風に後で後悔しないよう、今すぐ劇場に駆け付けるのが、絶対にオススメです!

さて、このように優れたホラー映画が公開された絶好のタイミングで、日本の「ホラーマスター」であり、ブルボンのお菓子研究家「ブルボニスト」としてもお馴染みの、三宅隆太監督による映画脚本論の第二弾、「スクリプトドクターの脚本教室・中級編」が出版されたので、この機会に合わせて読まれてみてはいかがだろうか?

本作のように優れた脚本がどのように生み出されるのか?あるいは、脚本の問題点をどのように直し、完成形に持って行くのかという、映画製作の基礎が学べる最良の映画の教科書なので、ぜひとも夏休みの読書のお供にオススメさせて頂きたい1冊です。

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(文:滝口アキラ)

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