君は「シン・ゴジラ」を見たか。


【ネタバレ解禁バージョン】


会議で物事を決めている連中への不信感


女の後輩 ただいま戻りましたあ。

先輩 おう。どーだった?「シン・ゴジラ」?

女の後輩 凄かった!! もー話したいこと、いっぱいありますよ!!

先輩 みんなこの映画を見ると、語りたくなっちゃうのさ。

女の後輩 まず前半でスーツ姿のおじさんたちが、ズラリ顔を揃えてゴジラ対策をあーでもない、こーでもないって話し合うシーンが延々続くじゃないですか。あの気持ち悪さ。

先輩 やっぱりそこから行くか(笑)。確かに気持ち悪いんだよな、あのくだりは。みんな判で押したようにスーツを着て、無機質な会議室で話し合いを続けているんだが、新品同様のデスクに、机上のマイクの角度さえも揃っているあたり、確かに気持ち悪い。その中で長谷川博己の主人公・矢口だけが異論を唱えるんだが。

女の後輩 容易ならざる事態と分かって、まずやることがスーツを脱いでジャンパーを着ること(笑)。あれって現実でも災害が起きた時、ちょくちょく見る光景ですが、何の意味があるんでしょうね?

先輩 あのくだりを見ていて、僕は19年前にやった取材を思い出したよ。エヴァについての取材なんだけど。

女の後輩 ヱヴァですか?

先輩 いやいや、前のエヴァ。「新世紀エヴァンゲリオン劇場版:シト新生」の公開前に、庵野総監督に取材を申し込んだんだけど、多忙とのことでキングレコードの大月俊倫さんが代わりに対応してくれたんだよ。

女の後輩 大月さんって、エヴァのプロデューサーじゃないですか。

先輩 それで大月さんの話を聞いたんだけど、最初の一言でビックリした。「エヴァを作る時、庵野さんが出した条件がある。それは“もしお前が何かを決める際、「会議で決まった」「会社の意向として」という言い方をした場合、オレは即座に作業を打ち切る。または、そう捉えられることも含む。ただし大月個人の意見は聞く。聞く耳を持つ”。そういうことなんだそうだよ。

女の後輩 はあぁぁぁ・・・・・・・・強烈ですねえ。

先輩 とことん組織というものを信用してないんだよ。だから「シン・ゴジラ」のあの会議シーンだって、僕から見れば「こんなヤツらがくだくだやってるから、万事後手後手に回るだけで、ろくな対策が立てられない」という風に見える。スーツ姿のおじさんたちは、記号に過ぎない。エヴァにも出てきたじゃないか、ゼーレって連中が。現場で汗を流さないで、指示だけする正体不明なヤツら。あれだよね。

女の後輩 宮崎駿監督の「風立ちぬ」にもありましたよね。堀越二郎の作ろうとする飛行機に対して、軍部が色々と会議の席で注文をつける。でも堀越は会議に出ているものの、聞いていない。

先輩 そうそう。黒川さんに「お前、聞いてなかっただろ」と見ぬかれてたよな(笑)。やっぱり庵野総監督には「現場に出もせず、会議ばかり開いて結論を勝手に出してしまうヤツ」に対して、猛烈な嫌悪感と不信感があるんだろうね。結局ゴジラ対策に力を発揮するのが、各部署の問題児やはみ出し者、おたくが集まった「巨大不明生物災害対策本部」、通称「巨災対」だというあたりにも現れている。

女の後輩 独立愚連隊ですね。

先輩 お、出たね、牧もと教授。いや岡本喜八監督。

WEB用_シン・ゴジラ_サブ03(PC壁紙画像・携帯待受画像には使用できません)


(C)2016 TOHO CO.,LTD.



この映画の本当のヒロインは、市川実日子である(断言)!!


女の後輩 で、そういう「こんなヤツらが会議ばっかりやってるから、ゴジラにやられるんだ」という前半が終わり、あっけなく政治家の皆さんは、ほぼ全員死亡。その頃外遊していた、農林水産大臣が臨時の総理になるあたり、これまた皮肉が効いています(笑)。

先輩 アメリカからの特使として登場する、石原さとみのカヨコ・アン・パターソン。生意気で強きで上から目線で、石原さとみでなければ、グーで殴ってやりたいキャラだが、これはどう見てもアスカ・ラングレー。惣流か式波かは知らないけど。

女の後輩 さすがはイーオン仕込みの英語で、まくしたてること!!

先輩 嫌なキャラだけど、見ていて不愉快じゃないんだよな。というのは、この役って石原さとみ以外に出来ないんじゃないかな。こんなにアニメっぽいキャラだとは思わなかった。綾瀬はるかでは、こんなに早口でまくしたてるような台詞は言えないだろ(笑)。

女の後輩 この映画の持つ情報量はもの凄く多いので、俳優さんが皆早口で台詞をまくし立てていますね。主演の長谷川博巳が「早口で台詞言わない芝居はカットする」って総監督に言われたとか。

先輩 だから、総体的に何がどうなってどうやっているかは分からないんだけど、何か大変な事態が起こっているという、その緊張感は凄く伝わるんだよ。これは俳優の芝居、台詞の早さ、それと編集のテンポの良さが一体化した成果だよ。とにかく早口で台詞を言うべし。この映画に相応しい演技指導じゃないか。

女の後輩 早口すぎて、舌を噛んだ俳優さんもいるんじゃないでしょーか(笑)。労災、認定されるのかなあ。中でも絶品なのは、市川実日子の環境省官僚!!

先輩 賛成。無愛想でぶっきらぼうで色気がなくて、ストレートにものを言うキャラで、いわば石原さとみの特使とは対照的な役柄なんだけど、彼女の存在感がどんどん増してくると同時に、映画も佳境に入る。「シン・ゴジラ」の本当のヒロインは、市川実日子だよ。これはもう、断言してしまおう。いいぞ市川!!

女の後輩 その断言には同調します。

WEB用_シン・ゴジラ_サブ07(PC壁紙画像・携帯待受画像には使用できません)


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シン・都知事が「取材協力」としてクレジット。


先輩 色々と語りたいことはまだあるけど、今回はこのくらいにしておこうか?

女の後輩 続くんかいっ!?

先輩 これだけ語りたくなる映画も珍しいし、誰かと話していると、色々な発見があるからまた映画を見たくなる。どれだけ東宝の決算に貢献するんだ(笑)?
女の後輩 クレジットには夥しい数の関係者が登場しますが、気になったのは「取材協力 小池百合子」という・・。

先輩 おお、シン・都知事(笑)。

女の後輩 おそらくは、余貴美子分する防衛大臣の役柄について協力したのでしょうが、彼女がこの映画をどう見たか、興味がありますね。

先輩 都庁からシネコンが近いんだから、ぜひ見た上で感想を聞きたいものだね。

女の後輩 ほんと。語りたいことはまだ数々ありますが・・。

先輩 で、これからどーする?僕は好きにするから、君も好きにすれば?

女の後輩 そうします。

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(企画・文:斉藤守彦)

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