『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』が必見である5つの理由
(C)Cartoon Saloon, Melusine Productions, The Big Farm, Superprod, Norlum
公開中の『君の名は。』は絶賛の声が相次ぎ、大ヒットっぷりがもはや社会現象と言えるレベルになっています。では、その『君の名は。』を超える高評価を記録しているアニメ映画が、現在公開されていることをご存知でしょうか?
そのアニメ映画のタイトルは『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』。ミニシアター系の公開なのでご存知でない方も多いでしょうが、第87回アカデミー賞長編アニメーション賞ノミネート、第28回ヨーロピアン・フィルム・アワード長編アニメ賞受賞、映画レビューサイト“Rotten Tomatoes”で驚異の満足度99%と、圧倒的な支持を集めている作品なのです。
そして、日本の映画レビューサイト“coco”でも92%と、『君の名は。』の89%を超える評価を叩き出しています!(9月上旬現在)
この『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』がいかなる傑作であるか、以下に全力で紹介します!大きなネタバレはありません。
1.ジブリ作品のオマージュに溢れている!
本作はアイルランド製のアニメでありながら、ジブリ作品および、宮崎駿作品の影響を多分に感じることが魅力のひとつ。なんと『となりのトトロ』をはじめ、『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』、『崖の上のポニョ』、『風の谷のナウシカ』、『天空の城ラピュタ』にそっくりなシーンがあるのです!
具体的なジブリに似ているシーンを詳しく書くとネタバレになってしまうのですが、ひとつだけあげるとしたら魔女の“マカ”のキャラクターですね。彼女は『千と千尋の神隠し』の“湯婆婆”、もしくは『ハウルの動く城』の“荒地の魔女”にそっくりな、“不気味さ”と“憎めなさ”が共存している見た目と性格をしているのです。
とはいえ、本作にオリジナリティがないということはありません。それどころか“こんな画を作れるなんて!”という驚きと興奮、“いままでに観たことがない!”という独創性にも満ちています。
終盤に訪れるとある画は、(物語と関係なく)そこを切り取るだけでも、涙が出てくるような美しさでした。『君の名は。』の彗星の画にも負けない、確かな感動があったのです。
2. 実は、幼い兄妹のふたりを主役とした冒険活劇だった!
『ソング・オブ・ザ・シー』のポスターやメインビジュアルなどを見ると、幻想的でかわいらしい絵柄だと感じる一方で、少しとっつきづらい印象があるかもしれません。
しかし、実際は“いじわるなお兄ちゃん”と“しゃべることができない妹”という、幼い兄妹のふたりを主役とした冒険活劇となっているので、小さなお子さんでも親しみやすい物語になっていました。
この兄妹の関係性が徐々に変化していくのが微笑ましく、ピンチにハラハラドキドキし、思いがけぬ展開にびっくりしたりと、娯楽映画としての要素もたっぷりなのです。これも、幼い姉妹の冒険を描いていた『となりのトトロ』を彷彿とさせるところがありました。お兄ちゃんが腰につけている“ワイヤー”を使ったアイデアがたっぷりなのも楽しいですよ。
ぜひ、本作は妹がいるお兄ちゃん(とその家族)に観てほしいですね。劇中でお兄ちゃんは妹をいじめてばかりいるのですが、これが後に大切なことを教えてくれるという、極めて教育的な内容になっているのですから。お母さん、お父さんが観ても、きっと気づけることがあるはずです。
また、大筋の物語がわかりやすいだけでなく、「あれはどういうことだろう」「なんでこんなヘンテコな人物が出てくるんだろう」と思わせる“摩訶不思議さ”があり、子供の想像力を刺激してくれることもいいですね。家族で観れば、きっと忘れられない思い出になるでしょう。
3.アイルランドの伝承を蘇らせるという精神性に溢れていた
監督がこの映画を作ったのは、アイルランドの“伝承”を蘇らせることも目的であったと語っています。アイルランドでは近年に高度成長期があり、舗装道路やショッピングモールがあちこちに立てられるようになり、そのおかげで“いにしえ”のアイルランドの文化が忘れてしまうのではないかと、監督は危惧していたのだとか。
現代の文明をことさらに否定するわけではないけれど、昔話を語る人が少なくなってきた今でこそ、大切な歴史や価値観が伝承の中にあることを知ってほしい、だからこそこそアイルランドらしい伝承をアニメという手法で知ってもらおうという……そんな志にも溢れているのです。
また、本作の日本版テーマソングおよび、声優を務めたEGO- WRAPPIN'の中納良恵さんはこう語っています。
科学や物理で 証明できない不思議な話
実態のない目に見えない世界に人は興味を抱いたり
不安を抱いたりします
神話もその一つとして実態のない話ですが
長い歴史の中で語りつがれているということ
それは人間が忘れてはいけない
先人からの大切なメッセージなのだと思えてなりません
まったくその通りで、本作で描かれるのは現実ではありえない不思議な話です。だからでこそアニメでしかなし得ない画の魅力がありますし、普遍的に響くメッセージ性を備えていると言えるのではないでしょうか。
4. 思い出すのはジブリ作品だけじゃない!
本作で連想した映画はジブリ作品だけではありません。宮沢賢治の名作をアニメ化した『銀河鉄道の夜』と、ピクサー映画の『インサイド・ヘッド』をも思わせました。
『銀河鉄道の夜』は、よくある子ども向け映画では体感できない、“不安”“幻想的”“孤独”といったさまざまな感情を与えてくれる映画で、自分にとって一生忘れられない作品でした。『銀河鉄道の夜』と『ソング・オブ・ザ・シー』は、“ふたりの旅路”という要素、“相棒がいなくなってしまう恐怖”があることも共通しています
『インサイド・ヘッド』と『ソング・オブ・ザ・シー』は、“感情の大切さ”というテーマが共通していました。どちらの作品も“考えなくなる”“感情を失う”ことは成長をしないこととイコールであること、“たとえ悲しみであっても、すべての感情は大切なものである”という明確かつ尊いメッセージが込められていました。
5.2016年はアイルランド映画のブーム!?
2016年はアイルランドを舞台とした、話題の映画が他にも公開されていました。
『ブルックリン』……50年代、アイルランドの小さな町から、都会のニューヨークに移り住んだ女性の成長の物語。
『シング・ストリート 未来へのうた』……80年代のダブリンが舞台。当時のミュージックビデオの文化に多大なリスペクトを捧げている音楽映画。
『フラワーショウ!』……ガーデニングショーを舞台に、ひとりの女性のサクセスストーリーを描く。
どれもアイルランドで暮らしていた若者が、努力と成長を積み重ねていき、現状から脱しようとする物語になっているのがおもしろいですね。なお、実際のアイルランドは“ケルト文化”が日本のアニメやゲームにも影響を与えてきており、近年では文化や芸術を学ぶ若者も増えてきた人気の場所になっています。
こうしたアイルランドの文化をそれぞれの年代で切り取った作品が公開されてきた一方で、『ソング・オブ・ザ・シー』があくまで“(現実ではない)アイルランドの伝承”を、幻想的なアニメという手法で描いているというのも、また興味深いです。これらの作品を観ると、アイルランドという国の文化を知るきっかけになるかもしれませんね。
まとめ.2016年はアニメ映画に注目しよう!
本作『ソング・オブ・ザ・シー』は字幕版、日本語吹き替え版の両方が公開されていますが、ぜひどちらも堪能してほしいです。なぜなら、どちらの声優にも魅力があることはもちろん、主題歌が原語でも日本語でも“サウンドトラックで何回でも聞きたい!”と思える魅力に溢れているからです。
本作の魅力をまとめましょう。
(1)すぐに虜になるかわいい絵柄
(2)幻想的な世界観
(3)ジブリ映画への敬意とオマージュ
(4)圧倒的なオリジナリティとイマジネーション
(5)アイルランドの伝承を現代のアニメで描くという精神性
(6)幼い兄妹による冒険活劇というわかりやすい物語
(7)主題歌を含めた幻想的な音楽
このどれかが心にひっかかかるのであれば、すぐにでも劇場に行きましょう。きっと、大満足できるでしょうから。
本作の唯一の難点は、ミニシアター系での公開であり、観ることがそもそも難しいこと。9月10日(土)からは群馬県のシネマテークたかさき、宮崎県の宮崎キネマ館、北海道のシアターキノでも上映が開始されますが、その上映回数は決して多くはなく、シアターキノでは1週間限定上映であったりもします。これは。これはもったいない!この機会を逃さず、ぜひご家族で観てほしいです。
さらに、2016年はこれからもアニメ映画の話題作が公開されることも、ぜひチェックしてほしいです。
フランス発のセリフなしアニメ&ジブリ共同製作の『レッドタートル ある島の物語』(9月17日(土)公開)
傑作『たまこラブストーリー』の監督と脚本家が手がけた『聲の形』(9月17日(土)公開)
原作で人気の高い“大阪編”を映像化し3DCGアニメの限界に挑んだ『GANTZ:O|ガンツ:オー』(10月14日(金)公開)
『マイマイ新子と千年の魔法』の監督最新作である『この世界の片隅に』(11月12日(土)公開)
公開延期の末になんとかメドがたった『虐殺器官』(今冬公開予定)
要するに、『君の名は。』をリピート鑑賞するのももちろんいいけれど、『ソング・オブ・ザ・シー』も、これらの作品もぜひ観てほしいのです! アニメという素晴らしい表現方法で、これほどの話題作がつぎつぎに観られるなんて……2016年は、映画ファン、アニメファンにとって至福の年と言うほかありません。
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(文:ヒナタカ)
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