ヴェネツィア映画祭の受賞結果と来年アカデミー賞への展望
Photo via VisualHunt
第73回ヴェネツィア国際映画祭が終わり、今年の受賞結果が発表された。
今回は受賞結果を振り返りつつ、来年のアカデミー賞へとつながるかどうか検討してみたい。
まずは、今年のコンペティション部門の受賞結果から。
金獅子賞(最高賞)
『The Woman Who Left』(ラヴ・ディアス監督)
銀獅子賞(監督賞)
アマト・エスカランテ『La Region Salvaje』
アンドレイ・コンチャロフスキー『Paradise』
男優賞
オスカル・マルティネス『El Ciudadano Ilustre』
女優賞
エマ・ストーン『ラ・ラ・ランド』
脚本賞
ノア・オッペンハイム『Jackie』
審査員大賞
『Nocturnal Animals』(トム・フォード監督)
審査員特別賞
『The Bad Batch』(アナ・リリー・アミールポアー監督)
マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人賞)
ポーラ・ビール『Frantz』
ついに頂点に輝いた、フィリピンの怪物
今年の金獅子賞に輝いたのは、ラヴ・ディアスによる226分にも及ぶ大作『The Woman Who Left』。フィリピン映画が三大映画祭の頂点に輝くのは今回が初めてである。
代表作『北(ノルテ)−歴史の終わり』と、『昔のはじまり』が2年連続で東京国際映画祭で上映され、一躍日本での知名度も上がり始めているラヴ・ディアス。今年1月に行われたベルリン国際映画祭では、6時間を超す超大作『A Lullaby to the Sorrowful Mystery』で、革新的な作家に贈られるアルフレード・バウアー賞を受賞。8年前のオリゾンティ部門で450分の大作『Melancholia』がグランプリに輝いて以来の挑戦となった、今回のヴェネツィア国際映画祭で悲願の戴冠となり、国際的な場でその才能を遺憾なく発揮した一年となったのだ。
トルストイの『コーカサスの虜』からインスパイアされた本作は、70年代から映画界を中心に活躍し、メディア局ABS-CBNの前会長も務めたチャロ・サントス・コンシオが17年ぶりに女優業に復活し、本国でも注目を集めている。この機会にこの長尺の作家の作品が日本でもロードショー公開されることになるのだろうか。
銀獅子賞を分け合う新鋭と古豪
2013年に発表した『エリ』(第26回東京国際映画祭で上映)で世界中から脚光を浴び、カンヌ国際映画祭で監督賞に輝いたメキシコの新鋭アマト・エスカランテ。そして、1966年に初挑戦となり、2002年に審査員特別賞に輝いたロシアの古豪アンドレイ・コンチャロフスキー。両者が銀獅子賞(監督賞)をタイ受賞。
コンチャロフスキーは一昨年の『白夜と配達人』(第27回東京国際映画祭で上映)でも銀獅子賞(監督賞)を受賞しており、これが二度目の銀メダルとなった。弟のニキータ・ミハルコフとともにロシア映画界を牽引してきたコンチャロフスキーは今年79歳。歳を重ねるにつれて、その評価を着実に伸ばしてきているだけに、今後の作品にも注目したい。
対してエスカランテは現在37歳の若手でありながら、国際映画祭でその高い演出力がまたしても評価されたのである。次に狙うのは三大映画祭最高賞の座か、それともハリウッド進出か。どちらにしても将来が楽しみな逸材だ。
アカデミー賞レースに進むのは!?
今年のコンペティションで大きな注目を集めたのは、何と言ってもオープニングを飾ったデイミアン・チャゼルの新作『ラ・ラ・ランド』。これまでにない大絶賛で迎えられた同作は、最高賞こそ逃したものの、主演のエマ・ストーンが女優賞に輝いた。
これまでヴェネツィアの女優賞に輝いた女優がアカデミー賞でノミネートされたのは9回(アカデミー賞後にヴェネツィアを受賞した1949年のオリヴィア・デ・ハビランドや、異なる作品でノミネートされたキャサリン・ヘップバーンは除いてある)。しかも今世紀に入ってから受賞した英語圏の女優4人は、いずれもアカデミー賞にノミネートされているのだから、これはもうノミネートは当確ということだろうか。
あとは1951年『欲望という名の電車』のヴィヴィアン・リー、そして2006年の『クイーン』のヘレン・ミレンに続く、3人目のW受賞となるかどうかにかかっている。
エマ・ストーン以外にも、受賞は逃したものの高い評価を獲得した『Jackie』のナタリー・ポートマン、『メッセージ』と『Nocturnal Animals』の2本が出品されたエイミー・アダムスは、アカデミー賞レースでも要注目だ。
とくに『Nocturnal Animals』は、前作『シングルマン』が絶賛されたトム・フォードの監督2作目であり、今回の審査員大賞を弾みに他の部門も狙えるだろう。審査員大賞受賞作は、昨年の『アノマリサ』(長編アニメーション賞ノミネート)、一昨年の『ルック・オブ・サイレンス』(長編ドキュメンタリー賞ノミネート)と、アカデミー賞と縁があるのも好材料だ。
(文:久保田和馬)
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