NHK大河ドラマ『真田丸』よりも一足早く『真田十勇士』で大阪冬&夏の陣を堪能しよう!
(C)2016『真田十勇士』製作委員会
好評放送中のNHK大河ドラマ『真田丸』は、現在関ヶ原の戦が終わり、主人公の真田信繁らは宿敵・徳川家康の命により九度山に幽閉されたところですが、このあと彼らの運命はどうなるのか……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.161》
堤幸彦監督の映画『真田十勇士』は、この後、徳川家康に徹底抗戦する真田信繁、いや真田幸村とその家臣たちの戦いを一大スペクタクルで描いた時代劇超大作です!
真田幸村と十勇士の成り立ち
大河ドラマ『真田丸』によって、それまで真田“幸村”と称されていた武将の本当の名前が真田“信繁”であり、真田幸村はある種講談などで親しまれてきた伝承的名称であることが明らかになってきています。
つまり、史実は信繁、伝承は幸村。
そんな伝承上の英雄・真田幸村には、忍者の猿飛佐助や霧隠才蔵など10人の架空の家来たち“真田十勇士”がいつしか構築され、存在するようになって久しいものがあります。
(実際、真田信繁には十勇士を彷彿させる豪傑の家来が多々存在していたという説もあります)
特に20世紀初頭、講談を読み物としてまとめた立川文庫から、真田十勇士の物語が発行されるようになってから、その湯猛果敢な活躍ぶりに人気が集まり、やがて小説や映画にドラマ、舞台など幅広く広がっていきました。
映画では1918年の『真田十勇士』など無声映画や戦前トーキー作品が数多く作られ、戦後は『風雲急なり大阪城 真田十勇士総進軍』(57)、『忍術真田城』(61)&『忍術大阪城』(62)二部作、名匠・加藤泰監督によるミュージカル調の異色作『真田風雲録』(63)、十勇士ひとりひとりが幸村に扮し、家康の首を狙う『真田幸村の謀略』(79)などが知られるところ。2015年に公開された『映画 講談・難波戦記―真田幸村紅蓮の猛将―』は、幸村伝説の原点となった講談を講談師・旭堂南湖が語り下ろした異色作です。
テレビでは『風雲真田城』(64)『真田幸村』(66)などがありますが、決定版は現在『真田丸』で真田昌幸を好演している草刈正雄が幸村を演じた池波正太郎原作の『真田太平記』(85)でしょう。ここでは十勇士をモデルに、リアルに転じさせた忍び同士の戦いも繰り広げられていきます。映画『真田幸村の謀略』に続いて松方弘樹が再び幸村を演じた12時間ドラマ『家康が最も恐れた男 真田幸村』(98)もあります。
また、1970年代には柴田錬三郎原作のNHK人形劇『真田十勇士』(75~77)が子どもたちの間で大流行しました。ここでは霧隠才蔵や筧十蔵が外国人という設定で、十勇士のメンバーそのものも大きく変更。また本作を本宮ひろ志がコミカライズした『真田十勇士』は、次第に内容がオリジナルの展開となっていき、最後は猿飛佐助が家康を斬殺するという衝撃のオチとなっていました。
(映画『真田幸村の謀略』も、最後は幸村が家康の首を取ります)
最近はアニメで『新釈眞田十勇士』(05)『BRAVE 10』(12)と、イケメンたちによる十勇士も登場しました。
その他、猿飛佐助や霧隠才蔵など、十勇士の人気キャラ個々にスポットをあてた作品も多数作られています。
(C)2016『真田十勇士』製作委員会
「真田幸村は無能の腰抜けだった?」
奇抜な新解釈の裏付け
さて、今回の『真田十勇士』は2014年に初演されたマキノノゾミの戯曲が原作で、映画化に際しては鈴木哲也がが共同脚本として参加、監督は舞台版演出を務めた堤幸彦です。
(映画の公開に併せて舞台も再演されます)
ここでは中村勘九郎扮する猿飛佐助を主人公に、九度山に幽閉されている真田幸村(加藤雅也)のもとに霧隠才蔵(松坂桃季)など十勇士が集結し、大阪冬&夏の陣で徳川家康(松平健)率いる大軍に立ち向かうという基本構成になっています。
(ちなみに今回は幸村の父・昌幸や兄・信之は登場しません)
今回異色なのは、真田幸村が実は無能の腰抜けで、佐助ら十勇士の巧みなフォローによって大坂の陣の英雄になっていくという設定になっているところです。
一見奇抜なものに思えますが、実は10数年におよぶ九度山での厳しく赤貧の幽閉生活がたたり、いざ大坂城へ乗り込んだときの幸村の姿は、40代半ばにして髪も歯も抜け落ち、ガリガリに痩せほけた、みすぼらしいものだったとする説があります。
それが本当であれば、生の幸村を見て愕然となった大坂方の者も多くいたのではないでしょうか。
もっとも、その後の大阪冬の陣で幸村は真田丸を築き、攻め寄せる徳川軍を駆逐し、その勇名を一気に高めていくわけです。
本作でも、その真田丸の戦は中盤の大きな見せ場となっており、スペクタクル描写が圧巻。またそういった過程を経て、幸村の心情がいかに変わっていくかも見どころのひとつ。
(よくよく映画を見ていると、彼は決して腰抜けというわけではなく、単に幸運に恵まれ、勝手に英雄として祀り上げられた武将として描かれているように思えます)
また、幸村を英雄と信じてやまない実子・真田大助(望月歩)との父子の交流は感動的で、クライマックスの大阪夏の陣に至っては、怒涛の涙を禁じ得ないほどのものとなっていきます。
大阪夏の陣で、幸村および十勇士がひとりひとり家康の首をとるべく戦場を猛進していくのは十勇士ものの定番ではありますが、今回はその結果がどうなるのか、果たして本宮漫画版『真田十勇士』や『真田幸村の謀略』のように、家康の首は取れるのか? は見てのお楽しみ。
また本作では幸村と淀君(大竹しのぶ)の恋愛説が採用されていますが(『家康が最も恐れた男 真田幸村』でも、この説が採られていました。『真田丸』にも若干その気配はありますね)、それに伴うドラマのうねりや、大坂城が墜ちる際の淀君と豊臣秀頼の運命にもひとひねり工夫が凝らされています。
その他、なぜか冒頭しばらくの間アニメーションで描かれるなど、人を喰った開巻(「もうすぐ実写になるから、もうちょっと待っててね」みたいなテロップまで流れます)にあんぐりしたかと思えば、実は合戦シーンや殺陣におこたりはなく、また十勇士ひとりひとりの個性も上手く描かれています。
(個人的には加藤和樹扮する由利鎌之助が良かった。才蔵に扮した松坂桃季も、実写映画『ガッチャマン』よりかっこよく空を飛んでました)
なぜか霧隠才蔵の命を就け狙うくノ一・火垂役の大島優子も好演しており、120分を越える長丁場をいささかも飽きさせません。
エンドタイトルもなかなかぶっとんだ仕掛けがなされており、最後の最後まで目が離せない映画『真田十勇士』、当然ながら『真田丸』と同じ結末になるはずもないのですが、一足先に銀幕の大画面で大坂の陣をとくと堪能できる、またとない好機。見終えてどこか元気が出てくる潔い快作として、老若男女でお楽しみください。
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(文:増當竜也)
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