俳優・映画人コラム

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2016年10月16日

クリント・イーストウッドが偉大なる映画スターであることをそろそろみんなで語ろう!

クリント・イーストウッドが偉大なる映画スターであることをそろそろみんなで語ろう!

■「キネマニア共和国」

ハドソン川の奇跡02


(C)2016 Warner Bros. All Rights Reserved


今年のベスト1映画最有力候補として映画ファンの間で大きな話題となっている『ハドソン川の奇跡』は、80歳を越えてなお精力的に立ち回るクリント・イーストウッド監督ならではの贅肉を削ぎ落したシンプルかつ奥深い演出に圧倒されっぱなしの秀作です。

が、このところどうも最近イーストウッドを語る上で、何かしっくりこないものがあって仕方ありません。

そんな折、「新・午前十時の映画祭7」にてクリント・イーストウッド主演映画『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』(66)が全国で上映開始され、改めて気付かされました……

続 夕陽のガンマン [DVD]



 

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.166》

そもそもクリント・イーストウッドは、映画スターなのだ!

イーストウッドをスターに押し上げた
マカロニ・ウエスタン3部作


『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』はセルジオ・レオーネ監督によるイタリア製西部劇“マカロニ・ウエスタン”超大作で、原題“THE GOOD,THE BAD AND THE UGLY”が示すように、良い奴(クリント・イーストウッド)、悪い奴(リー・ヴァン・クリーフ)、卑劣な奴(イーライ・ウォラック)の3人が、南北戦争下の荒野に眠る金貨をめぐって複雑怪奇に絡み合っていく、欲望と殺戮の赤裸々な物語です。

ここではマカロニ・ウエスタンならではのスタイリッシュな銃撃シーンから、南北両軍による戦闘スペクタクル・シーンまで、エキサイトな場面を多々用意しつつ、一方ではおよそ3時間の長尺をゆるやかな時間の流れで捉えつつ、アップとロングショットの極端な対比、極力抑えた台詞廻しなどなど、セルジオ・レオーネ監督の持ち味がいかんなく発揮されています。

キャラクターたちは原題にもある3つのタイプに分けられてはいますが、実はこの3人、どのパートにもあてはまるようなところもあり、実は人間そのものが「良い奴」「悪い奴」「卑劣な奴」の要素を備え持っていることを示唆しているかのようなメッセージも受け止められます。

数々のB級映画出演を経て、TV西部劇『ローハイド』(59~65)のカウボーイ、ロディ役で一躍人気を得たクリント・イーストウッドは、セルジオ・レオーネ監督に招かれて黒澤明監督『用心棒』(61)の非公式リメイク映画『荒野の用心棒』(64)に主演し、これがマカロニウエスタンの世界的大ブームを巻き起こすとともに、『夕陽のガンマン』(65)『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』(66)とレオーネ&イーストウッド・コンビ作品を連打していきます。

現在、これらを「名無しの男」もしくは「ドル箱」3部作と呼ぶ向きがありますが、レオーネ監督には当時これらをシリーズものとして捉える意図は特になかったようです。

『ダーテイハリー』シリーズおよび
現代アクション映画路線の成功


『続・夕陽のガンマン』の後、イタリア映画界の名匠たちによるオムニバス映画『華やかな魔女たち』第5話『またもやいつもの通りの夜』(67/ヴィットリオ・デ・シーカ監督)に出演したクリント・イーストウッドは、ハリウッドに凱旋し、刑事アクション映画『マンハッタン無宿』(68)でドン・シーゲル監督と出会い、71年に代表作『ダーティハリー』に主演し、映画スターとしての地位を不動のものとするとともに、マグナム44弾を装着した回転式拳銃(リボルバー)S&W M29を手にしたアウトロー的な主人公刑事ハリー・キャラハンをこの後4作(73・76・83★・88)に渡って演じ続けることとなります。
(★印はイーストウッド監督主演作品です)

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ハリー・シリーズ以外にも、クライマックスのバス一斉射撃シーンが今も伝説的に語られる『ガントレット』(77★)、バート・レイノルズとの共演が話題となった『シティ・ヒート』(84)、チャーリー・シーンの新米刑事とコンビを組む『ルーキー』(90★)などの刑事アクションものや、『アイガー・サンクション』(75★)『サンダーボルト』(74)など現代アクション・サスペンス映画も含めて、その手のジャンルの雄となっていきます。

陰鬱さを容認した西部劇と
快活な現代西部劇の対比


西部劇ではハリウッド凱旋第1作『奴らを高く吊るせ!』(68)『真昼の死闘』(70)『シノーラ』(72)と連打しますが、この時期の作品はどこかマカロニ・ウエスタン色を引きずった陰鬱なイメージが強く、ならばいっそと言わんばかりに監督第2作『荒野のストレンジャー』(73★)で、あたかもリンチで殺された男がゴースト・ガンマンとしてよみがえって復讐を遂行していくかのような不可思議西部劇で一切を放ち、以後、西部劇は妻子を殺された男の復讐劇『アウトロー』(76★/個人的にはもっとも好きなイーストウッド主演映画でもあります)、イーストウッド版『シェーン』ともいうべき『ペイル・ライダー』(85★)、そして自ら「最後の西部劇」の決意で制作した『許されざる者』(92★/ここでイーストウッドはセルジオ・レオーネとドン・シーゲルに哀悼の意を捧げています)といった監督・主演作で才を発揮していきます。

余談ですが、人気SF映画『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』(90)ではクリント・イーストウッドに対して西部劇スターとしてのオマージュが捧げられています。60年代半ば、異端とみなされていたマカロニ・ウエスタンでスターになったイーストウッドは、80年代後半には西部劇の象徴として祀り上げられる存在へとのし上がっていたのです。

一方、現代の西部を舞台にした『ダーティファイター』(78)『ダーティファイター 燃えよ鉄拳』(80)といったコメディ路線や、『センチメンタル・アドベンチャー』(82★)のような抒情性豊かな傑作は、西部劇そのものよりも往年の西部劇的な快活でさわやかさに満ち溢れているのが不思議といえば不思議です。

猟奇&倒錯的題材への興味
そして天に対する畏怖


不思議といえば、イーストウッドの監督デビュー作『恐怖のメロディ★』(71)は、イーストウッド扮する人気DJがストーカー被害に遭う猟奇サスペンス映画でしたが、これ以外にも南北戦争末期の“女の園”に監禁された北軍兵士の倒錯的恐怖を描いた『白い肌の異常な夜』(71/ドン・シーゲル監督)や、猟奇色の強い刑事スリラー映画『タイトロープ』(84)など、どこか猟奇的な題材に好んで挑戦している節が感じられます。のんびりコメディ映画『ピンク・キャデラック』(89)ですらも狂信的カルト集団「純血団」といった負の要素が盛り込まれていました。
(2003年の監督オンリー映画『ミスティック・リバー』は、その集大成的作品のようにも思えてなりません)

 

あと、『トゥルー・クライム』(99★)や『ブラッド・ワーク』(02★)など、特に90年代のイーストウッド主演映画は、妙に彼が裸になるシーンが目立つのですが、そこには何か含みでもあったのか、単なる偶然なのか……。

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ジョン・ヒューストン監督『アフリカの女王』(51)撮影時のエピソードを基にした『ホワイトハンターブラックハート』(90★)も、人間の狂気こそを露にした問題作でした。

『ハドソン川の奇跡』から連想される主演映画としては、ソ連軍の最新秘密戦闘機を盗み出す『ファイヤーフォックス』(82★)や、おっさんたちが宇宙を目指す『スペースカウボーイ』(00★)といった天井世界への畏怖を描いたものもあり、そうやって考えると『ハドソン川の奇跡』は、事故を未然に防いだ“奇跡”の映画ではなく、一歩間違えたら大惨事になっていたかもしれないという“悪夢”こそを描いたものなのかもしれません。

今からでもイーストウッドに
アカデミー賞主演男優賞を!


シニカルな佇まいを湛えたまま、老いた男の年輪をにじませた『グラン・トリノ』(08★)で俳優業引退を宣言したイーストウッドではありましたが、『人生の特等席』(12)で前言撤回、面白そうなものがあればまだまだ出演する意思があることを示してくれたイーストウッド。実は彼、映画人・映画監督としてはこれまでさまざまな賞を受賞していますが、俳優そのものとしては71年にゴールデングローブ賞世界人気男優賞、92年の『許されざる者』でLA映画批評家協会賞男優賞を受賞しているくらいで、アカデミー賞主演男優賞は未だに受賞していません。

(私は『許されざる者』や『グラン・トリノ』で彼に主演男優賞を授与しなかったアカデミー賞に正直呆れ果て、以後、同賞に関する関心が全くなくなってしまいました)

クリント・イーストウッドはやはり偉大な映画スターであり、そこから偉大なる映画監督としての道が開けていったことも忘れてはいけないでしょう。

攻めてもう一度、いぶし銀のように老いの魅力を体現するイーストウッドの勇姿を、また銀幕で拝みたいものですが、その夢がかなうまでは彼の旧作を「新・午前十時の映画祭」で、そしてDVDなどで愉しむことにしましょう。
(ちょうど今月はスカパー!のイマジカBSでもイーストウッド特集をやってますしね)

……嗚呼、ひそかに大好きな『荒鷲の要塞」(68)や『戦略大作戦』(70)『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(86)といった戦争路線や、ジャズなど音楽好きであることは承知しているが、まさかまさかのミュージカル映画『ペンチャー・ワゴン』(69)なんてレアな作品などなど、映画スター、イーストウッド映画の魅力はまだまだ限りなくあるのです!

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(文:増當竜也)

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