オスカー戦線異常あり!?89回目のアカデミー賞は誰の手に?
(C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.
このコラムがアップされる翌日、27日についに発表となる第89回アカデミー賞。前回のコラムでは、最多ノミネート作品である『ラ・ラ・ランド』がどうなるか、ということについて触れたが、今回はそれ以外の部門にも目を向け、注目すべきポイントを紹介していくことにしよう。
<〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.19:オスカー戦線異常あり!?89回目のアカデミー賞は誰の手に?>
思い返してみれば、1年前にこんな記事を書いた。
→「第88回アカデミー賞最大のハイライトとだいぶ早い第89回アカデミー賞の展望」
ここで紹介した5作品は、さすがに主要部門に絡むことはなかったのは反省点である。とはいえ、『沈黙ーサイレンスー』は撮影賞、『ハドソン川の奇跡』は音響効果賞と、1年前でもっとも下馬評の高かった2作品が技術部門ひとつの候補に落ち着いたというのは実に予想外の展開であった。
その原因は『沈黙ーサイレンスー』の制作が遅れ公開がギリギリになったことはもちろん、それ以上に『バース・オブ・ネイション』(東京国際映画祭で上映されるも日本公開は延期に……)の戦線離脱に影響される。いずれにしても、今年は大混戦になる年だったわけだ。
3強の行方は……?
そんな混戦の賞レースを見事に勝ち抜いてきた作品は3作品。ヴェネツィア国際映画祭から大本命と言われ始めた『ラ・ラ・ランド』、トロント国際映画祭で熱狂を生み出した『ムーンライト』、そしてサンダンス映画祭で注目され、およそ1年に渡り評価を保ち続けた『マンチェスター・バイ・ザ・シー』だ。
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やはり記録的なノミネート数を誇る『ラ・ラ・ランド』は、その受賞数に注目が集まる。『タイタニック』と『ベン・ハー』、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』が持つ11部門の記録を超える権利があるのは同作だけだ。
ところが、それぞれの部門に強力なライバルが待ち構える。ゴズリングがノミネートされた主演男優賞では『フェンス』のデンゼル・ワシントンと『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のケイシー・アフレックが一騎打ちとなるムードが濃厚。
ストーンがゴールデングローブ賞に輝き、ライバルと目された『ジャッキー/ファーストレディ最後の使命』のナタリー・ポートマンに勝利確実と思われた矢先、フランスのベテラン女優イザベル・ユペールが『Elle』で意地の演技を見せ、評価を急上昇させている。
重要な脚本賞もまた、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』に押され気味で、安全圏にあるのは監督賞と編集賞、撮影賞と美術賞、録音賞あたりだろうか。歌曲賞では2ノミネートとなっており、自作がライバルになることで確実にひとつ落とすため、新記録を生み出す可能性は極めて低いとの見方が賢明だろう。
3強の一角『ムーンライト』は、脚色賞を安全圏に残しながら、最も下馬評が高かったマハーシャラ・アリの助演男優賞を『LION/ライオン〜25年目のただいま〜』のデヴ・パテルに猛追される窮地に陥っている。しかし、同作は作品賞に必要と言われる部門(監督・演技・脚本・編集)すべてで候補に上がっている以上、まだ作品賞の可能性も消えていない。
一方で『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は、編集賞から候補漏れという痛手はあるものの、安定した作品の出来に未だ作品賞を期待する声も少なくない、といったところだ。
主要部門以外も歴史的混沌に
『ムーンライト』と並ぶ8部門で候補に上がる『メッセージ』でさえ、技術部門での健闘が期待されているが、もしかすると1部門も受賞しないのではという噂もあるほどだ。それだけ今年も各部門に特化した強者が揃っているのが現状だ。
実際のところ、全部門でほぼ確実にこれが獲ると言えるのは前述した『ラ・ラ・ランド』の5部門と、『ムーンライト』の1部門、そして『フェンス』の助演女優賞ぐらいだ。ノミネート数で新記録を作った作品がありながら、ほぼすべての部門が拮抗している大混戦というのは実に珍しい。
たとえば、受賞確実だった視覚効果賞の『ジャングル・ブック』は、『ドクター・ストレンジ』の勢いに押され、長編アニメーション映画賞では大本命の『ズートピア』と、根強いファンがいるライカ制作の『Kubo and the Two Strings』の一騎打ちに、『モアナと伝説の海』が漁夫の利を狙う。まさに一筋縄ではいかない賞レースとなっている。
(C)Komplizen Film
さらに、外国語映画賞では各批評家賞を独走してきたドイツの『ありがとう、トニ・エルドマン』の勢いこそ衰えない中で、トランプ政権による大統領令の煽りを受けたイランの『セールスマン』に熱烈な支持が高まり、ついにアメリカの主要映画サイトMCNの予想では順位が逆転する事態にまで発展したのである。
オスカーの行方はいかに……
これだけ大混戦となると、いつも以上にスリル満点な授賞式となるのは間違いない。
筆者の予想としては、
監督賞:デイミアン・チャゼル『ラ・ラ・ランド』
主演男優賞:ケイシー・アフレック『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
主演女優賞:イザベル・ユペール『Elle』(淡い期待を込めて……)
助演男優賞:マハーシャラ・アリ『ムーンライト』
助演女優賞:ヴィオラ・デイヴィス『フェンス』
そして作品賞は、『ムーンライト』の大逆転に期待している。
第89回アカデミー賞は2月27日(月)朝10時からWOWOWで独占生中継。
(文:久保田和馬)
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