映画コラム

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2017年03月30日

大統領が暗殺されたら妻はどうする?『ジャッキー』を観てほしい7つの理由

大統領が暗殺されたら妻はどうする?『ジャッキー』を観てほしい7つの理由



(C)2016 Jackie Productions Limited



3月31日(金)より映画『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』が公開されます。

本作はジョン・F・ケネディ大統領の暗殺事件を題材とした映画です。こう聞くと、「難しい内容ではないか」「歴史的背景を知らないと親しみにくいのではないか」と思われるかもしれませんが、全くそんなことはありません。むしろ、“夫を亡くした女性の決起”という点で、非常に感情移入がしやすく、多くの方が共感でき、そして大切なことを学べる内容になっていたのです。その魅力を、以下に紹介してみます。

1:夫が突然亡くなったらどうするか?それは普遍的な悩みでもあった。


身も蓋もない言い方をすれば、本作の物語は“夫が突然死んでしまったから、何とかして葬儀をする”というものです。それ自体は、この世の多くの未亡人が抱えるであろう、普遍的な悩みが伴うものです。

ただし、本作の主人公であるジャッキー(ジャクリーン・ケネディ・オナシス)は暗殺された夫が大統領(ジョン・F・ケネディ)だっただけに、その悩みや苦労が尋常なものではありませんでした。病院で夫の死を知らされたすぐ後に、彼女は山のように積み上げられた“任務”をこなさなければならなくなるのです。

ワシントンD.C.に向かう機内では副大統領の大統領就任宣誓に立ち合い、残された子どもに対して“母としての務め”も果たさなければならず、しかもケネディが殺されたわずか3日後に荘厳な国葬を成し遂げる……それにはストイックとも言える精神力が必要だった、ということが映画を通じて“これでもか”とわかるようになっていました。

ジャッキー/ファーストレディ最後の使命 ナタリー・ポートマン モノクロ写真16


(C)2016 Jackie Productions Limited



2:偉大な夫の功績を残すこと、それが達成すべきことだった。



興味深いのが、作中の多くのシーンで、主人公のジャッキーが“夫の功績を後世に残すこと”に躍起になっていることです。

たとえば、ジャッキーが「ジェームズ・ガーフィールドやウィリアム・マッキンリー大統領が何をしたか知っている?」と聞いて、質問された男が「いいえ」と答え、彼女が続けざまに「エイブラハム・リンカーンを知っている?」と聞くと、男は「もちろんです。南北戦争を終結させて奴隷制度を廃止した」と答える、というシーンがあります。

ジャッキーがこの質問をした理由は「3人とも暗殺された大統領だった」ことでした。“暗殺された大統領”というショッキングな事実でさえも、普通の人から忘れ去られてしまう、成し遂げた偉業だけが記憶に残る、とジャッキーはこの質問をして再認識したのでしょう。

事実、ケネディの大統領就任期間はわずか2年と10ヶ月でした。支持率が高かったとはいえ、すぐに忘れ去れてしまうかもしれない……ジャッキーが、偉大な人物として記憶されているリンカーンの葬儀にならい、荘厳な馬車が先導する美しい葬列をしたのは、何よりも“忘れさせない”ためなのです。

それからジャッキーは、ケネディを世界中の人々の記憶に残る大統領にするため、あの手この手を尽くします。この物語は、いわば“名プロデューサー”としてケネディ大統領を創り上げた、気高き女性のドラマ。時には自身の命さえも顧みず、それを成し遂げた物語が、観る人の胸を打つのです。

ジャッキー/ファーストレディ最後の使命 ナタリー・ポートマン モノクロ写真5


(C)2016 Jackie Productions Limited




3:アカデミー賞3部門ノミネート!ナタリー・ポートマンの演技を見逃すな!



本作は、アカデミー賞主演女優賞、衣装デザイン賞、作曲賞にノミネートされていましたが、惜しくも受賞を逃しました。本作を観れば、ナタリー・ポートマンが『ブラック・スワン』に続き主演女優賞を受賞してもおかしくなかった、と多くの方が思うでしょう。

ナタリーは“悲しみ”や“気丈さ”などの感情の“揺らぎ”を見せる、わずかな表情の変化を見事に表現しています。知性や芸術的感性にも優れているジャッキーという女性の人物像も、そのままナタリーに通じるところがありました。

パブロ・ラライン監督は、プロデューサーであるダーレン・アロノフスキーからのオファーに「ナタリーがジャッキーを演じるのなら引き受ける」と答えており、実際に監督はナタリーの演技を「20世紀でもっとも謎めいた女性と言えばジャッキーだ。ナタリーも似たような謎めいた雰囲気を持っている」と賞賛したそうです。本編では、まさにナタリー以外では主演は考えられない、彼女しかいない、と思えるほどの存在感を見せていました。

ちなみに、ナタリーがジャッキーを演じるうえで苦労したのは“独特な訛り”、“徹底した言葉選び”、“ウィスパーボイス”だったそうです。本物のジャッキーは上品なアクセントで話していたものの、ニューヨークやイギリスのアクセントも少し入っており、独特の話し方になっていたのだとか。そこまでの“クセ”を再現するナタリーの女優魂たるや……恐れ入ります。

ジャッキー/ファーストレディ最後の使命 ナタリー・ポートマン モノクロ写真36


(C)2016 Jackie Productions Limited



4:時代を完全に再現した音楽と美術がすごい!



1963年のアメリカを再現するため、16ミリフィルムを取り入れたり、記録映像や修復設計図を入手したり、ジャッキーに布地を提供した企業に訪れたり、当時のテレビ番組を調べ上げるなど、スタッフの追求もまた並々ならぬものだったそうです。その徹底ぶりは“室内に飾られた絵画のサイズを把握するため、1つ1つの名称を調べた”ほどだったのか。そのおかげで、すべてのシーンにおいて、当時のアメリカ、そしてジャッキーが今の世に蘇ったような存在感がありました。

どこか“不安”を煽る音楽にもぜひ聞き惚れてほしいです。作曲を務めたミカ・レヴィは、当時の楽器だけでなく、1960年代のジャズ界の巨匠であるジョン・コルトレーンやモートン・フェルドマンなど、音楽に影響を与えた人々の曲を参考に、この良い意味で伝記映画らしくない、心をかきたてる音楽を作ったのだそうです。

ジャッキー/ファーストレディ最後の使命 ナタリー・ポートマン モノクロ写真6


(C)2016 Jackie Productions Limited



5:亡きジョン・ハートの、忘れがたい存在感。



本作は、『ハリー・ポッター』シリーズの杖職人オリバンダー老人や、『エレファント・マン』で悲劇の青年を演じていたジョン・ハートが出演しています。ジョンは2017年1月25日、77歳でこの世を去りました。

本作のジョンの役割は、ジャッキーに重要なことを教えてくれる牧師の役で登場します。役者としての存在感もさることながら、彼の“教え”そのものが長い月日を経たベテラン俳優の風格と合わさって、これ以上なく心に沁みるのです。

なお、ジョン・ハートは2017年公開予定の『Darkest Hour(原題)』にも出演しています。ぜひ、円熟した俳優ならではの名演技を、見逃さないでください。

ジャッキー/ファーストレディ最後の使命 ナタリー・ポートマン モノクロ写真8


(C)2016 Jackie Productions Limited




6:なぜケネディ政権の代名詞が“キャメロット”なのか、その理由がわかる。



ケネディ政権を表す時に、よく“キャメロット”という言葉が使われているのだそうです。これを最初に言いだしたのが実はジャッキーであり、神話に登場するアーサー王と円卓騎士たちが当時していた王国のことを指しているのだとか。

ライフ誌のインタビューでジャッキーは、夫のケネディがミュージカルのキャメロットにおける、以下の歌詞がお気に入りであったと語っています。

「忘れてはならない/かつて昔、一瞬でも光輝く瞬間があったことを/それを人々はキャメロットと呼んだ」

この“一瞬でも光輝く瞬間”はケネディの突然の死を表す言葉になり、人々に広く知れ渡りました。そして、ジャッキーはインタビューで「偉大な大統領はまた現れるかもしれませんが、キャメロットは2度と現れないでしょう」と語っています。

ラライン監督は、初めはこのキャメロットという言葉にピンとこなかったそうですが、曲を聴き続けるうちにすべてを理解し、“夫とこの歌詞をリンクさせた”ジャッキーを讃えたとのことです。これから映画を観る人も、このキャメロットの歌詞に思いを馳せてみてください。

ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命 サブ


(C)2016 Jackie Productions Limited



7:人生や宗教を包括した、尊いメッセージがあった。



前述した、牧師役のジョン・ハートが告げた“教え”は、大統領の未亡人というジャッキーだけでなく、世界中のすべての不幸に見舞われた人に当てはまる、普遍的かつ尊いものでした。これには宗教的要素も絡んでいるのですが、本質的には人生を過ごす上での“考え方”であるので、日本人でも受け入れられやすいでしょう。

本作は歴史的大事件を描いていますが、実は1人の女性の内面を見つめた、極めてパーソナルな作風です。哲学的に“理由”を追い求める物語はやや観る人を選ぶかもしれませんが、プロデューサーを務めたダーレン・アロノフスキー監督作品(『レスラー』や『レクイエム・フォー・ドリーム』)が好みであれば、気にいることはほぼ間違いありません。

気高く、強くあり続けた女性のドラマが観たい人に、この映画をおすすめします。

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(文:ヒナタカ)

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