『破裏拳ポリマー』坂本浩一監督インタビュー

■「キネマニア共和国」



(C)2017「破裏拳ポリマー」製作委員会


『科学忍者隊ガッチャマン』『ヤッターマン』などの名作で知られるタツノコプロが1974年に製作し、人気を博したTVアニメ・シリーズ『破裏拳ポリマー』が、このたび実写映画化されました。

映画『燃えよドラゴン』の大ヒットに始まるカンフー・ブームに着目し、主人公・鎧武士が必殺拳法“破裏拳”を放ちながら悪を叩きのめすという、アクション重視のスーパーヒーロー、ポリマーの勇姿が生身の肉体で蘇る!

監督はアメリカでスタントマンとして『リーサル・ウェポン4』(98)『ウインドトーカーズ』(02)などに参加する一方、『恐竜戦隊ジュウレンジャー』(92~93)など日本のスーパー戦隊シリーズをリメイクしたアメリカの人気テレビ番組『パワーレンジャー』シリーズのアクション監督を務め、2009年に帰国後は映画『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説THE MOVIE』(09)を皮切りに、仮面ライダーシリーズやスーパー戦隊シリーズの監督を務め、日本の特撮&アクションに新風を吹き込んだ坂本浩一。当然、今回もアクションに力を注ぎ込んだ熱い演出がなされています……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.231》

ということで、坂本監督にお話をうかがってきました!



[演出中の坂本浩一監督]


(C)2017「破裏拳ポリマー」製作委員会



原作ファンと若い世代の双方が
楽しめる『破裏拳ポリマー』を!


── 今回の坂本監督の新作『破裏拳ポリマー』は、私自身アニメ原作を子どもの頃にリアルタイムで見ていた世代なもので、非常に楽しみにしておりましたが、結果としましては、良い意味で「坂本監督がポリマーを撮ったらこうなる!」といったアクション満載のエンタメ作品になり得ていると思いました。

坂本 ありがとうございます! 僕はかつてJ・J・エイブラム監督の『スター・トレック』(09)を見たとき、かつてのファンと今の若い世代の双方に受け入れられるリメイク作品になり得ていたことに、すごい衝撃を受けたんですね。ですから今回の『破裏拳ポリマー』もその域を目指してチャレンジしました。

──正直、最初の数分は戸惑いました。原作アニメ特有のアメリカン・ポップな色合いは薄く、リアル・ハードな方向性に持っていってらっしゃる。しかし一方では、原作が70年代当時のブルース・リーの一大ブームから発生したものであることに大いに着目し、格闘アクションにこだわりぬいたものに仕上がっています。これが坂本監督の色なのだなと思った瞬間、俄然作品を楽しめるようになりました。

坂本 もともとアクション出身ですから、どうしてもそっちの方向になってしまう(笑)。僕自身、原作のアニメはリアルタイムで子どもの頃に見ていて大好きだったのですが、今回のお話をいただいたとき、原作の世界観のまま実写化するのには難しい部分があるというのが一つあったんです。

では、どういう世界観にしていくか? CGを駆使してポップでカラフルな背景などを作り、未来SFとしての世界観などを醸し出す方法論もありましたが、予算やスケジュールの問題もあるし、また近年そういった作品はよく国内でも見受けられますが、僕としてはせっかくの『破裏拳ポリマー』ですから、一味違う方向性でやってみたくなったんです。



(C)2017「破裏拳ポリマー」製作委員会


──そこで坂本監督ならではの映画愛とセンスに裏付けされた『破裏拳ポリマー』になったわけですね。

坂本 そうですね。まず僕が好きだった80~90年代のオライオンやキャノン映画の無国籍感、プラス小道具なども含めて原作アニメを見ていた世代が懐かしめる昭和テイストを混ぜ合わせていったら、独自の世界観が構築できるのではないかと。あとは、いかに当時の色味を醸し出していけるか。そこが最初のチャレンジでした。

──一方で原作を知らない今の若い観客にもアピールしなければいけない。

坂本 そうなんです。その意味でも、原作が放送されていた当時なら面白く見ていられたことでも、今の子たちが受け付けてくれるのかといった懸念もありましたので、アニメと実写の印象の違いということも含めて、リアル路線への変更を決めてゆきました。

ただし原作そのものの楽しい雰囲気は大事にしたかったし、また例えばブルース・リーやジャッキー・チェンの映画を見終わった後、みんなが真似したくなるような、『破裏拳ポリマー』ならではのかっこいいアクションなどの見心地感。これはぜひ同じものにしたかったですね。

──そこで今回は徹底してアクションにこだわられたわけですね。

坂本 もともとポリマーはアクション・ベースのヒーローですし、僕自身も格闘アクション出身の映画人ですから、ここで思い切り自分の大好きな70年代カンフー・アクションの要素をストーリーに盛り込むことができました。



(C)2017「破裏拳ポリマー」製作委員会


── とにもかくにも、今回は「破裏拳とは何ぞや?」というところから始めてらっしゃるのが素敵です。

坂本(笑)原作に登場する破裏拳には定義みたいなものがなかったので、そこは一つの流派として確立させてみたいという想いがありました。そして『ドランクモンキー酔拳』(78)にしても『スネークモンキー蛇拳』(78)にしても、タイトルに“何々拳”とつくものは、見終わってみんなが真似したくなるようなものしなければならない(笑)。

──詳細な足さばきや、回転しながらの技の繰り出しなど、まさに「これが破裏拳だ!」と言わんばかりに、巧みに訴えられていますね。

坂本 足さばきに関しては、ちょっとした後の謎解きのヒントにも繋がりますし、ストーリー的にも上手く組み合わせることができました。また破裏拳というネーミングはハリケーンのもじりでもあるので、原作もそうでしたが、実写のほうでも回りながらの技を意識させたかったですね。



[演出中の坂本浩一監督]


(C)2017「破裏拳ポリマー」製作委員会



激烈なアクションに挑んだ
若く熱い俳優たち!


──主演の溝端淳平さんも頑張りましたね。ちゃんと肉体を作り上げた上で、見事に破裏拳を披露してくれています。

坂本 実はハリウッドでもスターが銃の扱いや軍事訓練をしたりというのはありましたが、役のために肉体そのものを鍛え上げるというのは『マトリックス』(99)でのキアヌ・リーヴス以降ポピュラーになった傾向です。それがようやく日本でも……。

特に今回は顔がもろ見えますので、変身した後はスーツアクターにお任せというわけにもいきませんでしたから、最初から溝端君と話し合いましたし、撮影前に4か月ほどかけて、体を鍛え上げてくれました。僕も一緒にトレーニングにつきあいましたが、とても意欲をもって取り組んでくれていたし、頼もしかったですね。



(C)2017「破裏拳ポリマー」製作委員会


── 一方で山田裕貴さん演じる若き刑事・来間譲一ことシャーロックは、もう全篇ぼっこぼこのタコ殴り状態(笑)。でも、それもひとつのアクションの形態なわけですよね。

坂本 おっしゃる通り、要はジャッキー・チェンの精神(笑)。彼のはやられてナンボのアクションですから、山田君にも今回その精神でトライさせてみました。

── また坂本作品といえば、何といってもヒロイン・アクション。ここでは坂本作品のミューズ的存在でもある原幹恵さんがポリマースーツの研究者・稗田玲に扮して、ダイナミックなアクションを披露してくれています。

坂本 幹恵ちゃんとはこれまで何本も一緒にやってきていますが、今回はミステリアスな女の魅力を保ちながらのアクションに挑戦していただきました。もともとスタイルも抜群ですし、コスチュームを着けても見栄えがありますので、シナリオ執筆の段階から、これは幹恵ちゃんしかいないなというアテ書きでしたね。



(C)2017「破裏拳ポリマー」製作委員会


── 一方で探偵事務所の若きオーナー南波テル役の柳ゆり菜さんは、原作に最も近いテイストでおきゃんな可愛らしさをアピールしながらのアクション。まるでアニメからそのまま飛び出してきたかのようでした。

坂本 タツノコプロ作品のヒロインって明るいけど唇がセクシーで、子ども心にドキッとする。そんなタツノコ・ヒロインを実写で再現してみたいというのが、今回の僕の大きな課題でもあったんです。柳ゆり菜ちゃんは見事にテルの可愛らしさを演じてくれましたね。

── 両者、対照的なヒロインになり得ているので、面白さも倍増しますね。

坂本 今回、幹恵ちゃんにしてもゆり菜ちゃんにしても、男性目線だけでなく同性からも憧れてもらえたり可愛いなと思っていただけるヒロインになるよう努めましたが、それが上手くいっているといいなと思います。



(C)2017「破裏拳ポリマー」製作委員会


── 原作ならではの「この世に悪のある限り~」といったポリマー参上の口上を今回どう描くかも興味津々でしたが、実にユニークな設定にアレンジされていますね。

坂本 あの口上は絶対やりたかったのですが、これもアニメと実写の違いで、ただ普通にやってしまうと普通の特撮ヒーローものと同じになってしまうので、そこでダイアローグ・コード(言語認識システム)という設定を、脚本の大西伸介さんが思いついてくれました。ポリマー・スーツの解釈もSF作品として納得のいく範囲のものにできたかなと思っています。

── 一方でこの作品、ハリウッドの刑事映画などに顕著なバディ・ムービー仕立てにもなっています。探偵・鎧武士×刑事シャーロックのデコボコなコンビネーションが作品に上手く機能していますね。

坂本 僕の中では「傷だらけの天使」(74~75)や「探偵物語」(79~80)など70年代テレビドラマの空気感を出してみたかったんです。当時の昭和の街の雰囲気などもそうですね。

また僕は高校時代に見たジョン・ウー監督作品の影響を受けていまして(笑)、ああいった当時の熱い男たちのバディ・ムービーの世界を今の若い俳優さんたちで展開していくと、女性の観客の心に響くのではないかという想いがあったものですから、この作品もより幅広い層に見ていただけるのではないか。また鎧武士の成長物語にもしたかったので、そこでシャーロックの設定を原作と大きく変えることにしたんです。



[演出中の坂本浩一監督]


(C)2017「破裏拳ポリマー」製作委員会



ジャンルの垣根を作らない
アクション・エンタメ映画を!


──それにしましてもウルトラマンに仮面ライダー、スーパー戦隊、そしてついにタツノコプロ作品まで制覇してされたわけですが、日本におけるアクション映画って、まだヒーローというフックがないと企画として成立しづらいのかなという想いもあります。

坂本 確かにまだ需要は少ないかもしれません。でも、たとえば最近『るろうに剣心』シリーズ(12・14)がヒットした影響などもあってか、今の若い役者さんたちは率先してアクションをやりたがってくれるし、現に練習している人も増えてきています。

その意味では今の映画やテレビドラマでもアクション・ブームみたいなものは多少なりとも芽生え始めている。ただ、いかんせん今の邦画の主流は若い男女の恋愛映画ですから(笑)、なかなかジャンルとしてまだ確立されないというか、アクションといえばヒーローものといった垣根ができてしまい、お客さんも限られてしまう。

でも僕としては一般のエンタテインメントと同じように接してもらえるべく、その敷居を下げる努力を続けているつもりです。



(C)2017「破裏拳ポリマー」製作委員会


──その意味でも、長年アメリカで映画活動をされてきた坂本監督が日本に帰国して最初に撮られた映画『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説THE MOVIE』(09)を見たとき、特撮映画に革命が起きたと思いました。つまり、我々は子どもの頃からこういうダイナミックなウルトラ映画を見たかったのだ!
と。

坂本 ありがとうございます! 子どもの頃に読んでいた内山まもる先生の漫画「ザ・ウルトラマン」(75)など大好きでしたので、あのときは本格アクションとしてのウルトラ映画、そして彼らにはマントをつけさせるなど、詳細にこだわらせていただきました。実は内山先生にも劇中、光の国の住人役で出演していただいているんですよ。

──仮面ライダーやスーパー戦隊シリーズにしても、坂本監督が参加されるようになってから、アクションのノリなど大きく変わったと思っています。

坂本 ライダーだからこれ、戦隊だからこれ、といった垣根を作らずに、一般の人があくまでもアクション映画として楽しめるようなものを作りたい。それが帰国して以降の僕のコンセプトなんです。

特に今回の原作は、正直僕らの世代以外にはあまり知られていないヒーローですが、だからこそ僕らの世代以外の方々にも見てもらえるような、敷居の低いものにしたかった。



(C)2017「破裏拳ポリマー」製作委員会


──今のハリウッドではマーベルものにしろDCものにしろ単なる特撮ヒーローものではなく、ちゃんとアクション・エンタメとして屹立した作品が作られ続けているわけですが、その意味では日本でもようやくそのラインを狙った作品が製作されるようになったという感慨がありました。

坂本 そこを目指して作り続けてきたので、そう言っていただけると嬉しいですね。

──また先ほど監督がおっしゃっていたように、坂本作品は女性が憧れるようなヒロイン・アクションにこだわっていますし、その中から非合法女性格闘技の世界を題材にした『赤×ピンク』(14)のようなノン特撮アクション快作も生まれています。

坂本 僕は角川映画世代でもありますので、その角川さんで『赤×ピンク』を撮らせてもらったときは本当に嬉しかったですね。そして今回また角川さんで大好きな『破裏拳ポリマー』をやらせてもらえた。これはもう張り切らざるを得なかったわけです!(笑)

──今回はバディ・ムービーということもあり、ふと坂本監督版『リーサル・ウェポン』シリーズ(87~98)みたいな刑事アクション映画を見たくなってしまいました。

坂本 ぜひぜひ! やりたいですね。あと、日本にいるからにはやはり時代劇をやってみたいんです。僕らの世代ですと、真田広之さんの『伊賀忍法帖』(82)や『里見八犬伝』(83)などは何度も学校さぼって見に行きました(笑)。

また千葉真一さんが『柳生一族の陰謀』(78)や『魔界転生』(81)、そしてTVシリーズなどで演じてらした柳生十兵衛は、世界一かっこいいヒーローだと思っていますので、ああいったアクション時代劇にも挑戦してみたいですね。

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(取材・文:増當竜也)

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