軽い気持ちで『美女と野獣』を観たら、涙が止まらなくなった話
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みなさん、こんにちは。
1991年の名作アニメを実写化した『美女と野獣』が圧倒的な強さを見せていますね。全米では公開週のオープニング記録が1億5000万ドル超えと破竹のスタート。世界興収もトータル10億ドルの大台を突破しているので、いかに本作が世界中で愛されているかが分かります。
筆者自身鑑賞前は「原作超えは難しいもの」と半ばあまり期待しないままに鑑賞しましたが、開始早々一気に映画に引き込まれ、ラストに至っては涙涙。なぜこの作品はこれほどまでに人を惹きつけるのでしょうか?
今回の「映画音楽の世界」ではそんな『美女と野獣』を紹介したいと思います。
多くの愛に支えられた映画、『美女と野獣』
監督のビル・コンドンはこれまでに『Mr.ホームズ名探偵最後の事件』や 『トワイライト サーガ/ブレーキング・ドーン』などのヒット作を手掛けていますが、ミュージカル作品と呼べるものは『ドリーム・ガールズ』くらいのもの。しかしその手腕は堅実で、徹底的なまでに“魅せる”ことにこだわった演出手腕は、衣装から美術、セットデザインまで行き届いています。オープニング後すぐにミュージカルシーンが始まるにも関わらず物語への導入は自然で、その後のミュージカルシーンなど計算されたカメラアングルや構図、VFXも駆使した演出はまるで(例えばロブ・マーシャルのような)ベテランミュージカル映画監督のような落ち着いた佇まいを映画に持たせていました。
それを支える脚本も秀逸で、王子が野獣へと姿を変えられた理由からヒロイン・ベルとの出会いまでをもたつかせることなく描くと、そこからはベルとビーストが心を通わせていく様子をしっかりと提示していくので、観客はベルにも野獣にもすっと感情移入できる設計になっています。
そうやって観客の心を誘導した先にメインビジュアルでもある2人のダンスシーンへと繋がっていくので、祝福された2人の姿には美しさを超えた、生命の輝きすら感じるのではないでしょうか。
映画はこの後から第3幕へと入っていきますが、この3幕からラストまでが本作のテーマを濃縮した展開になっています。もともと“美女”と“野獣”の時点で示されている通り本作には「人は見た目ではない」というテーマが普遍的に内包されていますが、30年近く経って実写化された本作はさらに人種やセクシャリティを現代から見た視点で盛り込んでいることも新たな点でしょう。
またラスト付近では“愛情”だけでなく王子を信じ続けた信頼関係と、城の住人たちの友情にもフォーカスしていてサイドストーリーとしても感情面にダイレクトに響く展開を盛り込んでいます。これだけのテーマを扱いながら破綻することなくそれぞれ物語に配置しているということに驚かされます。
さて、ベルを演じたエマ・ワトソンといえば、どうしてもハリー・ポッターシリーズのハーマイオニーというイメージが強いのですがそんな彼女も気づけばもう27歳。いつまでも子役としての面影ばかりがありましたが、ついに彼女にとってもハーマイオニー以外での当たり役に巡り会ったと言えるのではないでしょうか(ハリポタ以外にも話題作には多数出演していますが)。
今回は反発しながらも徐々に野獣に惹かれていくベルを熱演し、見事な歌唱シーンも披露。凛とした美しさの中に芯の部分には女性以上の、人間的な強さも見せてくれます。ディズニープリンセスを見事に体現していて、実写化してなおその部分を薄れずに描き、『美女と野獣 』のベルとして、そして新しいヒロイン像のようにも思えてきます。
ラストシーンで相手の目を見て何かに気づくようなそぶりを見せるのも、ベルという存在を最後まで表現し続けたことへの表れなのではないでしょうか。
本作ではほとんどのキャストがミュージカルパートに挑戦しているので約2時間全く飽きることがありません。『ムーラン・ルージュ』でも歌声を披露していたユアン・マクレガーも燭台のルミエールとしてベルの晩餐を楽しませてくれます。
ガストン役のルーク・エヴァンスもジョシュ・ギャッドともにその憎たらしい歌詞とは裏腹なのかピッタリなのか美声を聴かせてくれるので、初のミュージカルシーンとして珍しい機会かもしれません。
ほかにもイアン・マッケランやエマ・トンプソンら名優の歌声が響き渡る本作は、オープニングからエンディングまで胸を踊らせるミュージカルナンバーに酔いしれることが出来るので、可能な限り音響設備の良い劇場で楽しまれることをお勧めします。
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ディズニー音楽を知り尽くした“レジェンド”、アラン・メンケン
音楽を担当したのは、アニメ版と同様にアラン・メンケン。メンケンといえば、これまでに『リトル・マーメイド』『アラジン』『ポカホンタス』『塔の上のラプンツェル』など90年代からディズニー作品を支えてきた映画音楽の大家の1人でもあります。実写作品としては『魔法にかけられて』『白雪姫と鏡の女王』に続けての作品であり、今後実写化される予定の『リトル・マーメイド』も担当するのでは、と言われています。
メンケンは劇伴に加えて、同じくディズニー作品には欠かせない作詞担当のティム・ライスとハワード・アシュトンとともに歌曲の作曲も担当しています。本作は大半のシーンを歌曲が占め、キャスト陣によるパフォーマンスが見どころであり聴きどころでもあります。
オープニングからエマ・ワトソンが高らかに謳い上げる「朝の風景」や、ユアン・マクレガー、イアン・マッケラン、エマ・トンプソンらが歌う「ひとりぼっちの晩餐会」「デイズ・イン・ザ・サン」、ルーク・エヴァンスとジョシュ・ギャッドのデュエットが楽しい「強いぞ、ガストン」など、胸躍る楽曲からじんわりと感動を誘うハーモニックな楽曲まで盛りだくさん。
さらに本作はセリーヌ・ディオンとピーボ・ブライソンが美しい歌声を披露した1991年のオリジナルソング「美女と野獣」を、アリアナ・グランデとジョン・レジェンドという豪華デュエットで再録音。
またディオンは新曲となる「時は永遠に」で参加しているので、キャストによるヴォーカル、新旧作品の歌姫の共演、巨匠メンケンの劇伴というとんでもないボリュームの音楽構成になっています。
それにしてもアラン・メンケン、本作の前に手掛けたのが『ソーセージ・パーティー』というのが本当に驚きですね。ソーセージのパーティーを描いたかと思えばさらっと『美女と野獣』すらものにしてしまう。この切り替えの良さが、巨匠たる所以の1つでもあるのかもしれませんね。
まとめ
GWを経てもなお勢いがとどまることのなさそうな気配の『美女と野獣』。確かに近年の実写化の流れにおいても特に高水準のレベルで、俳優の演技からミュージカル、美術、ストーリーに至るまで何度も観たくなる作品でもあります。本国アメリカでは既に5億ドルに届きそうな興収を挙げており、日本でもどこまで数字を伸ばすか期待が高まります。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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(文:葦見川和哉)
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