『ディストピア パンドラの少女』は満足度100%のエンタメ映画!



(C)Gift Girl Limited / The British Film Institute 2016




M・R・ケアリーの人気小説「パンドラの少女」を映像化した作品、それがこの『ディストピア パンドラの少女』だ。原作小説のファンだけでなく、映画ファンの間でも公開前から話題になっていた本作を、今回は公開二日目の午前の回で鑑賞して来た。

120席ほどのスクリーンでの上映だったが、それでも5割以上の入りは中々の健闘だと言えるだろう。幅広い年齢の客層ながら一人での来場が目立った本作は、やはり情報に敏感な映画ファンが多く集まっている様子。
果たして、その出来はどうだったのか?

予告編


ストーリー




奇病の爆発的な蔓延から二十年。人間としての精神を失い、捕食本能に支配された“ハングリーズ”により、文明世界は完全に崩壊していた。
ロンドンの軍事基地ではハングリーズの第二世代、「セカンドチルドレン」達の教育実験が行われていた。その一人の少女メラニーは、他の子供たちとは明らかに違うものを持っていた。彼女はこの世界の救世主となるのか。




原作未読でも全然OK。でも鑑賞後に原作小説を読めば、更に深く楽しめる!



いやー、これは面白かった!
作品の内容が伝わり難いタイトルと、原作未読で鑑賞に臨んだこともあり、今回は正直かなりの不安があった本作。しかし、鑑賞後の満足感は最近見た映画の中でも上位に入るほど!

劇場での鑑賞後に原作小説も読んでみたのだが、これも非常に面白い内容で、確かに映画の上映時間に合わせて上手く内容をアレンジしていて、実に見事だった。何でも小説執筆中から、作者のM・R・ケアリー自身が映画化に向けての脚色を進めていたとか。

確かに小説のイメージを壊さずに映像化した部分が多く、例えば地下の隔離施設から地上に移動されたメラニーの眼前に、広大な空と敷地が広がる印象的なカットは、それまでの閉鎖された空間から一気に開放された喜びを表している様で、実に効果的だ。

更にその直後、地上で起きている「ある事態」が判明するショッキングな展開と合わせて、本作は観客の興味を途切れさせることなく、ラストまで一気に引っ張って行ってくれる。

その反面、原作小説と映画の大きな違いは、小説でのメラニーは映画の様に黒人の少女では無く、「その肌は抜けるように白い」と表現されている金髪白人の少女であること。原作のファンの方には「えーっ?」思われそうだが、メラニーとは古代ギリシャ語で「黒い娘」を意味するので、映画版での黒人の少女への変更は、充分納得出来るところだ。

しかもこの変更により、メラニーが置かれている隔離状況や差別的扱いが、嫌でも黒人の奴隷制の歴史を連想させるため、彼女がラストで取る行動がより深い意味を持つことになる。

何故、セカンドチルドレン達があの食事を取るのか?メラニーと生き残りの隊員たちとの関係性や、地下の隔離施設でのセカンドチルドレンの生活描写など、映画版で省略された部分をもっと知りたい方は、是非鑑賞後に原作小説を読まれることをオススメする。

日本版ポスターのビジュアルから、地味で暗く重い内容の作品だと判断して、劇場での鑑賞を躊躇されている方は、全然心配しないで大丈夫!

一度読み始めたら最後まで止められない原作の面白さ通り、この映画版も一級のエンタメ作品に仕上がっているので、是非劇場に足を運んで頂ければと思う。



(C)Gift Girl Limited / The British Film Institute 2016



最後に


原題「The Girl With All Gift」にある通り、主人公メラニーが持つ秘密は、彼女が遂に会うことが出来なかった母親からの「贈り物」であると同時に、人類が生き延びるための最後の希望でもある。

しかし、本来その「Gift」は、メラニー自身の幸せのためにこそ、使われるべきなのではないだろうか?
映画のタイトルにもある「パンドラの箱」の寓話。本編中にも登場するその物語は、正に本作のテーマを象徴する物だ。

結果的に人類とハングリーズとの争いを終わらせ、地球上に平和(?)をもたらしたメラニーの選択こそ、地球全体と次世代の子供達にとっての「希望」であり、本作を人々の記憶に残る作品とした要因だと言えるだろう。

自分を人間扱いしなかった不特定多数の人類よりも、只一人心を通わせてくれた教師のヘレンと、自身の同胞であるセカンドチルドレン達の幸福を選択したメラニーの行動を、果たして受け入れられるかどうか?本作への賛否は、実はそこに影響されるのではないかと思う。
本作の衝撃的なラストは、確かに好みが分かれるところだが、これから劇場で鑑賞される方には、出来ればネットのレビューには惑わされず、是非ご自身の目で判断して頂きたい。

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(文:滝口アキラ)

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