映画コラム
『スパイダーマン:ホームカミング』ベン叔父さんの死は何故描かれなかった?更にアーロン・デイヴィスって誰?
『スパイダーマン:ホームカミング』ベン叔父さんの死は何故描かれなかった?更にアーロン・デイヴィスって誰?
(C)Marvel Studios 2017. (C)2017 CTMG. All Rights Reserved.
11日から公開中の映画『スパイダーマン:ホームカミング』が、現在非常に幅広い観客層から好評・高評価を集めている。
もちろん作品自体のクオリティも高いのだが、昨年公開された映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で、既に新生スパイダーマンのお披露目は済んでおり、以前よりもスパイダーマンの認知度と作品に対する興味が高かったためだろうか?今回主役のピーター・パーカーを演じるトム・ホランドのキュートさを、話題にされている女性も多い様だ。
娯楽映画として表面上は楽しめるものの、どうしても事前の予備知識の有無で楽しみ方にも差がでてしまう。そんな印象が強かったアメコミ映画のイメージが、近年徐々に変わって来ている様だ。
特に今回の『スパイダーマン:ホームカミング』は、実に3度目の映画化。しかも、前回からさほど時間が経っていない中でのリブートとあって、明らかに過去シリーズの繰り返しを避け、新たな観客層(特に海外での)の取り込みを狙った、様々な挑戦的な試みが盛り込まれている。
そんな中、個人的にどうしても気になったのが、スパイダーマン誕生の重要なきっかけとなるベン叔父さんの死が、今回のリブート版では描かれていないという点だった。
予告編
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何故、本作ではベン叔父さんの死が描かれないのか?
実は1977年にアメリカで放送された最初の実写版ドラマでも、ベン叔父さんの死は描かれないどころか、ベン叔父さん自体が登場していない。最初の実写ドラマでは、ピーターは大学院生という設定であり、既に善悪の判断が出来る大人の登場人物として登場する。
そもそもクモに噛まれることがスパイダーマン誕生の原因であり、あくまでもベン叔父さんの死は、未成年の主人公にヒーローとしての決意と責任感を持たせるための重要な要素だった。そのため既に大人の男として登場するTVドラマ版のピーターには、ベン叔父さんの死という試練は必要無かったのだろう。
しかし、本作『スパイダーマン:ホームカミング』での主人公ピーターは、まだ15歳の高校生という設定。普通に考えれば、ピーターが大人の世界の厳しさを知り、ヒーローとして生きる決意をするには、やはり「ベン叔父さんの死」という重大な試練が必要な筈だ。
その反面、昨年公開された映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で既にスパイダーマンとして登場している以上、また新たに最初からオリジン(ヒーローの誕生秘話のこと)を語るのは二度手間だし、「ベン叔父さんの死」という試練を描かなくても、スパイダーマンの活躍を描くことは問題無いと言う意見も理解出来る。
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それでは、ピーターがスパイダーマンとして生きる決意が本作では描かれないのかと言うと、実は全く別の登場人物による異なったアプローチにより、ちゃんとスパイダーマンとしての精神的自立と、ヒーローとして生きる決意は描かれているのだ。と言うことは、意図的に今回はベン叔父さんの死が描かれなかった、と見ることが出来る。
果たして、その理由とは?
ベン叔父さんの代わりに手本となるのは、実はあのキャラだった!
今回登場する魅力的な悪役ヴァルチャー。実は彼にも守るべき大切な存在と、彼なりの理由と正義が存在する。
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本作におけるヴァルチャーとスパイダーマンは、言わば表裏一体の存在。ヴァルチャーがその強大な力に呑まれ道を踏み外したことで、ピーターのクラスメイトであるリズとその家族は悲しい目に遭ってしまう・・・。
本作での主人公ピーターは、実はこの悪役の姿を通して大切な教訓を得ることになる。
そう、この悪役との戦いの中で、ピーターは学ぶのだ。「強大な力には大きな責任が伴うこと」そして、「力の使い方を間違えると周囲の愛する人々が不幸になること」を。正にこれこそは、ベン叔父さんが自身の死をもってピーターに教えた大切な教訓に他ならない。
そう、実は本作『スパイダーマン:ホームカミング』において、間接的にベン叔父さんの役割を果たすのは、本来悪役であるヴァルチャー!
だから本作でベン叔父さんの死が描かれなくとも、ピーターの精神的成長と、ヒーローとして生きる決意と覚悟はちゃんと描かれているのだ!
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仕方が無かったとは言え、自身の憧れの彼女の父親を牢獄に送り、また彼女の家庭と生活をも破壊してしまったピーター。例え「ベン叔父さんの死」というアプローチを取らなくとも、充分観客には彼が自身の名誉欲・思い上がりから開放され、人々を助け守るヒーローとして生きることを決意した理由が判る。だからこそ、本作ラストでのピーターの選択が、観客の胸を打つという訳だ。
既に過去2回に渡って描かれた「ベン叔父さんの死」を安易に繰り返すこと無く、前述した様な挑戦的アプローチを取った脚本と演出こそ、本作成功の重要な要因であり、『アイアンマン』1作目のラストと呼応する様な結末は、原作ファンにとってはコミック版の「シビル・ウォー」での悲劇的な結果をも予想させて、実に効果的だと言えるだろう。
反重力クライマーの言葉に反応するキャラと言えば、あの人しかいない!
実は本作には、今回の悪役ヴァルチャー以外にも、初期の原作に登場する悪役や重要なキャラクターが多数登場しており、70年代末に光文社から刊行されていたマーベルコミックスの翻訳単行本を読んでいた世代には、より楽しめる内容となっていた。
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その中でも個人的に気になったのが、本作の序盤で、ライトバンに積んだ武器を買おうとする黒人の青年だ。
どうも根っからの悪人には見えない彼が、あまりに強力すぎる武器を見せられて戸惑っていると、売人が彼にこう声をかける。
「反重力クライマー(多分、壁を楽によじ登れる装置?)もあるよ」
このセリフに彼は「クライマー?!」と鋭く反応するのだ。
高いビルの壁をよじ登る黒人のキャラクター!
実は、ここで重度のアメコミファンは確実に気付くのだ、「あ、コイツはあのキャラに違いない!」と。
事実自分もそう確信していたのだが、エンドクレジットの役名が「アーロン・デイヴィス」となっていたのを見て、「あれ、違ってたか」と思い、家でもう一度調べてみた。その結果、「アーロン・デイヴィス」とは、原作コミック「アルティメット・スパイダーマン」に登場する役名であり、やはり自分が考えていたキャラクターのことだと判明!(実は恥ずかしながら、最近のコミックは殆ど読んでいなかったので、初期の原作に登場した時とは名前が違っていることに気が付かなかったのでした・・・)
映画を見て気になったり疑問に思った方は、是非ネットでこの「アーロン・デイヴィス」という名前を調べて頂ければと思うのだが、実は彼が登場したことで続編の展開の予想が少し出来たりする。
本作でもスパイダーマンに協力するなど、観客の印象に残るこの「アーロン・デイヴィス」の存在には、今後要注意!
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最後に
悪役ヴァルチャーの姿を通して、家庭を持ち家族を愛する普通の男が強大な力に飲み込まれる怖さと、強大な力が周りの人間までも不幸にしてしまう可能性を知ったピーター。本作のラストで彼が取る選択こそ、ベン叔父さんがかつて自身の死をもってピーターに教えた真理であり、またそれはアイアンマンにとっての理想の姿でもある。
今回のリブートが過去作と異なる最大の点、それは大切な存在の犠牲の上に成り立つスパイダーマンの誕生は、もはや描かれないということに尽きる。
本作で描かれるのは、悩めるティーンエージャーではあるが、もはや決して孤独では無いヒーローとしての姿だ。ベン叔父さんの死と、自身の正体を周囲の友人・家族に隠さなければならない孤独。
これらの呪縛から解き放たれた、今回の新生スパイダーマン。多くの観客が楽しめる作品として、こうしたアプローチも実は今の時代に合っているのかも知れない。
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(文:滝口アキラ)
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