映画コラム

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2017年10月14日

『恋と嘘』&『一礼して、キス』、若手俳優の魅力を汲み上げる古澤健監督

『恋と嘘』&『一礼して、キス』、若手俳優の魅力を汲み上げる古澤健監督

恋と嘘 本ポスター


(C)2017「恋と嘘」製作委員会 (C)ムサヲ/講談社


現在、少女漫画などを原作に、10代女子の恋愛事情などを中心に描いた映画を“キラキラ映画”などと呼ばれたりして大流行し続けていますが、数が多くなるにつれ、キャストだけでなくそれを手掛ける監督に注目して見ていく楽しさもこのところ出てきています。

今年だけでも『PとJK』を放ったベテラン廣木隆一監督や、『トリガール』『あさひなぐ』などコミカル色とのバランスも巧みな英勉監督、そしてまもなく公開される『先生!、、、好きになってもいいですか?』の三木孝浩監督はキラキラ映画信頼のブランドといってもいいほどのみずみずしさを毎回提示し続けています。

そして今回、注目していただきたいもう一人の監督は……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.262》

『恋と嘘』『一礼して、キス』とキラキラ映画がこれから二連発公開される古澤健監督です!

ホラー&サスペンスものから
メジャー感あふれるキラキラ映画へ


古澤健監督は1972年生まれ。黒沢清監督や瀬々敬久監督などに師事し、2004年『ロスト★マイウェイ』で映画監督デビューを果たしました。

ロストマイウェイ [DVD]



その後、沢尻エリカ主演『オトシモノ』(06)や関めぐみ主演『トワイライトシンドローム デッドクルーズ』(08)など若手俳優によるホラー・サスペンスものをはじめ、多彩なジャンルを手掛け、それらの功績が認められて、綾辻行人の人気ミステリ小説を山﨑賢人&橋本愛主演で映画化した『アナザーAnother』(11)でメジャー進出。

こういった若手俳優の魅力を抽出する力に長けている点などを買われ、2012年、水波風南の人気漫画を原作に、生真面目な高校生ヒロインと地味な女の子を弄ぶイケメン男子の数奇な恋の物語を武井咲&松坂桃李主演で描いた『今日、恋をはじめます』を監督しました(この作品の出来がまた秀逸だった!)。

今日、恋をはじめます 【TBSオンデマンド】



この後、友達だと思い心を許したルームメイトの恐怖を描いた北川景子&深田恭子主演のサスペンス『ルームメイト』(13)を手掛けますが、続いて武井咲とのコンビ第2作、稚野鳥子原作の『クローバー』(14)が決め手となったか、今年は何と『ReLIFE』『恋と嘘』『一礼して、キス』と3本ものキラキラ系新作がお目見え!

恋と嘘 3ショット


(C)2017「恋と嘘」製作委員会 (C)ムサヲ/講談社


既にDVDもレンタル中の『ReLIFE』は夜宵草の学園漫画を原作に、27歳にして無職の若者が、1年間高校生活を送る実験に参加するもので、主人公こそ男性ですが、演じる中川大志のさわやかなかっこよさも相まって、女子をうっとりさせる魅力にあふれた作品となり得ていました。

キャスト陣の未来に期待できる
2本の新作古澤作品


10月14日公開の『恋と嘘』は、マンガアプリ「マンガボックス」で連載中のムサヲの漫画が原作ですが、実写映画化に際しては原作とのつながりを持つアナザーストーリーを展開。

https://www.youtube.com/watch?time_continue=1&v=wqxI6FD94hs

少子化を食い止めるべく政府が制定した「超・少子化対策法」に基づき、満16歳の誕生日を迎えた男女に理想のパートナーをマッチングさせるという原作の設定の許、新たな女ひとり男ふたりの三角関係のドラマ(原作だと女ふたり男ひとりの三角関係)を構築しています。

国がパートナーを選ぶ近未来管理社会という設定は、1970年代に流行した反体制SF映画群を彷彿させるものがありますが、本作の場合、そちらの方向には流れず、国が決めた相手を選ぶか否か? といった揺れる乙女心に焦点を合わせています。

『ReLIFE』もそうですが、古澤監督はちょっと奇抜な設定を若者たちの等身大の悩みへ落とし込みながら、その中から青春の息吹を初々しく描出する手腕に長けた監督のように思えます。

一方11月11日公開の『一礼して、キス』は加賀やっこの人気漫画を原作に弓道部に属する高校3年生のヒロインとその後輩との不器用な恋模様を切々と描いていくもの。



(ちなみに、なぜか『アイコ16歳』『時をかける少女』の昔から青春映画と弓道は相性がいいのか、「先生!、、、好きになってもいいですか?」もヒロインは弓道部所属です。袴を着て矢を射る際の佇まいなどが少女の凛とした魅力を引き出すからでしょうか?)

こちらはかなり内向的なヒロインで、後輩君にグイグイ振り回されていく感が印象的でもありますが、それをどちらかというと積極的雰囲気の美少女・池田エライザに演じさせているあたりのキャスティングが絶妙で、これによって映画に不思議な倒錯的色気が醸し出されています。

思えば『恋と嘘』も、お話だけを採ると少し調子がよすぎやしないか? と思う節もなきにしもあらずですが、これもヒロインを演じる森川葵の明るい個性によって巧みにカバーされています。
いや、カバーされているのは、そう思わせてくれる古澤監督のキャストを見つめるキャメラ・アイがそうさせているのでしょう。
(ちなみに森川葵は『先生!、、、』にも助演していますが、こちらもいい味出しています)

これまでもホラー&サスペンスで若手俳優の資質を引き出しながらドラマを紡いできた古澤監督だからこその個性ではないかと思えてなりません。

『一礼して、キス』のどこか控えめに映えていたヒロインも、実はそれゆえに芯が強いといった一面を最後に匂わせるあたりも、ちゃんと今の映画として屹立していると唸らされます。

女性ファン注目の男性キャストにしても、『恋と嘘』の北村匠海&佐藤廣太、『一礼して、キス』の中尾暢樹、それぞれ同性から見て嫉妬以外の何者でもないイケメンぶりに、これがキラキラ映画の醍醐味というものなのだろうとため息をつくばかりです。
(それでいて、みんな少しばかり心の弱さをちらつかせてヒロインの心を乱したりするあたりも、ああ、なるほどねえとしか言いようのない、見倣えるものなら見倣いたい、でもそもそもルックスからして無理でしょ……などと、こちらの心も別の意味で乱れてしまいます)

古澤作品はジャンルを問わず、出演した若手たちの多くが飛躍していますが、やはり優れた映画眼によってその資質が開花されているからでしょう。

その意味でも『恋と嘘』『一礼して、キス』のキャスト陣の未来にも大いに期待ができるというもの。

この監督、そのうちどえらいことをやらかしてくれるような(つまりはこれらのキャストの魅力を抽出し得たジャンルの壁をぶち破る大掛かりな作品を!)、そんな期待で今はいっぱいであります。

■「キネマニア共和国」の連載をもっと読みたい方は、こちら

(文:増當竜也)

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