羽生結弦が『殿、利息でござる!』に起用された誠実な理由と、役柄の素晴らしさを全力で語る!
Photo credit: Benson Kua on Visual hunt / CC BY-SA
去る2018年2月17日、平昌オリンピックのフィギュアスケート男子で羽生結弦選手が金メダルを獲得しました。冬季オリンピックの個人種目で連覇を果たしたのは日本人史上初、その獲得した金メダルが冬季オリンピックでの通算1000個目になったことを含め、日本中がその偉業を讃え、歓喜に湧きました。
その羽生結弦選手が出演している日本映画があることをご存知でしょうか。それは、2016年に公開された『殿、利息でござる!』。仙台藩の7代藩主・伊達重村という実在した人物を羽生結弦選手が演じていたことは、公開当時も大きな話題となっていたのです。
(C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会
ここでは、『殿、利息でござる!』の羽生結弦選手の起用理由がいかに誠実であったのか、また劇中で羽生結弦選手がどのような演技をしていたかなど、これから映画を観る人、またはすでに観た人に知ってほしい事実を、まとめてお伝えします。
1:ダメ元だったオファーを快諾!
その理由は羽生結弦選手の“地元愛”?
『殿、利息でござる!』の終盤に登場する仙台藩藩主は、物語上どうしても“雲の上の人”と尊ばれる役者に演じてもらう必要がありました。しかし、主要キャストに阿部サダヲ、瑛太、妻夫木聡、千葉雄大、松田龍平などの豪華俳優陣をすでに配役してしまったため、中村義洋監督は「彼らが仰ぎ見るほどの資質をもつ役者が見つけられなくなった」と悩んでいたのだとか。
そこで名前が挙がったのが、映画の舞台と同じ宮城県仙台市出身であり、当時からまさに“雲の上の人”であった羽生結弦選手でした。オファー自体はダメ元で行われたものの、羽生結弦選手側は何と快諾。その理由は、羽生結弦選手とその父がともに原作本と脚本を読んだところ、「仙台の人のためになり、(フィギュアスケートの)演技のためにもなるかもしれない」などと親子で話し合うことができたからなのだとか。
この出演の快諾に、羽生結弦選手の“地元愛”もあったことは想像に難くないです。何しろ、『殿、利息でござる!』の物語は仙台藩で重税を課せられた庶民を救うため、さまざまな人間が知恵を絞り、奔走するというもの。それは、現実の(羽生結弦選手自身も被災した)東北大震災で深く傷つけられてしまった仙台に、自身のスケートの演技を通じて恩返しがしたい、仙台はもちろん日本中の人々に元気になってもらいたいという、羽生結弦選手自身の想いと通じていたところもあったのでしょう。(羽生結弦選手はこの役を受けるにあたって「実話を元にしているとのことですが、地元の宮城にこんな素晴らしい話があったということに驚いています」ともコメントしています)
中村義洋監督およびスタッフが羽生結弦選手の起用を考えたのは、もちろん映画のプロモーションのためでもあったのでしょう。しかしながら、羽生結弦選手が物語の舞台である仙台の出身者であり、仙台という場所を愛していることはもちろん、実力と人気を併せ持つ俳優たちが尊ぶほどのカリスマ性を持っていたことまでもが、仙台藩藩主という役柄にこれ以上なく合致しているのです。短絡的な客寄せのためのキャスティングではない、極めて誠実であることは誰の目にも明らかでしょう。
(C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会
2:羽生結弦選手の“ギャップのある演技プラン”とは?
起用理由はもちろんですが、さらに重要なのは羽生結弦選手の演技が上手いかどうか、ということでしょう。結論から言えば、文句のつけようがなく、その“雲の上の人”としての存在感が、完璧と言っていいほど役にハマっていました!
羽生結弦選手はこの仙台藩藩主という役を演じるにあたって「威風堂々とした姿と、優しさを兼ね合わせるギャップを、自分なりに表現できればと思い一生懸命演じました」と語っています。
羽生結弦選手はベテランの豪華役者陣に比べると若く、藩主という役柄を考えれば幼くすら見えます。しかし、その演技は(本人は緊張したとも言っていたものの)堂々としており、地位のある者の風格と、確かな知性を漂わせています。本人も発言した“ギャップのある演技プラン”が、彼のとんでもない美形、優しさも垣間見えるルックスとも見事に絡み合っていると言ってよいでしょう。
(C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会
3:羽生結弦選手がなかなか登場しないことも、重要な意味を持っていた?
羽生結弦選手の役でさらに重要なことがもう1つあります。それは、“終盤になってからやっと登場する”ということ。彼のファンにとってはじれったく感じてしまうことなのかもしれませんが、その出番の少なさと、なかなか登場しないことそのものが、物語上で重要な意味を持っていると言ってもよいのです。
その大きな理由は、物語の大筋が“殿様に大金を貸し付けるために、知恵を絞り、地べたを這いつくばってでも銭を集めようとする”というものであるからです。『殿、利息でござる!』はパッと見では痛快なコメディ作品のようにも見えますが、実のところ登場人物に“我慢”を強いることが多く、その過程で登場人物たちの想いや過去の出来事が次々に明らかになっていくという、ヒューマニズムに溢れたドラマがメインとなっているのです。そこには、庶民が搾取され、上の役職にいる者だけが甘い蜜を吸えるという、現代にも通じる悪しき社会的構図もハッキリと表れています。
終盤で登場する仙台藩藩主は、我慢をし続けた主人公たちが、“やっと”会うことができた人物なのです。詳しくはネタバレになるので書きませんが、この時に藩主が告げた言葉は感動的であり、今までの主人公たちの価値観を覆す、カタルシスに満ちたものになっていました。
その役を演じるのが、日本人の誰もがその気高さや強さを知っている羽生結弦選手なのですから、一つひとつの言葉の説得力が半端なものではありません。同時に、この「やっと羽生結弦選手の姿を見ることができた」という気持ちが、劇中の主人公たちとの「やっと素晴らしい人物(仙台藩藩主)と出会うことができた」という想いともシンクロしている、と言ってもいいでしょう。
(C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会
4:出演者はリハーサルまで羽生結弦選手のキャスティングを知らなかった!
羽生結弦選手の起用で、もう1つおもしろいエピソードがあります。それは、豪華キャスト陣の誰もが、撮影当時になるまで羽生結弦選手が現場にやって来るのを知らなかった、ということです。
リハーサルの途中にひょっこりと羽生結弦選手が姿を表した時、出演者全員がアッと驚いたそう。その時の“素”のリアクションは実際の本編でもかなり反映されているのでしょう。
(C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会
5:中村義洋監督は仙台と“縁”があった!
余談ではありますが、中村義洋監督は『アヒルと鴨のコインロッカー』や『ポテチ』など、仙台を舞台にした映画を数多く手がけています。(それらの映画の原作となる伊坂幸太郎の小説も仙台を舞台としています)
『殿、利息でござる』でも、中村義洋監督が(原作者が異なるにも関わらず)仙台を舞台にした作品を撮ったこと、その出身者である羽生結弦選手に役をオファーしたことに“縁”を感じざるを得ません。しかも、それらは映画ファンが認める優れた作品ばかりなのですから、宮城県・仙台の方にとってこれほど嬉しいことはありませんよね。
さらに余談ですが、『殿、利息でござる』の英語版タイトルは「The Magnificent Nine」になっており、『七人の侍』のリメイクである『荒野の七人(The Magnificent Seven)』を意識したものになっています。海外でも、羽生結弦選手の起用とその演技は、かなりの評判を呼んだようですよ。
※以下の中村義洋監督へのインタビューも合わせてお読みください!↓
□「千葉くんにして良かった。とにかく素晴らしかった。」、「殿、利息でござる!」、中村義洋監督インタビュー
まとめ
映画では、大物の俳優や芸能人が端役で出演する、いわゆるカメオ出演(または友情出演や特別出演)がされることがよくあります。それは映画のプロモーションのためにもなりますし、(出番が少なくとも)存在感のある人物に起用することで説得力が生まれるなど、多くの場合プラスに働くものです。
※以下の記事も参考にどうぞ↓
□特別出演と友情出演の違いとは。カメオ出演って知っていますか?
ただ、安易なカメオ出演は目立ちすぎるとノイズになってしまいますし、度がすぎると映画全体を壊しかねません。具体的なタイトルは挙げませんが、クライマックスに余計なカメオ出演をしてしまったために、感動が台無しになってしまったと評された日本映画も存在しています。
しかしながら、『殿、利息でござる!』での仙台藩藩に羽生結弦選手をキャスティングしたことは、起用理由が極めて誠実であるだけでなく、その人物像そのものが役柄にベストマッチであり、終盤まで登場しないことも物語上で重要になっていて、何より地元を愛する羽生結弦選手の想いにもつながっていて、しかも演技そのものも超絶上手かったと……これ以上のないほどに、皆が幸せになるキャスティングになっているのです。いや、もう、最高だよ!
ちなみに、今回の金メダル獲得により、さらにCMやドラマや映画へのオファーが殺到しているという羽生結弦選手ですが、タレントとしての活動はもちろん、俳優の仕事をすべて断り続けているという噂があります。それは、ひとえに羽生結弦選手のフィギュアスケートへの、ストイックなまでの熱意のためでもあるのでしょう。
ともすれば、羽生結弦選手が『殿、利息でござる!』でのオファーを快諾したのは異例中の異例であり、映画に出演するのはこれが最初で最後かもしれないのです。ぜひぜひ、羽生結弦選手の俳優としての魅力を堪能してみてください!
※筆者は以下の記事も書きました↓
□『殿、利息でござる!』をいまの日本人すべてに観て欲しい5つの理由
[この映画を見れる動画配信サイトはこちら!](2018年2月23日現在配信中)
(文:ヒナタカ)
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