映画コラム
監視ロボットが繋ぐ『きみへの距離、1万キロ』の遠距離恋愛
監視ロボットが繋ぐ『きみへの距離、1万キロ』の遠距離恋愛
(C)Productions Item 7-II Inc. 2017
古今東西、ラブ・ストーリーの基本は男と女が出会い、愛し合い、そして……というものが大半ではありますが、テクノロジーの発達で、必ずしも出会わなくても恋が成立するパターンの作品も出てきています。
パソコン通信(懐かしい響きですね)で見知らぬ男女が知り合い、ラストは「はじめまして」の台詞で終わる森田芳光監督の日本映画『(ハル)』(96)なんて、その先駆けだったようにも思えますし、最近でも『君の名は。』(16)なんてまさに直接出会えないことからロマンティシズムを掻き立てながら愛を育んでいくユニークな作品でした。
そしてまた1本、斬新なアイデアによる“出会わないラブ・ストーリー”が登場しました……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.299》
『きみへの距離、1万キロ』はその名のごとく1万キロを隔てた場所に住む男女が、何と監視ロボットを通して心結ばれていくのです!
アメリカの男性と北アフリカの女性
ふたりを結ぶクモ型監視ロボット!
アメリカのデトロイトに住むゴードン(ジョー・コール)は、北アフリカの砂漠地帯にある石油のパイプラインを6本足のクモ型監視ロボット“Juliet3000”を遠隔操作しながら見張る仕事に従事しています。
最近失恋したばかりで落ち込み気味のゴードンは、上司から勧められた出会い系アプリをやってみたりもしますが、どうにも気が乗らない様子。
そんなあるとき、彼はJuliet3000を通して目撃した、若く美しい現地の女性アユーシャ(リナ・エル=アラビ)に次第に魅入られていきます。
Juliet3000を通して聞こえてくる会話などの情報から、どうもアユーシャはカリム(フェイサル・ジグラット)という恋人がいながら、親からかなり年配の男性との結婚を強要されているようです。
そんな状況を知ったゴードンは、アユーシャのために何かできないかを模索し始めていきますが、一方でアユーシャとカリムは駆け落ちを決意し、そのための費用を捻出すべく……。
現代のテクノロジーを駆使して
世界はひとつであることを示唆
本作はいわゆるデジタルやSNSなど最新伝達技術の発展と共に生きるアメリカの男性と、かたや真逆ともいえる古い因習にとらわれた北アフリカの某所で生きる女性が、およそ地球の反対側で生活しているにも関わらず、無骨なクモ型ロボットを通して心の交流をはかっていくという、異文化の衝突や遠距離の困難さなどを乗り越えながら、現代ならではの設定を駆使したファンタスティックな情緒で見る者にピュアな想いを届けてくれる卓抜したラブ・ストーリーです。
両者がさまざまな状況的危機を克服していく過程などにリアリティがないと批判する向きもあるかもしれません。
しかし、本作が描きたいのはそういったリアリズムではなく、どんなに広大であれ世界は一つであり、どんなに離れていようとも人はつながることができるのだという、ある種の願いや夢を謳い上げたものに他なりません。
また、そのために最新技術がツールとして役に立つ。
日頃何かと技術の行き過ぎた発達を批判する声もありますが、結局のところテクノロジーを良き事に使うも悪しき事に使うもその人次第であり、またどんなに時代が変化しても人が人と知り合い、意思の疎通をはかる行為に変わりはありません。
本作を監督したカナダ出身のキム・グエンは、演出にあたってルイ・アームストロングの名曲『この素晴らしき世界』とも共通する、現代ならではの希望の夢を訴えたかったようですが、その意図は見事に達せられたとみていいでしょう。
主演ふたりのキャスティングも大成功で、ナイーヴで内向きな個性ゆえに、ロボットを通して大胆な行動に出ることができるゴードン役のジョー・コールは、今の時代ならではの若者像を見事に体現し得ているように思えます。
一方でモロッコ系フランス人女優のリナ・エル=アラビの閉ざされた世界には似つかわしくない堂々たる存在感と美貌が、ゴードンのみならず見る者まで虜にしつつ、ドラマに説得力を与えています。
そしてやはり何といっても特筆すべきは6本足のクモ型ロボットJuliet3000で、最初は無機質な印象だったのが次第に恋のキューピットとして実に可愛らしいオーラを放っていくあたり、まさに一家に1台所有したくなる衝動に駆られるほどです。
そういえば本作の原題も“EYE ON JULIET”(ジュリエットのまなざし)と、どこまでもロマンティックなのでした!
(文:増當竜也)
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