映画コラム

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2022年12月07日

【興行収入分析】『THE FIRST SLAM DUNK』徹底的なシークレット宣伝の結果は?

【興行収入分析】『THE FIRST SLAM DUNK』徹底的なシークレット宣伝の結果は?


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未だかつて、これほどベールに包まれた状態での公開はなかったのではないか?と思わせる中で、映画『THE FIRST SLAM DUNK』が公開されました。

声優の総入れ替え騒動やあらすじの断片すら完全に伏せ、脇役のボイスキャストにも言及しないという完全なシークレット状態。故にいわゆる“炎上騒動”になってしまった部分もありましたが、蓋を開けてみれば、特に原作ファンからは大絶賛の嵐。見事なターンオーバーを見せてくれました。

しかし公開までの流れは異例続きの展開でした。

>>>【関連記事】『THE FIRST SLAM DUNK』を褒めちぎりたい理由

様々な制約を受ける映画宣伝の現場



元々、マスコミ向け試写の回数が少なかったり、開催されなかったりする作品は過去にもありました。チラシやポスター・予告編の展開が作品の公開規模に対して遅くなったり、小規模になったりすることも同様です。

例えばハリウッドメジャー(ディズニー・ソニー・ワーナーブラザース・パラマウント・ユニバーサル)作品などは、権利関係の問題もあって本国・アメリカ以外の宣伝は多くの制約を受けています。映画ファンとしては「出し惜しみするなよ!」と言いたくなりますが、実際には難しいことが多いのもまた事実です。日米同時公開といった場合は、特に宣伝の制約の厳しさが増すことも。



近年では『アベンジャーズ/エンドゲーム』や『マトリックス レザレクションズ』などが、関係者にも公開日まで本編が明かされませんでした。

さまざまな事情の影響により、ハリウッド作品の“絞った宣伝”も理解できます。ところが最近は、洋画だけでなく邦画の宣伝にも同様の傾向があります。

『THE FIRST SLAM DUNK』はチラシもない!


権利元が日本にある邦画において、絞った宣伝展開の手法はほとんど“意図的な隠し”と言っていいでしょう。(中には「作品が本当に出来上がっていない!」といった場合もありますが……)

最近では『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『シン・ウルトラマン』といった庵野秀明監督関連作品の他に『あなたの番です 劇場版』『ドラゴンボール超スーパーヒーロー』『ONE PIECE FILM RED』などが挙げられます。
 
それでも上記の作品は、劇場に設置されるチラシ展開やポスター&予告の複数バージョン公開、キャスティングやある程度のあらすじも解禁されていました。
 
その一方で『THE FIRST SLAM DUNK』はチラシなし、劇場に掲出されたポスターとバスケの得点表を模したカウントダウン日めくりと、後は断片的な予告(というか短いイメージカット)だけ。


映画宣伝ツールとしてのチラシの効果については別の話になりますが、本作ほどの大規模公開映画で「チラシがない」状況は前代未聞です。
 
「そうは言ってもチラシに書くことがないから……」という意見もあるかもしれませんが、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』も『シン・ウルトラマン』も、そして『シン・仮面ライダー』の新チラシもテキストなしではあるものの、シンボリックなデザインを活かしたチラシ公開しています。

『THE FIRST SLAM DUNK』公開前夜までの動き


『THE FIRST SLAM DUNK』がまだ『SLAM DUNK(タイトル未定)』として製作が発表されたのは1年以上前の2021年の夏頃、当初は2022年秋の公開となっていましたが、実際は2022年12月3日の土曜日が初日となりました。
 
制作発表後、監督と脚本を原作者の井上雄彦が務めることが発表され、1日ずつメインキャラクターを描いたポスタービジュアルや予告編(イメージカット)が徐々に解禁されました。しかし、あらすじが全く語られず、その一方で原作にはないカットが出てくるなど様々な考察がファンの間で展開。
 
近年のサスペンスドラマ、サスペンス映画にはこの“考察文化”が欠かせませんが、まさか『THE FIRST SLAM DUNK』で公開前にこれほど考察が白熱するとは思いませんでした。
 
またアニメの「スラムダンク」に思い入れが強い人たちにとっては、声優の総入れ替えや“画”の変更が心をざわつかせることにもなりました。

『THE FIRST SLAM DUNK』公開!実際の興行収入は?

■初日12月3日(土)の劇場の空気感

そして12月3日(土)、遂に『THE FIRST SLAM DUNK』が公開。
 
筆者は、近年の話題作に対して異常ともいえる上映回数を用意する「TOHOシネマズ新宿」で初日に鑑賞しました。
 
本作でもTOHOシネマズ新宿は20回以上の上映回数を構えていました。しかし今回特筆すべきは、同じ新宿地区で東映系列のティ・ジョイが運営に関わる「新宿バルト9」がTOHOシネマズ新宿を上回る上映回数を用意したことでしょう。
 
TOHOシネマズ新宿のすさまじい上映回数は12スクリーンだからこその結果だとおもっていましたが、9スクリーンであるバルト9が上回ったことには東映=ティ・ジョイの意地を感じさせます。
 
初日の劇場の様子としては、1ヶ月前からチケット販売開始という超異例の展開をしていたためか、チケット売り場はそこまで混雑していませんでしたが、電光掲示板の残席状況ではほぼ満席状態が続いていました。
 
そして、何ともいってもグッズ売り場。近年はあまりにもすごい混雑や転売ヤーの跳梁跋扈などもあってネット販売の充実も図られていますが、やはりリアルなグッズショップの利用率は高く購入制限が出るなどの盛り上がりです。『すずめの戸締まり』『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』といった話題作の混雑風景を彷彿とさせる状態でした。

■土日2日間の数字


『THE FIRST SLAM DUNK』は観客動員84.7万人・興行収入12.9億円を稼ぎ出して、3週連続1位を記録。すでに興収75億円を突破している『すずめの戸締まり』を抑えて堂々の1位となりました。
 
『THE FIRST SLAM DUNK』の数字は『すずめの戸締まり』対比で動員83%・興収で93%とです。同じジャンプ原作&東映配給としては『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』対比で動員170%・興収192%という結果でした。
 
『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』が25億円ほどのヒットで、『すずめの戸締まり』100億円超えが確実視されていることを踏まえると、『THE FIRST SLAM DUNK』はその中間のラインの「50億円のヒット」を越えてくることはほぼ確実でしょう。
 
例えば、『THE FIRST SLAM DUNK』と興収51億円を超た『キングダム2 遥かなる大地へ』を比べてみると動員160%・興収163%の出足です。
 
シリーズ最大ヒットの97.4億円を記録した『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』と比べても動員87%・興収93%という遜色ない数字。お正月映画シーズンに突入することもあって、どこまで上積みができるか楽しみな状況です。
 
一方で若干の懸念材料として「動員対比に対する興収対比の高さ」が挙げられます。この現象は、大人料金やラージフォーマット料金の観客が多いことを示しており、「観客の年齢層がやや高めで固定されている可能性がある」と思えなくもないのです。

筆者は原作が連載されていた頃に中高生で、中学生時代は下手くそなバスケ部員だった「スラムダンクどストライクな世代」です。しかし作品をヒットさせるためには、スラムダンク世代だけ呼べば良いわけではありません。上下の世代にうまく訴求しないと、思わぬ失速となってしまう可能性も。
 
熱心なコア層が分厚い作品であるだけに、それ以外の層をどれだけ取り込んでいけるかがカギです。

宣伝の“秘密戦略”はどこまで通じるか?



ネタバレ防止のための“秘密主義”やサプライズを作り出すための“焦らし”など手法は、今のところ観客・ファン層の飢餓感や焦燥感を生み、効果的を出しているでしょう。
 
ある種のサプライズや発見を求められている作品、原作ものやシリーズもので「黙っていてもある程度の動員が見込める」作品、さらには特定の熱烈なファン層に向けた作品(一部のアイドル映画やアニメ作品)などは宣伝を絞ることも効果的かもしれません。
 
しかし、あらゆるジャンルの作品に焦らしの手法が通じるわけではなく、ドラマ性(作品の中身)で見せる映画の場合は、マスコミ側はもちろん観客層にもしっかりと作品の良さを伝えて、公開前の盛り上げ役を増やす必要があります。

©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』から『ONE PIECE FILM RED』『THE FIRST SLAM DUNK』の3作続けて“絞った宣伝”をうまく機能させた東映は、来年2023年3月に『シン仮面ライダー』の公開を控えています。『シン仮面ライダー』の今後の宣伝展開がとても気になるところです。
 
(文・撮影:村松健太郎)

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