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2018-06-09

コラム

『榎田貿易堂』が訴える人生の微笑ましい機微

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(C)2017 映画「榎田貿易堂」製作委員会 



俺の(私の)人生、こんなんでいいのかな?

誰でも一度や二度はそんなこと思ったことがあるのではないでしょうか?

なかなか思うようにいかないのが世のならいではありますが、それでも生きている以上は「日々を満喫」とまでいかなくても、あれこれ腐心しながらこなしていくのもまた一興……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.312》

映画『榎田貿易堂』を微笑ましく鑑賞しながら、ふとそんなことを考えたりしてしまいました。

ディスカウント・ショップに集う
悩める大人たちの心の揺れ



『榎田貿易堂』の舞台は、群馬県渋川市のある地域。

そこにはディスカウント・ショップ「榎田貿易堂」があります。

開業4年目を迎えるこの店、店長の榎田洋二郎(渋川清彦)の下でアルバイト店員の千秋(伊藤沙莉)と清春(森岡龍)、そして旅館の息子で元助監督の丈(滝藤賢一)や男運の悪いヨーコ(余貴美子)が集っては、日がな一日を過ごしています。

人妻の千秋は、最近どうも夫に不満があるようで、周囲は興味津々ですが、彼女だけでなく、それぞれがどこかしら秘密を抱きつつ、その悩みを表に出さないようにふるまっています。

このように、本作は迷える大人たちが一見のどかにふるまいながら、いつ新しい一歩を踏み出すのか、踏み出さないのか、それでもよいのか、よくないのか、などといった小さくも大きな心の揺れ動きを飄々としたタッチで描いていくヒューマン・コメディ群像劇です。

特に何か大きな出来事が起きるでもなく、後半ちょっとばかり狂気じみた驚きの事件も描かれますが、それもまたこの作品らしく、どこかしらブラックユーモアに満ち溢れたものなので、まあ、そういうこともありえるよなあと、ほっとするような、でもちょっと怖いなと思わせるような、いずれにしてもドタバタ&のらりくらりを交錯させた世界が展開されていきます。

それはどこか居心地の良いものでもあり、どうせならこういうところで一生過ごすのも悪くないかな、と見る者に思わせつつ、やはり「永遠」というものは存在しないかのように、この映画にも終わりの時(=旅立ちの時)がやってくるのです。



日本映画界の充実ぶりを体現する
ユニークな演技陣のアンサンブル



本作は、今や彼の顔を見ない映画はないといっても過言ではないほど日本映画界に欠かせない名優・渋川清彦と、『大人ドロップ』や『笑う招き猫』など独自の世界観が魅力の飯塚健監督が初めてタッグを組んだ作品です。

実はこの両者、出身が同じ群馬県渋川市で学年こそ違えど小学校も高校も同じだったという奇縁もあって、飯塚監督自身が記したオリジナル脚本を基に、地元渋川市で撮影を敢行という、土地柄を知り尽くした者同士ならではのあうんの呼吸もまた楽しく響くものになっています。

また総じて個性的なキャスティングによる演技陣の飄々としたアンサンブルも実に心地よく、それは今の日本映画界の充実ぶりを体現しているようでもあります。

特に飯塚作品の常連でもある伊藤沙莉の悩める(?)人妻ぶりは実に好もしくも可愛らしいものがありました。

また出番は少ないものの、主人公と体の関係を持つ理髪店主人役の片岡礼子も強烈なインパクトを醸し出しています。

飯塚監督は本作を手掛けるにあたってのテーマとして「辞める」という言葉をキーワードにしていたと語っています。

一見後ろ向きなイメージにとらえられがちですが、実は「諦める」という言葉の本来の意味が「明らかに極める」であるのと同じで、次の一歩を踏み出すために何かを「辞める」という、未来ある若年層はともかく、酸いも甘いも体験したある程度の年齢ならば理解できるかなといったメッセージもまた、しんみりと胸打つものがあります。

俺の人生、こんなんでいいのかな?

まあ、なるようになるさ。

なんて、日頃の頑なな気分を拍子抜けさせるかのように「また明日もあるさ」と思わせてくれるような、そんな肩の力の抜けた好もしい映画、それが『榎田貿易堂』なのでした。
(それにしても、こういうお店、やってみたいな)

(文:増當竜也)