ナチスから美術品を守るため戦う『ミケランジェロ・プロジェクト』
(C)2014 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
8月15日の終戦記念日前後は、毎年戦争に関するさまざまな特集が組まれています。
テレビでも戦争映画やドラマ、ドキュメンタリー番組の放映が多く見られますね。
ならばこちらも、いわゆるドンドンパチパチものとは一味違った、異色の戦争映画『ミケランジェロ・プロジェクト』をご紹介したいと思います。
製作・監督・脚本・主演はジョージ・クルーニー。
第二次世界大戦中、ヒトラーによって貴重な美術品が破壊される前に奪還しようとする連合軍特殊部隊“モニュメンツ・メン”の活躍を描いたものです。
ナチ略奪美術品救出のために
結成された“モニュメンツ・メン”
映画『ミケランジェロ・プロジェクト』はロバート・M・エドゼルのドキュメント小説『ナチ略奪美術品を救え 特殊部隊「モニュメンツ・メン」の戦争』を原作にしたものです。
まずは本作の背景から記しますと、第二次世界大戦真っ只中の1943年、ナチス・ドイツ支配下の地域ではさまざまな美術品が親衛隊に強奪され、ヒトラーやゲーリングらナチ首脳陣の手に渡されていました。
またモンテ・カッシーノ修道院が戦闘時の爆撃で破壊されたり、さらにはドイツ軍が撤退する際に美術品をわざと破壊するなど、ヨーロッパ各地で数多くの歴史的文化財が失われていきます。
こうした事態を憂慮したハーバード大学付属美術館長フランク・ストークス(ジョージ・クルーニー)は、ルーズベルト大統領に戦地の美術品の救出を直訴します。
しかし、何せ多くの若者たちが戦線へ赴いているさなか、人手不足で美術品どころではないのが実情。
そこでルーズベルトはストークス自身にその役割を担ってもらうよう要請しました。
1944年3月、ストークスはジェームズ・グレンジャー(マット・デイモン)、リチャード・キャンベル(ビル・マーレイ)、ウォルター・ガーフィールド(ジョン・グッドマン)ら6人の美術専門家を招集し、美術品救出作戦を実行する“モニュメンツ・メン”を結成。
まもなくしてノルマンディーに到着した彼らは、現地の将校たちから疎まれながらも、美術品奪回のために奮闘していくのですが……。
「たかが美術品」のために
人はなぜ命をかけるのか?
ナチスドイツによる美術品強奪をモチーフとした映画としては、古くは略奪された美術品輸送列車のドイツ本国到着を阻止しようとするフランス・レジスタンスの活躍を描いた『大列車作戦』(64)が有名です。
最近ではナチスに収奪された名画をめぐる裁判の行方を描いた『黄金のアデーレ 名画の帰還』(15)があります。
日本映画でも、ナチス政権下のドイツからひそかに日本に運ばれてきた1枚の絵画をめぐるミステリー・ロマン『戒厳令の夜』(80)が作られています。
中国・宋の時代を舞台に、戦乱のさなか敦煌の文化遺産を守ろうとした人々の想いを描いた『敦煌』(88)もありますね。
戦争を含む極限状況の中でも、人はなぜ命を投げ出してまでも「たかが美術品」を守ろうとするのか?
おそらく、こうした文化遺産に対する姿勢の心根こそが、人間としての誇りを決定づけるのではないでしょうか。
『ミケランジェロ・プロジェクト』のモニュメンツ・メンのメンバーも、その大半が勇ましさとは無縁の中年男であり、銃など扱ったこともなさげな“戦場のド素人”です。
しかし、それでも美術品保護のために立ち上がる彼らの人としての誇り、即ち「人はパンのみにて生きるにあらず」ということを、美術品愛好家でもあるジョージ・クルーニーは訴えたかったのでしょう。
また、こういった文化遺産に対する姿勢を保ち続けていさえすれば、人は争うこともなくなるはずだとも。
ちなみに、実際のモニュメンツ・メンの構成メンバーは映画よりも人数が多く(最高で30名前後はいたとのこと)、その成り立ちは1943年以前からと説く歴史家もいます。映画のためにアレンジされたエピソードも多いようなので、ご興味ある方は史実と映画の差異など調べてみるのも面白いのではないでしょうか。
[2018年8月17日現在、配信中のサービス]
(文:増當竜也)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。