『ブレス しあわせの呼吸』5つの魅力!ユーモアと冒険に満ちた難病映画の秀作! 



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9月7日より公開されている『ブレス しあわせの呼吸』が実におもしろい映画でした! 28歳でポリオを患い首から下が麻痺になった実在の人物の姿を追ったドラマで、端的に言えば“難病もの”であるのですが、その言葉だけでは表すことができない、多層的な面白さを持っていたのですから。大きなネタバレのない範囲で、その魅力を解説します。

1:ユーモアとまさかの冒険が満載!
 『最強のふたり』のようポジティブな映画だ!


本作の大きな特徴の1つが、難病ものでありながら“お涙ちょうだい”な方向にほとんど進まないというとこと。描かれることの多くは、クスクスと笑えるユーモアや“冒険”であったりするのです。

主人公がポリオと診断されたのは、一目惚れをした女性と結婚し、もうすぐ子供が生まれるという幸福の絶頂の時でした。医師からは余命数ヶ月と宣告され、病院のベッドからは一歩も動けなくなり、人工呼吸器を絶え間なく動かさなければならず、主人公は「死にたい」と繰り返しつぶやくようになってしまいます。

客観的に見ればこれ以上のないほどの絶望的な状況を追い込まれているのに、それ以降はほとんどセンチメンタルな雰囲気にはなっていきません。それは、ベッドで一生を過さざるを得なかったはずの主人公が、周りの人々の支えと、画期的な車椅子の考案のおかげもあり、その行動範囲を広げていき、やがて予想もしなかった旅行にも繰り出すという物語が紡がれていくからです。

担当医師から何を言われようが、主人公とその妻、妻の双子の兄、その友人たちは一致団結し、ポジティブかつエネルギッシュに人生を謳歌しようとする……その過程はそれだけで痛快ですし、冒険においてのさまざまな“工夫”がこれまた予想外で観ていてワクワクするという、他の難病ものの映画にはなかなかない魅力が全面に出ていました。

物語そのものはもちろん、時には不謹慎ギリギリの(だからこそおもしろい)ジョークも言い合ったりもしていて、ついつい笑顔になってしまうシーンも満載です。特に、隣のベッドの男との“賭け”のやりとりは印象に残るでしょう。このユーモアのバランスは、フランスで大ヒットし、日本でも話題になった映画『最強のふたり』を思い出す方も多いかもしれませんね。



2:まさかの『ミッション・インポッシブル』的なハラハラドキドキがあった!


本作でもう1つ特徴的なのは、まさかのハラハラドキドキのサスペンス要素までが盛り込まれていることです。

何しろ、「人工呼吸器が無ければ主人公はたった2分間で死んでしまう。どうやって家まで運べばいいのか?」といった“難関ミッション”に挑むというシーンや、「人工呼吸器がひょんなことから外れてしまった!はたして妻は2分以内にこの事実に気づくのか?」というシーンまでもがあるのですから。

さらには、旅行先でとあるアクシデントにより立ち往生してしまうというシーンもあります。ネタバレになるので詳細は書きませんが、その後の展開にはほっこりと笑顔になるしかありませんでした。時には“工夫”にそのものに驚き、時に主人公たちを本気で応援し、時には心から笑顔になれる……人間ドラマだけでなく、確かなエンターテインメント性も備えているのです



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3:スパイダーマンを演じたあの俳優の“首から上だけの演技”がすごい!


本作で主演を務めるのは、『アメイジング・スパイダーマン』や『ハクソー・リッジ』などのアンドリュー・ガーフィールド。今回は彼の呼吸機を付けたまま喋る“首から上だけの演技”が素晴らしく、特に窒息しかけた時の“本当に死にそうに見える”表情が真に迫りすぎていて怖くなってくるほど!

アンドリュー・ガーフィールドは以前から“憂いを帯びた”役柄が上手い方だとは思っていましたが、今回はその内面に少なからずあるポジティブさや健気さまでもが強調されていて、楽しい雰囲気が満載の映画と見事にマッチしていました。観終わった後は、彼以外の配役は考えられなくなるでしょう。

公開中のアクション映画『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』ではトム・クルーズの体張りまくり、動きまくりのアクションに感動しましたが、『ブレス しあわせの呼吸』でアンドリュー・ガーフィールドの“全く動かない”演技にこそ感動します。どちらも、前述したように不可能なミッションに挑むという共通点がありますよ。

余談ですが、アンドリュー・ガーフィールドは10月13日公開予定の『アンダー・ザ・シルバーレイク』というサスペンス映画でも主演を務めています。ホラー映画ファンの間で絶賛が相次いだ『イット・フォローズ』のデビッド・ロバート・ミッチェル監督最新作ということで、こちらも大いに期待しています。



4:『ロード・オブ・ザ・リング』のあの俳優が監督に! 
医療を良く知る人物でもあった!



本作で監督を務めたのはアンディ・サーキス。『ロード・オブ・ザ・リング』のゴラムや、リブートされた『猿の惑星』シリーズでシーザー(猿のリーダー)をモーションキャプチャーで演じた俳優として有名な方です。

アンディ・サーキスの母はポリオなどの障害のある子供たちの先生をやっていて、女きょうだいは多発性硬化症を患い10年間も車椅子生活を続けており、父は医者であったこともあって、彼の周りには医療に関わる出来事が常にあったのだとか。その環境下で暮らしてきた彼でこそ、劇中の主人公とその妻がポリオに関わる先駆者であったこと、また実話ものでありながらラブストーリーやユーモアが盛り込まれた脚本に惹かれていったようです。

また、アンディ・サーキスは本作の主人公の夫妻が当時では“異端者”とも思える存在であったことにも感銘を受けたのだとか。1960年代は身体障害者への対応がまだ不十分であり、病院を離れて生活しようとしたことは異端者のようなことではあるけれど、それこその勇気付けられたのだ、と。

本作はアンディ・サーキスの初監督作となりますが、そうとは思えないほど演出は洗練されており、軽快なリズムと音楽で展開するシーン、重大なことが告げられるシーンの対比もうまく構築されています。医療のことを身近に感じていたことも含め、アンディ・サーキスは本作の監督として適任であり、またしても見事な仕事をやり遂げていると言っていいでしょう。



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5:製作に関わったのは主人公の息子だった! 
父と息子の交流にも注目!


『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズや『エリザベス』などで知られるプロデューサーのジョナサン・カヴェンディッシュは、なんと本作『ブレス しあわせの呼吸』の主人公であるロビン・カヴェンディッシュの息子であり、実際に製作にも関わっています。

ジョナサン・カヴェンディッシュはアンディ・サーキスとともに新しい企画を考えていた時、自身の両親の人生に際立った出来事が多いことに気づき、脚本家のウィリアム・ニコルソンが手がけた映画『永遠の愛に生きて』の主人公の“感情をうまく表現できないけど想いを隠しながらコミカルにそれを表現しようとする”姿に惹かれ、「僕の両親の話を脚本にしてほしい」と依頼したのだとか。

実際の『ブレス しあわせの呼吸』の劇中にも、主人公の息子としてジョナサン・カヴェンディッシュが登場します。詳しくは観て欲しいので書きませんが、彼と父親の交流と、彼らのその想いそのものが尊く、ラストには確かな感動があることでしょう。



まとめ:すべての人を勇気付けるメッセージとは?


本作『ブレス しあわせの呼吸』の魅力をまとめると、難病ものなのにユーモアと冒険満載! まさかの『ミッション・インポッシブル』的なハラハラドキドキあり! アンドリュー・ガーフィールドの顔だけの演技がすごい! 監督・脚本家・製作に関わったプロデューサー(劇中の主人公の息子)がそれぞれ適任であり、作品に込めた想いも尊い!ということになります。

そして、本作は障害を持った方に限らず、すべての人を勇気付ける、ポジティブなメッセージを提示しています。端的に言えば、それは「どんな逆境にいようとも、幸せになる道はきっとある」ということや「支えてくれる人がいれば何かを成し遂げることができる」ということ、そして「自分の幸福の価値観を、他の(同じ境遇の)誰かにも広めることができる」ということでしょう。

本作は難病ものにありがちな“お涙ちょうだい” な雰囲気が苦手、そういう展開を斜めに構えて見がちという方にこそ観て欲しいです。描かれているのは、「病気で死んだからかわいそう」な短絡的な悲劇ではなく、人が幸せに生きて行くためのヒントであり、実際に障害者の生活を劇的に良いものへと変えた尊い人間の姿なのですから。何より、前述したように過度にセンチメンタリズムに傾くこともないので、清々しい気持ちで劇場を後にできるはずです。

人間らしい生活や幸福感、生きがいなどを尺度とするQOL(クオリティ・オブ・ライフ)についても、重要な知見を得られることでしょう。医療関係者や、これから医療の仕事に就きたいと考えている若い方にも、ぜひ本作を観て欲しいです。

(文:ヒナタカ)

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