『検察側の罪人』、「10」の視点から考える魅力とは?
©2018 TOHO/JStorm
2018年に公開された映画『検察側の罪人』のBlu-ray&DVDが2019年2月20日(水)遂にBlu-ray&DVD発売となります。
木村拓哉×二宮和也というジャニーズの2大スターの共演で作り上げた鬼才原田眞人監督の独特すぎるサスペンス映画である本作。
正義とは何か。罪を償うとは何か。今の日本社会にも残る問題点は何か。そんなテーマを描いた社会派作品である本作を、今回は10の切り口から考えてみたいと思います。
<INDEX(もくじ)>
0:本作のあらすじを簡単に
1:初めて見た時の率直な感想
2:木村拓哉ファン、二宮和也ファンは楽しめるのか?
3:アンチアイドル俳優で、司法ドラマが好きな人物を楽しめるのか?
4:それぞれが持つ正義
5:本作が描く司法に関して
6:劇中に登場する「インパール作戦」とは?
7:木村拓哉を考える
8:二宮和也を考える
9:原田眞人監督を考える
10:ラストシーンに思ったこと(※ネタバレあり)
0:本作のあらすじを簡単に
まずは、本作のあらすじを簡単に説明します。
木村拓哉はベテラン検察官の最上毅、二宮和也は新人検察官の沖野啓一郎を演じています。
今作は検察と別の組織が対立する話ではなく、師弟関係に近い検察官同士の対立の話になっています。
沖野は研修生時代に一度講師としてやってきた最上に憧れを抱いており、彼のような検察官になりたいと考えていました。そして4年後に最上と同じ東京地検刑事部に配属となったことで沖野はとても喜んでいたのですが、赴任早々に蒲田で老夫婦が殺される事件が発生します。最上と沖野はその事件の担当になりますが、容疑者にリストアップされたうちの1人、松倉重生(酒匂芳)という名前を見て最上は怒りに震えます。
というのも、23年前に学生時代の最上が暮らしていた寮の管理人夫婦の娘・由季が強姦され殺された事件があり、松倉はその事件の最有力容疑者だったのです。しかし証拠不十分で松倉は不起訴になり放免。事件は時効になっていました。
由季を妹のように可愛がっていた最上はずっと松倉を恨んでおり、今回こそヤツを裁くチャンスだと様々な手を使い始めます。
彼はつながりのある裏社会のブローカー諏訪部(松重豊)に協力を要請し、松倉を別件逮捕させたり、証拠をねつ造するなど、どんどん暴走していきます。
一方の沖野も最上の事情を知り、松倉に対して激しい取り調べを敢行します。明らかなサイコパスの松倉は悪びれることもなく23年前の事件は自分がやったと告白するのですが、老夫婦殺害事件は自分とは関係ないと言い張ります。
決定的な一打がない中で老夫婦殺害事件の犯人として松倉以上に有力な容疑者弓岡(大倉孝二)が捜査線に上がってくるのですが、どうしても松倉を裁きたい最上は、とある恐ろしい計画を実行に移してしまうのです・・・!
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1:初めて見た時の率直な感想
私は原作を読んでおらず、原田眞人監督作品を見るのも初という状態で鑑賞したのですが、率直に言うとどストライクの映画でした。
早い会話に独特すぎるカット割りとダサいのか気が利いているのかギリギリのラインの強烈な癖のあるセリフ。リアルとは違う非現実的なセットを多用した画面構成に、随所に盛り込まれた本筋とも原作とも関係ない原田監督が持っている現代日本社会への問題意識が現れた政治的要素。
一瞬でも気を抜いたら付いていけなくなりそうな先の読めない映画で、好き嫌いは確実に分かれそうですが、私は終始夢中で見ていました。
普通の出来がいい映画にはない、強烈な個性に惹かれてしまったのです。
見終わってからパンフを読んだり、さまざまな方の感想を読んで、更に本作への愛は深まっていきました。
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2:木村拓哉ファン、二宮和也ファンは楽しめるのか?
好き嫌い分かれる本作を、木村拓哉ファン、二宮和也ファンは楽しめるのでしょうか。
これは、彼らの明るい側面だけが見たいとか、重いドラマが苦手という方はきついかも知れません。直接的描写は控えめですが醜悪な性犯罪に関するシーンや殺人シーンもあります。
ただいつもの木村拓哉や二宮和也とは違う一面が見たい方や、二人の演技を堪能したいと言う方にはこれ以上ない作品です。二人ともキャリア最高級の演技をしています。
特に木村拓哉のファンで今まで「キムタクって毎回同じ演技じゃん」という意見を悔しく思っていた方は本作を観て非常に嬉しく思うのではないでしょうか。初の悪役であり、カッコいい一面と情けない一面の両方を併せ持つ最上というキャラクターを見事に演じ、新境地を開いています。
二宮和也も本作の演技が評価されて2019年日本アカデミー賞の優秀助演男優賞にノミネートされています。中盤の取り調べで松倉役の酒匂芳と邦画史上屈指の演技合戦を見せているので必見です。
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3:アンチアイドル俳優で、司法ドラマが好きな人物を楽しめるのか?
まず大前提として、本作は現在の邦画界でも屈指の強烈な作家性を持つ原田眞人監督が脚本も書いて全力を注いだ意欲作です。アイドルを起用したそれありきの企画ではないということは強く言っておきたいです。人気と高いクオリティを誇る原作もあり、その世界を原田監督が作り出すためのベストのキャストとして木村拓哉と二宮和也が起用されたのです。
そして2人とも期待に全力で答え、監督の細かな演出も相まって、とても繊細かつエネルギッシュな演技をしています。
また木村拓哉は今までのイメージとは完全に違うトーンの演技を見せているので、「キムタクの演技が苦手」という方ほど逆説的に楽しめるのではないかと思います。
ただ、司法ドラマが好きという方がもしかしたら不満に思うところがあるとすれば、本作には法廷のシーンが一切ないという点です。詳しい理由は後ほど書きますが、法廷でのバチバチのやり合いが見たい方は物足りないかもしれません。
ただこの映画に法廷シーンが出てこないのは、それこそ作品のテーマに沿った理由があるからです。そこに本作の独自性と面白さがあるので、一味も二味も違う司法ドラマが見られると思って期待をしてほしいです。
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4:それぞれが持つ正義
本作は様々な正義が対立する話となっています。
由季を快楽目的で殺した絶対的な悪である松倉を何としても裁こうとする最上。裏社会の人間でありながら一つの芯を持ち最上に協力する諏訪部。
この二人は己の正義を貫こうとするあまり、倫理的には許されない一線を越えてしまいます。一つの正義を通そうと暴走するあまり、別の正義を犠牲にしてしまったのです。
最上が陥ってしまうこの矛盾について語られているのが本作の冒頭にある講演シーン。
研修生時代の沖野達に最上がこんなことを語ります。
「弁護人はアナザーストーリーを作ってくる。それを排除するのは真相を究明したい、その気持ちの強さだ。そのことを忘れ自分の正義、自分のストーリーに固執する検事は、犯罪者に堕ちる。」
昨今の検察の不祥事を例に挙げ、警鐘を鳴らす意味で語るセリフですが、これは本作で最上が犯してしまう罪を提示している非常に重要な言葉。そしてこのセリフを堂々と語る最上に憧れを抱いた研修生沖野が後にその暴走を止める存在となるのが皮肉です。
しかし、沖野も松倉に対してはとてつもない怒りを抱いていることは中盤の壮絶な取り調べシーンでしっかりと提示されます。このシーンは松倉を演じる酒匂芳の圧倒的怪演もあいまって本作の白眉とも言えるシーンです。その上であくまで冷静に検察官として原理原則を守る彼の葛藤がひしひしと伝わって来るようになっています。
そして先ほども書いたように検察官が主人公の映画にも拘わらず本作には法廷シーンが出てこないのですが、それも最上が検察官としての本分を逸脱して正義を行使しようとした結果、本来彼が行うべき法廷での仕事ができなくなるという皮肉なストーリーになっているためです。
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5:本作が描く司法に関して
日本の司法は起訴されれば99%が有罪になるという諸外国と比較しても異常な有罪率となっています。映画『それでもボクはやってない』などでも冤罪を生みやすい状態だと問題視されていました。
それは裏を返すと、確実に有罪になるような事件でなければ起訴しないということでもあります。悪質な犯罪者が証拠不十分で不起訴に終わる可能性も秘めています。もちろん今作の悪役の松倉も23年前の由紀殺害では不起訴になっていますし、大筋に直接関係ないのですが、とあるシーンで最上たちの横で女性検察官が「次期総理候補の政治家高島のブレーンが起こした性暴力事件が不起訴になった」と上司と揉めている描写があります。
これはおそらく2015年4月にジャーナリスト志望だった伊藤詩織さんが当時TBSの政治部記者の山口敬之氏に会食後、泥酔した状態で準強姦の被害にあったことを訴えるも結局山口氏が不起訴になった事件をモデルにしていると考えられます。
原作が書かれたのは2013年なのですが、原田監督ならではの昨今の時事ネタへの問題意識が盛り込まれているのも見どころです。
それから、検察庁というのは独特な組織で、他の大臣のいる官庁と異なり、検察官は個々人が検察権を単独で行使できるようになっています。
検察庁は検察官を統括する事務所のようなものに当たりますが、もちろん暴走や一体性を損なうのを防ぐために検察官同一体の原則というものがあり、検事総長がトップの指揮命令系統に服する義務があります。
しかし、その原則に反しても検察官が独自で意思決定した検察権の効力は消えません。
故に検察官は全能感を抱きやすい仕事ともいわれており、その特性は本作での最上の暴走とも関係しています。
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6:劇中に登場する「インパール作戦」とは?
劇中で沖野が「日本軍の馬鹿な作戦だ」と言及する「インパール作戦」。最上の祖父はこの作戦に参加したのち「白骨街道」という本を書いており、父が同作戦に参加した諏訪部とのつながりのきっかけになっています。
インパール作戦は、1944年3月から7月にかけて行われたビルマからイギリス軍が拠点としているインド北東部の都市インパール攻略を目指して行軍した旧日本軍の作戦のことです。目的は援蒋ルートという米ソ英が蒋介石率いる中華民国を支援するための物資の輸送路を断つことでした。敵の物資を断てば戦争に有利になるのは当然で有効な作戦ですが、問題点としては当時すでに敗色濃厚の日本軍には、この作戦に参加する9万人の兵士に対する物資とその補給路が用意できなかったのです。
もちろん作戦決行前から陸軍にはこの作戦を遂行する余力はないと知っていた現場の指揮官たちは反対の声を上げていたのですが、トップで指揮を執っていた中将牟田口廉也は、大本営の顔色を窺い作戦を強行してしまいました。
兵士たちは行程ギリギリの3週間分の食料しか持たされず、当時雨季でぬかるみだらけのインドの山地を470キロ行軍させられることになり、劣悪な環境に置かれて9万人中1万人が飢えやマラリアで死亡。ウシや山羊に荷物を運ばせ、いざとなったらその肉を食べる“ジンギスカン作戦”というギャグのような計画もあったのですが、結局家畜たちは道中の川で流されて死亡してしまいました。
五月末には第31師団の佐藤幸徳師団長が独断で撤退行為を行うほどに戦線は悲惨を極めます。ちなみにこの撤退は師団長という要職の人間が上層部に逆らった日本陸軍史上初の抗命事件として記録されています、
そして牟田口中将は作戦が大失敗している事実に目を瞑り続け、ようやく7月に作戦中止を発令。
しかし、地獄はここからでした。イギリス軍の追撃を受けながら飢えや熱病に犯され満身創痍状態で撤退していた日本軍は往路よりも多い2万人以上が死亡してしまいます。
苦しみのあまり自害する者もおり、死んだ仲間の肉を食べて生き延びた者もいました。
文字通り死屍累々の“白骨街道”でした。
これが旧日本軍最悪の作戦といわれるインパール作戦の行程です。
司令官の牟田口はこの作戦後東京に戻されそのまま陸軍予科士官学校長となって終戦を迎え、インパール作戦での惨劇の責任を取ることもなく66年に77歳で死亡。
後年は作戦の失敗を部下の無能のせいといって自己弁護をし、生き残った兵士たちへの謝罪もなかったと言います。
作戦中には「武器がなくても日本男子には大和魂がある」「日本人は元来草食動物なのだから、周囲を青々とした山々に囲まれながら食料に困るなどありえないことだ」などの発言をしたという記述もあります。
この作戦の話は原作には一切なく脚本を書いた原田監督が足した要素です。
上層部の腐敗が末端の人間を殺す日本型組織の問題点の最たるものとして、今の日本にも残る問題の象徴として扱われています。
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7:木村拓哉を考える
彼のことを好きな方も嫌いな方も「キムタクって何の役やってもキムタクだよね」という意見を言いますが、それは木村拓哉の演技力が低いと言うより彼という人間の個性があまりに強烈すぎて消すことができないからではないでしょうか。
逆に何の役をやっても彼その者、彼以外には出せない存在感を放っていると言うことになります。それ故に、木村拓哉は唯一無二のスターなのです。刑事をやっても美容師をやってもパイロットやホッケー選手、はたまた総理大臣や宇宙戦艦ヤマトの乗組員になってもキムタクはキムタクで変わらない。常に自己流を貫き通すんだという安心感を与えてくれる存在でもあり、観客は常に同じ人間として居続ける木村拓哉を求めているとも言えます。
しかし今作では声の出し方や話し方、表情などいつものキムタク感がとても薄まった演技をしており、新たな一面を見せてくれます。そして最上が後半の凶行をうろたえながら情けなく遂行していく様を見て一部のファンは「こんなキムタク見たくない」と思ってしまうかもしれません。今まで木村拓哉が対峙してきたような相手を恫喝し虚勢を張る人間を彼自身が演じているというのも新鮮です。キャリア史上最もダーティな役であり、新境地を切り開いたとも言えますが、このキャスティングは単に木村拓哉の新たな一面を引き出すという目的以上のものがあると思います。
木村拓哉で検察官役といえば言わずと知れた大人気シリーズ「HERO」の主人公・久利生公平の存在があります。この役は木村拓哉らしさが全開の型破り検事。そんな久利生がどんな事件にもしっかりと捜査権を行使し闇に葬られそうな事件を次々解決していく痛快ストーリーとして人気を博しドラマ2クール、特別編と劇場版が2本作られるほどの国民的人気シリーズとなりました。
圧倒的正義で絶対にブレない検事を15年近く演じてきた木村拓哉が自己流の正義に固執し暴走していく検事最上を演じることで観客の不安感は増し、検察の問題点や正義とは何かを問う物語としても厚みが出る結果となっています。
本作は間違いなく木村拓哉出演映画の中では最高傑作と言えるでしょう。
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8:二宮和也を考える
二宮和也は、国民的人気グループ嵐の中で飄々としたスタイルを貫き、木村拓哉とはまた別の形で独自の存在感を放つスターです。
普段のバラエティなどでも先輩芸能人に対して物怖じないさまが見え、相手が誰でもブレない彼は憧れの存在の最上相手でもおかしいと思えばしっかりと立ち向かう沖野役にピッタリです。
また沖野が新人ながら松倉の取り調べでの鬼気迫る恫喝や心理的駆け引きといったテクニックを見せる人物でもある点は、童顔でいつまでも若く見えるものの実は芸歴20年を超え役者としても経験豊富な実力者・二宮和也と重なります。まさにハマり役です。
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9:原田眞人監督を考える
原田眞人監督は、元々「キネマ旬報」などに寄稿をしていた映画評論家であり大変なシネフィルです。
シネフィルらしく、映画オマージュもふんだんに盛り込む一方、それ以外の政治や歴史の知識も深く持ち合わせた博覧強記のインテリでもある彼は、自身が持っている知見や問題意識を映画に取り込むタイプの作家です。本作『検察側の罪人』にも政治的主張や戦前回帰思想への警鐘など本筋以外の問題提起が多々見受けられます。
またロンドンでの留学経験やロサンゼルスでの6年間の映画監督修行を積むなど海外経験も多く、日本社会を一歩引いた目線で見る映画が多いのも特徴です。
役者には比較的自由に芝居をさせますが、セリフを間違えた時などに役者が勝手にカットを止めるととても怒ると言われています。まずは撮ったうえで、彼の判断で良いカット悪いカットを取捨選択して作り上げていく作風で、明確なビジョンを持った作家ともいえます。
様々なジャンルの映画を撮っていますがここ数年は日本の時代のターニングポイントとなる時代や出来事を扱った作品が多くなっています。
『駆け込み女と駆け出し男』は幕末の縁切寺を舞台にフェミニズム視点で女性の自立を描き、岡本喜八の名作『日本のいちばん長い日』の再映画化で1945年の8月14日、玉音放送の公開を巡って起きたクーデター“宮城事件”を描き、
『関ヶ原』では後の日本の行く末を決める天下分け目の関ヶ原の戦いを描くなど時代は行ったり来たりしながらも一貫して時代の変革をテーマにしています。
本作『検察側の罪人』は、原田監督にとって久々の現代劇となりましたが、それでも劇中で扱われる問題は今までの日本社会の延長線上にあるという目線で描かれており、長年原田監督が扱ってきたテーマとも通じるものがあります。
ただし、そのような政治的かつ真面目な内容を扱っているにも関わらず、彼の映画は演出やカメラワークなどは非常に外連味にあふれ、会話のテンポも早く、また実の息子・原田遊人が担当している編集も独特で、とても癖のある作品が多いです。
この癖がたまらなく好きという人もいれば、苦手な人もいて、毎回賛否両論を呼ぶ監督ではあります。
ただし、今回の『検察側の罪人』のように正義と正義が対立し、様々な問題提起を含んだ作品なら原田監督のように賛否分かれる作家性の強い人が撮るのが正解だったと思います。
※10は結末に触れておりますのでご注意ください。
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10:ラストシーンに思ったこと(※ネタバレあり)
原作では検事として人として道を誤った最上が逮捕され、彼の罪を暴いた沖野がこれでよかったのかと苦悩して終わります。一方映画版では沖野は最上の罪を暴ききれず、彼は逮捕されません。
最上は沖野に大物議員高島の不正を暴く協力を求めますが、彼はそれを断り、かつて目指した存在である最上と完全に決別します。
ラストカットでは言葉にならない思いを吐き出すように沖野が大声で叫びます。二宮和也の名演も相まって忘れがたいラストです。
最上を糾弾したいが、そのために彼と同じく法を超えた行動を取るわけにはいかない、そんなジレンマも伝わってきました。
とにかく非常にモヤモヤする終わり方です。もちろんこれは意図的なもので、原田監督は「最上を劇中で断罪しないことで、倫理的な問いを受け手である観客の皆さんに委ねた」とインタビューで答えています。
このラストのおかげで良くも悪くもとても忘れがたい映画になっているのは確かです。
劇中の登場人物たちと同じように能動的に頭を働かせ、「これでいいのか?これが正義なのか?」と考え続けたくなる必見の一作です。
『検察側の罪人』Blu-ray&DVD 2019年2月20日(水)発売
【豪華版】Blu-ray ¥7,800 +税/DVD ¥6,800 +税
【通常版】DVD ¥3,800 +税
発売元:ジェイ・ストーム 販売元:東宝
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※Blu-ray&DVD同時レンタル開始
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おまけ:各登場人物の解説
最上毅 (木村拓哉)
東京地検のエリート。学生時代のトラウマとなっている事件の真相を未だに追っており、最重要容疑者の松倉を何としても裁こうとしている。また丹野と一緒に与党政治家高島の不正を暴く計画も立てていた。祖父がインパール作戦に参加しており、そのつながりで裏社会の人間諏訪部とも通じている。
沖野啓一郎 (二宮和也)
最上に憧れる若手検察官。冷静沈着ながら正義感は強く、時折激情を見せる。
蒲田老夫婦殺害事件の捜査に関り最上のやり方に疑問を抱き始める。
橘沙穂 (吉高由里子)
沖野と同じタイミングで東京地検に赴任した検察事務官。あけすけに物事を言って本質を突いてくる存在。実は検察内部の暴露本を書くために潜入しているジャーナリスト。
諏訪部利成(松重豊)
裏社会に精通したブローカー。なんでも用意し工作する凄腕。父がインパール作戦に参加しており、同じく祖父が参加していた最上に協力する。
丹野和樹 (平岳大)
最上の同期の元検察官。政界に進出し、与党の大物議員高島の娘と結婚するも、不正献金の疑惑で矢面に立たされている。
弓岡嗣郎 (大倉孝二)
蒲田の老夫婦殺害事件の有力容疑者。おしゃべりで自身に不利になってしまうようなことも迂闊に話してしまう男。
小田島誠司 (八嶋智人)
奇妙な吹きっさらしの場所に事務所を構える弁護士。国選弁護人として松倉の弁護を依頼される。
千鳥 (音尾琢真)
殺害された老夫婦の息子でヤクザをしている。犯人がなかなか捕まらないため組員を使って強引な手段に打って出る。
前川直之 (大場泰正)
最上・丹野の法学部同期で学生寮も同じだった街の弁護士、いわゆるマチ弁。
青戸公成(谷田歩)
警視庁捜査一課の刑事。最上、沖野と老夫婦殺害事件の操作を担当する。
松倉重生(酒向芳)
60過ぎてペットショップでアルバイトをする冴えない男。23年前の久住由紀殺害事件の最有力容疑者であったが現在は時効で守られている。人を挑発する態度を好み、自分のやったことに罪悪感も見せない異常者。
高島進(矢島健一)
衆議院議員で多大な権力を持つ代議士。娘婿の丹野に収賄事件の責任を被せる卑劣な男。
桜子(キムラ緑子)
最上や同期たちがよく使う割烹の女将。裏話をよく聞いている。
運び屋の女(芦名星)
諏訪部の下で働いており工作や諜報も行う存在。外国籍であること以外すべて謎の美女。
最上奈々子(山崎紘菜)
最上の再婚相手の連れ子。大学生で義父の最上とは距離を置いている。
久住由季(長田侑子)
最上たちが学生時代に住んでいた寮の管理人の娘。みんなが妹のように可愛がっていた天真爛漫な中学生。近所の河原で強姦され殺された。
白川雄馬(山崎努)
人権派として知られる大物弁護士。小田島の要請を受けて松倉の弁護をバックアップする。
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(文:シライシ)
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