『死ぬまでにしたい10のこと』って、あなたにはありますか?
(C)2002 El Deseo D.A.S.L.U.& Milestone Productions Inc.
イギリスの文学賞ブッカー賞を受賞したペネロピ・フィッツジェラルドの小説を原作に、20世紀半ばのイギリスのある海辺の保守的な町で、差別や偏見にめげず書店を開業する未亡人の姿を描く『マイ・ブックショップ』が3月9日より公開されます。
2018年ゴヤ賞作品&監督&脚色賞を受賞した話題作。
そこで今回は監督のイザベル・コイシェの出世作の一つ『死ぬまでにしたい10のこと』に注目してみましょう!
余命2カ月の宣告を受けた
23歳のヒロインの採った道
『死ぬまでにしたい10のこと』の舞台はカナダ、バンクーバー。失業中の夫とふたりの幼い娘と暮らすアン(サラ・ポーリー)は、ある日腹痛で病院に運ばれ、そこでの検査の結果ガンであることが発覚しました。
23歳にして余命2カ月の宣告……。
しかしアンはその事実を誰にも告げることなく、ただの貧血と偽ります。
そしてひそかに今までの人生を振り返りながら、「死ぬまでにしたい10のリスト」を作り、それをひとつずつ実行に移していきます。
そのさなか、彼女はリー(マーク・ラファロ)という青年と恋に落ち、夫には新しい隣人で自分と同じ名前のアンが次のパートナーになるのを願うようになります。
そして10年も刑務所にいる父(アルフレッド・モリーナ)と面会し……。
本作はスペイン映画界の名匠ペドロ・アルモドバルが製作総指揮(共同)にあたったもので、彼独自のこってりした展開があるかと思いきや、意外にあっさりした味わいの小品佳作といえるかもしれません。
邦題のわかりやすさもさながら“MY LIFE WITHOUT ME”(私のいない人生)という原題に、作品そのもののテーマを感じることができます。
家族に何も告げずに逝くことが果たして正しいことなのか? 死を目前にしての不倫は許されるのか? など、見る人によって賛否が分かれるかもしれないヒロインの最期の数か月の言動ではありますが、演じるサラ・ポーリーによる淡々とした中でのさりげない等身大の演技と存在感は、否定派の頑なな心をも和らげてくれるような気もします。
何よりもイザベル・コイシェ監督のキャメラ・アイは、誰も悪く描かず、誰にでも等しく愛情を注ぎながら、死が誰にでも訪れる日常的なことであるのを巧みに示唆しているあたりが秀逸で、いつしか性別を問わず誰しも自分がこのヒロインと同じ立場に立たされたら? と自問自答すること必至でしょう。
イザベル・コイシェ監督の
ユニークなキャリア
ここでイザベル・コイシェ監督のキャリアをふりかえってみましょう。
1962年4月9日、スペインのバルセロナ生まれの彼女は、初聖体の記念に8ミリキャメラを贈られたことをきっかけに映像に目覚め、バルセロナ大学卒業後はCMやPV演出を手掛けるようになり、88年に映画監督デビュー。
96年には初の英語作品でリリ・テイラー&アンドリュー・マッカーシーを起用した『あなたに言えなかったこと』を発表し、2000年には自身の制作会社ミス・ワサビ・フィルムズを立ち上げています(でも、なぜワサビ?)
そして2003年に監督した本作で国際的名声を獲得し、2005年には同じサラ・ポーリー主演で『あなたになら言える秘密のこと』を発表し、ゴヤ賞の作品&監督&脚本&プロダクション賞を受賞。
その後も18人の映画監督の中に加わってのオムニバス映画『パリ、ジュテーム』(05)や国境なき医師団を題材にしたドキュメンタリー“INVISIBLES”(07)、日本とバルセロナで撮影され菊地凛子や田中泯が出演した『ナイト・トーキョー・デイ』(09)、同じく菊地凛子がジュリエット・ビノシュ、ガブリエル・バーンらと共演した『しあわせへのまわり道』(14)など順調にキャリアを重ねて現在に至ります。
新作『マイ・ブックショップ』も『死ぬまでにしたい10のこと』も、他の作品群も一貫して従来のスペイン映画の伝統から逸脱しながら、女性たちの機微を繊細に謳いあげ、見る人それぞれに想いを共有させていくことで共通しているようにも思えます。
この機会にぜひ双方の作品をご覧になってみてください。
(文:増當竜也)
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