『麻雀放浪記2020』が超エンタメ作品となった「3つ」の理由とは?
(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会
連日のマスコミ報道を受けて、一時はその公開が危ぶまれた話題の新作映画『麻雀放浪記2020』が、無事に4月5日より全国で劇場公開された。
実は劇場公開前に一切マスコミ試写を行わない方針だったため、その全貌が明らかにされないまま劇場公開を迎えた本作。
果たしてどんな内容になっているのか? 個人的にも非常に興味があっただけに、さっそく公開二日目の夜の回で鑑賞してきたのだが、その気になる内容とは、一体どんなものだったのか?
ストーリー
東京オリンピックが中止となった2020年の東京。
大幅な人口減少による労働力不足を補うため、AIに労働が取って代わられてしまった結果、街には失業者と老人があふれていた。
そんな近未来の東京に、1945年の終戦後復興期の時代から伝説の麻雀打ち"坊や哲"(斎藤工)が、タイムスリップにより出現する。
自分がいた時代から75年後の世界に驚愕しながらも、"坊や哲"は得意の麻雀の腕で立ちはだかる強敵たちと死闘を繰り広げていくのだが…。
予告編
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理由1:自由な発想と手法が、超エンタメ作品を生んだ!
阿佐田哲也の同名小説を1984年に映画化した『麻雀放浪記』。その名作映画の舞台を、何と2020年の現代に移してリメイクするという、自由過ぎる発想で製作された本作。
しかも撮影には、全編iPhone8を使うという思い切った手法が取られるなど、正に映画の常識を打ち破るその製作姿勢のおかげで、見事に超エンタメ作品として生まれ変わっているのは見事!
例えば、回転寿司の皿の上にカメラを載せて撮影したり、移動撮影でのフットワークの良さなど、今までの映画撮影の常識や枠を超えた映像が次々とスクリーンに登場するので、観客の興味が最後まで持続することになるのだ。
(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会
ただ、一つだけ残念だったのが、画面のライティングや質感が各シーンによって違っている点。
あるシーンでは、やけに暗くてザラついた質感の画面になったり、別のシーンでは逆に明る過ぎて白っぽく見えたりが繰り返されることになるので、確かにその辺が気になる方には、いまいち作品世界に集中できないかもしれない。
とはいえ、通常の撮影機材では出来なかった動きや撮影方法が取れる上に、より多くの台数のカメラで撮影できるという利点は、今後の映画製作においても大きな可能性を秘めていると言える。
もちろん、前述したライティングや画質の問題など、まだまだ改良の余地はありそうだが、まずは本作の自由な発想による新たな挑戦の結果を、是非劇場でご確認頂ければと思う。
理由2:主役も凄いが、出演キャスト陣の存在感が更に凄い!
主演の斎藤工が企画段階から実に10年をかけて製作に臨んだ作品だけに、自らふんどし姿を披露するなど、その力の入れ方も半端ではない本作。他にも主要キャストが1945年と2020年の登場人物の二役を演じたり、竹中直人が強烈なキャラクターを怪演するなど、出演キャスト陣の競演も本作の大きな見せ場となっている。
(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会
中でも注目なのが、出演ミュージシャンたちが見せる素晴らしい演技の数々!
ヒロインのドテ子を演じた、姉妹デュオ"チャラン・ポ・ランタン"のももが見せる体を張った演技を始め、ドテ子の熱狂的なファンをリアルに演じた岡崎体育など、プロの役者陣を超える抜群の存在感は必見です!
理由3:エンタメ作品に見えて、実は現代への警鐘も込められていた!
終戦後の混乱期から現代にタイムスリップした、主人公の"坊や哲"。ところが、彼が出現した2020年の東京も実は終戦後の時代だったことが明らかになる!
戦争のおかげで予定されていた東京オリンピックが中止となり、代わりに“麻雀オリンピック”が開催されるという、正に観客の想像を超えた展開が用意されている本作だが、実はその裏には現代社会への問題提起や継承がちゃんと隠されているのが見事!
例えば、テレビ番組で披露した"坊や哲"のふんどし姿が大流行して、大人から子供まで下半身だけふんどし姿の人々が街中に溢れたり、ネット上の麻雀ゲームでなく強い人間同士で麻雀がやりたい! と叫ぶ"坊や哲"の姿や、イヤでも先日の事件を思い出させる様な、事件報道に対するマスコミや視聴者の意識の低さまで、思わず笑ってしまうこれらの描写に含まれた鋭い問題提起こそ、本作の大きな魅力と言えるだろう。
(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会
実際、1945年からやって来た"坊や哲"の眼を通して描かれる、これら近未来の日本の姿は、麻雀が国民的人気競技となっている点以外は、確かに一歩間違えたらこうなっていたかも? と思わせる部分が多かったりする。
現代にタイムスリップした"坊や哲"の姿が、2020年の人々の意識や常識をどう変えていくのか? その結末は是非劇場で!
最後に
戦争により、東京オリンピックが中止となってしまった2020年の東京を舞台に、戦後の混乱期からタイムスリップした主人公の眼を通して、現代の日本の姿に疑問を投げかける内容の本作。
気になるピエール瀧の出演場面だが、実はそれほど多くないため、その部分のカットや撮り直しでも充分に対応出来たと思われる。だが、実は今回の事件のおかげで逆に本編中の"あるシーン"が、より"メタ構造"として楽しめる様になってしまったのは予想外! いや、むしろ作品に対してプラスに働いたのでは? そう思わずにはいられない展開が待っているので、ここは是非お見逃しなく!
(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会
実は本作を観ていて頭に浮かんできたのが、チャウ・シンチー監督、主演による一連の香港コメディ映画だった。
特に本作のストーリーや設定、それに竹中直人扮する"おっちゃん"的キャラクターからは、チャウ・シンチーが過去にタイムスリップする伝説のギャンブラーを演じた『ゴッドギャンブラーIII』を、思い出さずにはいられなかった。
タイムスリップする先が現代と過去という違いはあるが、『麻雀放浪記2020』とかなり共通する部分が多いので、興味を持たれた方は是非『ゴッドギャンブラーIII』と見比べて頂ければと思う。
1984年版『麻雀放浪記』へのオマージュとリスペクトを捧げつつも、現代にこの作品を甦らせる上で相当思い切ったアレンジを加えた本作への風当たりは、やはりかなり厳しいものがあるようだ。
確かにトンでもない展開が待っているのだが、同時に、何故今この作品を世に出さなければならなかったか? その理由も感じ取れる内容に仕上がっている、この『麻雀放浪記2020』。もしも興味があって、劇場での鑑賞を迷っているのであれば、是非一度劇場で鑑賞されることをオススメします!
(文:滝口アキラ)
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