「響けユーフォニアム」シリーズ、「3つ」の魅力!

平成が終わり、令和の時代が幕を開けた。平成のアニメ業界を思い返すと様々なことがあったが、特に後半は『涼宮ハルヒの憂鬱』や『けいおん!』などの京都アニメーションの作品が一世を風靡し、新しい風を吹き込んだ印象が強い方もいるのではないか?


90年代以降はデジタル化によりアニメの製作方法が年々進化して行く時期と重なり、京都アニメーションの作品は美しい映像や、ライブシーンなどで実際に弾いているように見える細かい動き、可愛らしいキャラクターたちの所作や躍動感などが大きな話題となり、アニメ好きを中心に大きな注目を集めている。



(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会



京都アニメーションが近年力を入れている『響け!ユーフォニアム』シリーズの最新作である『劇場版響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』が2019年4月に公開された。今回は過去作も通して振り返ることでユーフォニアムシリーズの挑戦や魅力について、キャラクター、音楽、撮影の観点から考えていきたい。
 

Q 響け!ユーフォニアムってどんな作品なの?


まずはユーフォニアムシリーズを知らない人のために簡単に説明をしていきたい。本作は京都府宇治市出身であり、吹奏楽部員として楽器を演奏していた経験をもつ武田彩乃の小説が原作となっている。

【TVアニメ化】響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ (宝島社文庫)



物語は京都の北宇治高校吹奏楽部に所属する主人公の黄前久美子が中学時代からの知り合いであり、部内でも突出した実力を持つ高坂麗奈などの同級生や先輩たちと共に、全国大会出場や金賞を目指して日々奮闘する作品である。実際に京都に存在する風景を元にキャラクターたちが動き回るシーンもあり、リアルで精緻に描かれた物語の舞台を楽しむために、多くのファンが聖地巡礼として京都を訪れ観光する様子も話題を呼んでいる。

演奏シーンの高いクオリティやキャラクターの可愛らしさ、そしてリアルな吹奏楽部内で捲き起こる人間ドラマが多くの視聴者の心をつかみ、現在でも続く人気シリーズとなっている。
 
テレビアニメとしては2015年の4月に京都アニメーションにて多くの作品を手がけてきた石原立也が監督をつとめ、シリーズ構成花田十輝、キャラクターデザイン池田晶子、音楽松田彬人、チーフ演出山田尚子というスタッフを揃えて第1期が放送され話題となり、2016年10月には第2期が放送された。

Q劇場版のユーフォニアムシリーズってどんな作品なの?


劇場版アニメ作品としては総集編作品として第1期の物語をまとめた『劇場版響け!ユーフォニアム〜北宇治高校吹奏楽部へようこそ〜』が2016年4月に公開、第2期の特に後半を中心にまとめた『劇場版響け!ユーフォニアム〜届けたいメロディ〜』が2017年の9月に公開された。

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上記の2作品はテレビシリーズの総集編として公開されているが、特に『届けたいメロディ』は主に後半をまとめることによって、総集編の映画にありがちなテンポが速すぎて物語が走っている印象などを与えることなく、1作の映画としても高い完成度をほこる作品となっている。

2018年4月には『リズと青い鳥』が公開された。

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高校生の頃というのは思春期ゆえに複雑な友人関係に悩むことが多く、記憶にある方もいるのではないだろうか。テレビシリーズ2期の前半にて、部内のいざこざから気持ちがすれ違ってしまうなどのドラマが印象的だった鎧塚みぞれと傘木希美の2人を中心としたストーリーとなっている。こちらは本来主人公である2年生に進級した久美子たちが登場するシーンが少ないことも、他のユーフォニアムシリーズの劇場作品とは大きな違いとなっている。スピンオフ作品ではあるものの、アニメファンを中心に高く評価され大きな話題を呼んだ。

そして今回上映された『誓いのフィナーレ』は久美子たちが2年生に進級し、新1年生も入り先輩となった彼女たちの奮闘と吹奏楽にかける情熱を描いた物語だ。『リズと青い鳥』と『誓いのフィナーレ』はテレビシリーズではなく、アニメとしては新作の作品となっている。

できれば『誓いのフィナーレ』を最大限楽しむために、少なくとも劇場版のユーフォニアムシリーズの3作を見て欲しいというファンとしての思いもあるものの『誓いのフィナーレ』だけを見ても物語として理解できるように構成されているので、興味があればぜひ劇場へ足を運んで欲しい。

魅力1:キャラクターの可愛らしさとデザインの工夫


まずはユーフォニアムシリーズの魅力である、キャラクターの特徴について考えていきたい。本作は吹奏楽部内の人間ドラマを中心とした物語であるが、部員は非常に多い。吹奏楽部としてコンクールで演奏するためには様々な楽器のパートや登場人物が必要になってくる。

本作で中心となるのは黄前久美子、高坂麗奈、加藤葉月、川島緑輝の同学年女子4人である。他にも2年生、3年生、久美子たちが進級した後の新1年生もおり、どのシリーズでも大体10人ほどのキャラクターがメインキャラクターとして人間ドラマを盛り上げている。さらに久美子たちを支えるメンバーとして低音パートの面々や、幼馴染である塚本秀一、顧問の滝昇なども登場する。

これだけでも少々登場人物が多いように思われるかもしれないが、さらにその他にも各パートを演奏する吹奏楽部員であったり、またコンクールには人数や実力の関係で出場できないメンバーもいる。それを考えると、吹奏楽部員だけでも覚えきれないほど多くのキャラクターが登場することになる。
多くの作品ではメインのキャラクター以外は大体似たような風貌にし、いわゆるモブキャラクターとして個性を感じさせないようにするのが一般的だ。しかし、京都アニメーションはそのような没個性的にはしていない。各キャラクターに名前をつけるだけではなく個性を感じさせるようにデザインしている。

例えば現実の女子高生の着こなしを考えて欲しい。学校ごとに制服があり、着ている服装は全員ほぼ同じであるものの、髪の色やヘアスタイル、カーディガンの有無、小物、スカートの長さ、靴下など多くのポイントを変えることにより個性を演出している。一般的に極端にスカートが長い子であれば大人しそうな印象を受け、短ければ活発な印象を受けるだろう。また、男子高校生であればそこまで大きな制服のいじり方の差はないものの、髪型やメガネの有無などであったり、あるいは制服のボタンをどこまで開けるかといった部分などで個性を感じさせるデザインとなっている。

活躍が少なくても1人1人にそれぞれ違う個性があると、作品を見ていくうちに印象に残るキャラクターも生まれていく。例を挙げるとパーカッションパートに井上順菜というキャラクターがいるのだが、演奏の際にシンバルを叩くシーンが躍動感を与え、視聴者の印象に強く残り“シンバルちゃん”の愛称がついた。決して作中では出番の多い役ではなく、本来ならばモブキャラクターの1人となりそうな立ち位置であるが、多くの視聴者に認知されるということはそれだけの魅力あるデザインや細やかな描き方があってのものだろう。



魅力2:音楽作品としての圧巻のクオリティ


近年、アニメ業界では音楽映画のクオリティが高まる一方である。男女を問わず何人ものアイドルが登場し歌って踊りアニメファンを魅了する作品もあれば、バンドとして音楽を奏でその映像と楽曲のクオリチィの高さで魅了する作品が生まれている。
これはデジタル化やCG技術の発展により、音と映像を合わせることが昔よりも容易になったことも影響している。
特に京都アニメーションは『涼宮ハルヒの憂鬱』内にてライブシーンを放送しており『God Knows……』が披露されたシーンは、圧倒的なクオリチィの高さと楽曲の良さに多くのファンに衝撃を与えた。

ユーフォニアムシリーズは吹奏楽部を舞台とした物語であるために、当然のことながら演奏するのは吹奏楽であるが、これはアニメとしては難しいことが多いと考えられる。なぜならばアイドルやバンドシーンであれば、映像としても派手なパフォーマンスができるために、外連味に満ちた演出が可能となる。しかし本作はリアリティを重視していることもあり、動き回ったりダンスをするという外連味に満ちた演出はできない。
さらに先ほどから何度もあげているが演奏する人物だけでも膨大な人数となり、それぞれが扱う楽器も違えば演奏方法も異なるために、リアルに作り込もうと思えば思うほどに手間がかかる。
大雑把に言ってしまえば“地味なのに人数も精緻な描写も多くて大変”なのだ。

だが、今シリーズはそこで妥協をするようなことは一切なかった。京都アニメーションはもともと楽器を本当に弾いているように見せる作画や演奏シーンにこだわりを持っているが、その味が見事に発揮されている。また松田彬人の音楽も劇場で鑑賞すると映画館のこだわり抜いた音響とマッチし、目と耳で楽しめる作品となっている。
吹奏楽というとクラシック音楽のようなちょっと固い音楽という印象もあるかもしれないが、本作ではポップスなどの馴染みのある音楽を吹奏楽部員で演奏することにより、多くの人にとっつきやすく楽しめる音楽をとなっている。

そして魅力1で語ったキャラクターの個性たちがここで最大限に生きてくる。

物語としてはコンクールに出場するために努力を重ねた各キャラクターたちの奮闘が全員分、事細かに描かれているわけではない。しかしその丁寧なキャラクターデザインや、作中のドラマ、ちょっとしたワンシーンの細かな動きや小道具の使い方によって、彼女たちが単なるモブではなくコンクールに至るまでに青春をかけて努力を重ねてきたことを感じさせる。

『誓いのフィナーレ』ではコンクールの演奏シーンにて下手な説明台詞や観客の盛り上がる様子などはほぼなく、演奏の様子だけを見せてくる。それだけ作り込まれた映像と音楽、そして物語があれば派手な演出がなくても鑑賞に耐え、一瞬たりとも飽きることがない。

吹奏楽で長い時間、会話シーンや回想シーンもなく演奏シーンだけを見せて多くのキャラクターのそれまでの努力を感じさせ、エモーショナルな感動を与える。これができている映画がアニメのみならず実写を含めてもどれだけあるだろうか?

その意味においても、今シリーズの挑戦と成し遂げたことの偉大さについておわかりいただけるだろう。



魅力3:リアルに見せるための様々な演出や撮影技法


石原監督やチーフ演出であり、リズと青い鳥の監督も務めた山田尚子のインタビューを拝見すると“カメラに対する思いや演出技法”について語っているものが多い。アニメでは映像の魅力=作画と思われるアニメファンも多いだろうし、実力のあるアニメーターが描き出した時に細やかに、時にダイナミックな動きの1つ1つが大きな注目を集めたり、快感を呼ぶ。しかし近年はデジタル化以降、撮影の仕事が重要視されつつあり、京都アニメーションでは髙尾一也撮影監督などが注目を集めている。

ユーフォニアムシリーズでもその撮影の工夫は生かされている。例えば第1期1話の冒頭の桜の舞い散る中に久美子がいるシーンでは、オールドレンズ効果が使われている。画面の端などにわずかな色の分離が見られたり、あるいは画面全体が若干淡く見えるように調整されている。これはカメラのレンズを意識した撮影の演出であり、レンズの存在をアピールすることによってリアルで実在感を強くすることを狙いとしている。
 
また“被写界深度を浅くしている”と石原監督は語っているが、これはキャラクターなど画面の一部に焦点が当たることによって背景などがボケてしまう現象を指している。被写界深度を浅くすることでキャラクターたちが思春期の青春の日々中で見えている範囲が狭いことなどを表現し、リアルな印象を与えるのではないか、という意図のもとに行っている。これらの工夫は決して観客の目に付きやすいものではないかもしれないが、無意識下において効果を発揮しており、また映像面で手間がかかっていることを伝える役割を果たしていると言えるだろう。

他にも楽器であったり、久美子と麗奈の大吉山での演奏シーンなどは背景がとても美しく光り輝いているなどの彼女たちの美しい思い出や視線を追体験できるものとなっている。



(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会



久美子たちの青春を描ききった作品に


本作は一見すると萌えキャラクターたちが目につき、普段アニメを見慣れない方には少しばかりとっつきにくい印象を与えるかもしれない。しかし、そこで描かれているのは青春時代の葛藤であったり、上手くなりたいという思いである。また年功序列と実力主義のどちらを選択するのかという悩みなども描かれており、多くの青春映画を愛する人々に届きやすい作品となっている。

青春映画は映っている少年少女が奮闘する様など”青春を切り取る/感じさせる”ことが大事だと考える。本作の黄前久美子などはアニメのキャラクターであり現実は存在しないが、その青春は紛れもない本物であると鑑賞してもらえばわかる作品となっており『誓いのフィナーレ』は2019年を代表する青春映画となっている。

参考書籍:アニメスタイル007号

(文:井中カエル)

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