ゴールデンウィークに見る映画がない人のための7本
平成から令和に移り、新たな時代の幕が上がりながらの10連休、みなさまいかがお過ごしでしょうか?
きっと充実したリフレッシュな日々を満喫されている……人ってどのくらいいるのでしょうね?
現実には10日も休みがあると、何をやったらいいのかわからず、いざ外に出ると交通渋滞だったり、街は人であふれかえり、お金は減っていき……(おまけにGW前半の東京はコタツをつけたくなるほど微妙に寒かった!)。
まあ、今こんなことを書いているこちらも10連休なんて夢のまた夢なわけでして、待っているのは締切りのみで外にも出られず……。
そんな中、「今どんな映画やってる?」といった友人からのメールだけはやたらと入ってきて、「普通に『アべンジャーズ』の新作でも見に行けばいいんじゃね?」などと返すと、「GWの映画館は混んでるから、家で何か見たい」ですと……アラアラアラ。
まあ、でも映画マニアの中にもGWが終わってからゆっくりとヒット作を、それまでは「おうちでシネマ」といった人が多いのも事実。
ならばこの時期に見るのにふさわしい映画(……って一体どんな定義だ?)をいくつか集めてみました。
●『将軍家光の乱心 激突』(89)
病気で錯乱している徳川三代将軍・家光(京本政樹)が、自分になつかない長男の竹千代を亡き者にすべく、元服式のために江戸城への出仕を命じます。
竹千代は石川刑部(緒形拳)らツワモノ浪人衆に守られながら、伊庭庄左エ門(千葉真一)率いる幕府の刺客らの襲撃をかわしつつ、江戸をめざすのですが……。
平成元年は1989年1月8日に始まり、2019年4月30日をもって平成31年が終わり、翌5月1日から令和元年が始まりました。
そしてこの映画は、平成の世に入って最初に公開(1989年1月14日)された時代劇映画です。
実は私自身がこの映画を初日に見に行きながら、ふと始まって間もない平成に「乱心と激突の時代になるのかなあ?」などと、未来の不安を漠然とよぎらせたりしたもので、そのことをよく覚えているのです……。
映画そのものはアクション監督も兼ねた千葉真一による壮絶なアクション・シーンの数々が痛快で、しかもその中から疑似的な父子関係が芽生えていく降旗康男監督の演出の妙。佐藤勝・音楽とアルフィーの主題歌の融合も興味深いものがありました。
実は平成31年から令和元年にかけての2019年は時代劇映画イヤーで、4月は『多十郎殉愛記』が公開されたバリで、5月も『居眠り磐音』『武蔵』がお目見えとなります。
平成の世は幾度も時代劇復興が待望されつつ、なかなか実ることはありませんでしたが、ここに至りようやくの感もあります。
●『12モンキーズ』(95)
1996年に発生した謎のウィルスによって人類の99パーセントが死滅しました。そして2035年、かろうじて生き延びている人々はその原因を探るべく、ひとりの囚人コール(ブルース・ウィリス)を過去へ送り出します。
キーワードは「12モンキーズ」というウィルスをばらまいたとされる謎の団体の名称のみ。
しかしコールが到着した時代は事件発生の6年前、1990年でした……。
『未来世紀ブラジル』などで知られるテリー・ギリアム監督の本格SF映画。クリス・マルケル監督の名作短編『ラ・ジュテ』(62)を原案に、そのイメージを膨らませながら現在・過去・未来を濃密なビジュアル・イメージで魅せてくれます。
ちなみにこの映画が日本で公開されたのは1996年(平成7年)6月29日ですが、その前年の春、3月20日に地下鉄サリン事件が起きており、細菌テロの恐怖に日本中が戦慄してまもなかった時期、奇妙なリアリティを感じたものでした。
●『ランボー3 怒りのアフガン』(88)
『ロッキー』シリーズと双璧をなすシルヴェスター・スタローン主演のバトル・アクション『ランボー』シリーズの第3作。
ヴェトナム戦争の帰還兵ランボーのかつての上官だったトラウトマン大佐(リチャード・クレンナ)がアフガニスタンでの作戦行動中にソ連軍に拉致され、ランボーが救出に向かいます。
1980年代のアメリカ映画はレーガン政権に倣ってこういった「強きアメリカ」の復権を掲げるイケイケドンドンの戦闘アクション映画が大流行しましたが(同時にヴェトナム戦争をめぐる映画もブームに)、本作はシリーズ最大級のスケールでランボーの超人的活躍を描いていきます。
ただし、今この映画を見て嘆息してしまうのは、ここでランボーに協力するのが、アフガニスタンのゲリラ組織タリバンであるということ。
当時、タリバンはソ連のアフガニスタン侵攻(79~88)に徹底抗戦し、アメリカはそれを支持していました。
それがまもなくしてソ連は崩壊し、代わって政権を握ったタリバンとアメリカは対立。ついには2001年(平成13年)9月11日のニューヨーク同時多発事件を起こしたテロ組織アルカイーダをタリバンはかくまい、アメリカへの引き渡しを拒否したことから、新たなアフガニスタン紛争として過熱化していきます。
2008年にはNGOボランティアの日本人青年が拉致され、殺害。当時のタリバン広報官は「たとえ復興支援が目的でも、アメリカに協力し、アフガニスタンを訪れる外国人はすべて敵である」と語りました。
本作のエンドタイトルに「この映画をアフガニスタンの兵士に捧ぐ」とクレジットされているのを見るたび、国際情勢の難しさを痛感させられます。
●『四月の雪』(05)
平成こそ日本とアジア各国との友好&確執が露になった時代はないかと思われ、特に現在の日本と韓国の関係の行方には注視せざるを得ないものがありますが、ふと振り返ると日韓関係がもっとも良好だったのは、ペ・ヨンジュン主演の韓国TVドラマ・シリーズ『冬のソナタ』(02)が2003年(平成)から2004年にかけて日本で放送されて以降の数年だったような気がしています。
恐らくこの作品がなかったら、世界中の韓流ブームも起きなかったでしょう。
日本でもいわゆるヨン様ブームに湧き、韓国の男性俳優のカリスマ・スター性が大きくクローズされたものでした(年配女性ファンは揃って、彼らを昭和の日本映画黄金時代のスターと共通するものがあると語っていましたね)。
ヨン様で思い出すのが、うちの田舎で齢80を越えた独り暮らしの腰の曲がったおばあさんが『冬ソナ』を見てヨン様に夢中になり、部屋にポスターを貼り、そのうち化粧をするようになり、それをからかった近所の人を走って追いかけていったというエピソードで(つまりは腰の曲がりも治っていた!)、それほどの影響力をもたらすスターが今の日本にいるかなあ、と痛感させられたものです。
いずれにしましても文化の交流によって政治的対立を凌駕する友好関係を持ち得る希望を抱かせてくれた『冬のソナタ』とペ・ヨンジュンは、これからの時代にも有効であると信じたいもの。
ここではヨン様が主演した数少ない映画の中から『四月の雪』を挙げていますが、良質で芸術性も高いラブストーリーですので、『冬ソナ』ともども久々にヨン様の美しさに触れ直してみてはいかがでしょうか?
●『物置のピアノ』(14)
2011年(平成23年)3月11日の東日本大震災およびそれに伴う福島原発事故は、今なお日本中に暗い影を落とし続けています。
映画もまたさまざまな形でこの未曽有の大惨事をめぐる作品を製作し続けています。
その中から今回は青春映画として福島の悲劇を描いた『物置のピアノ』を。
舞台は震災から1年後の夏、桑折町の桃農家に生まれた16歳の少女とその家族の日常が描かれていきます。
幼い日に弟を亡くした悔恨や、震災後の放射線におびえながらもやりすごしつつ暮らす日常、風評被害に苦しむ祖父(織本順吉)、自由奔放な姉(小篠恵奈)の帰省による確執、友人の妊娠などなど、さまざまな現状の中で悩みながらも成長していくヒロインを、まだデビューして間もなかった芳根京子が真摯に体現。この時点で既に未来の大器を予見させています。
思えば平成は東日本大震災だけでなく、1995年(平成7年)1月17日の阪神淡路大震災、2016年(平成28年)4月14日の熊本地震、北海道に至っては1993年(平成5年)1月15日の釧路沖地震、7月12日の南西沖地震などから2018年(平成30年)9月6日の胆振東部地震まで幾度も惨禍に見舞われています。
かつて『地震列島』(80)という災害パニック映画が作られたこともありますが、まさに日本列島=地震列島である現実を痛感させられるのみです。
●『君よ憤怒の河を渉れ』(76)
2014年(平成26年)11月10日、日本映画界を代表する大スター高倉健の死は国内のみならず近隣の中国にも深い悲しみをもたらすとともに、当時緊迫の度を深めていた日中関係を緩和させるほどの圧倒的影響力を及ぼしました。
中国における高倉健の存在は、単なる映画スターの域を越えて、一定の世代以上の人生のアイデンティティに深い影響を及ぼしているのでした。
そのきっかけになった作品が『君よ憤怒の河を渉れ』です。
無実の罪を着せられ逃亡を余儀なくされた検事がやがて真相をつかむという、日本では荒唐無稽なアクション映画と評価されたこの作品、日中国交回復後の中国で最初に公開された日本映画の1本となるとともに、それまで文化大革命によって苦しめられていた中国の人々に、不屈の闘志と正義、勇気の象徴として熱狂をもって迎えられ、結果としておよそ10億人以上の中国人民が鑑賞したという、驚異的作品となったのです。
80年代の中国の若者は高倉健か相手役の原田芳雄の髪型や衣装を真似、TVお笑い番組では田中邦衛の物まねが大うけし、ヒロインを演じた中野良子は来中した折は大統領待遇の扱いを受け、役名の「眞由美」を冠した化粧品や美容院などができたりしたとか。
監督の佐藤純彌も戦後初の日中合作映画『未完の対局』(82)を撮るなど、中国映画界から大いにリスペクトされる存在となりました。
今も日本の映画人が中国に赴くと、真っ先にこの映画のことを聞かれ、そのたびに一体なぜあの映画がここまで? と驚かされるとのことですが、現在も日中の架け橋として活動中の中野良子さんは「あの映画が中国で受け入れられた理由を表現できる日本語はないと思います」と語っています。
もしかしたら、その日本語を表現できた時にこそ、真の日中友好関係は確立できるのかもしれませんね。
ちなみにこの映画、ジョン・ウー監督のメガホンで『マンハント』(17)としてリメイクされています。
●『AKIRA』(88)
大友克洋が自身の名作コミックを自ら監督し、世界中に日本のアニメーションの秀逸さをみせつけ、今に至る空前のANIMEブームをもたらした記念碑的作品です。
舞台は1988年に第3次世界大戦が勃発し、それから時を経ての2019年のネオ東京。政府の陰謀に巻き込まれていく不良バイク少年たちの戦いがサイバーパンク感覚でエネルギッシュに描かれていきます。
ここでユニークなのは、2020年に東京オリンピックが開催予定となっていることで、今となっては未来を予見した(?)作品としてもマニアの間で囁かれているのです。
もっとも、現在公開中の『麻雀放浪記2020』では、東京オリンピックが中止となった近未来が舞台となっています⁉
はてさて2019年はまだ8カ月ほどありますが、その間に現実はどうなっていくことでしょう?
(文:増當竜也)
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