『ザ・ファブル』、岡田准一アクションの魅力
©2019「ザ・ファブル」製作委員会
岡田准一といえば、もちろんV6のメンバーでありジャニーズアイドルとして有名。しかしひとたび生身のアクションを見せれば、もはや“岡田准一”という一ジャンルになるから凄い。南勝久の同名コミックを江口カン監督が実写映画化した『ザ・ファブル』を観るにつけ、ますますその思いが強くなった。今回は岡田アクションの魅力を含めて、『ザ・ファブル』の見どころを紹介していきたい。
■岡田アクションの神髄を見たり!
映画では『SP』シリーズや『図書館戦争』シリーズで現代アクションを披露し、『散り椿』の段階でカリ(フィリピン武術)、ジークンドー(ブルース・リー)、USA修斗(佐山流シューティング)で格闘技インストラクターの資格を有していた岡田。“格闘技オタク”を自称するだけあってアクションに対する岡田の探求心は誰もが認めるところだろうし、『散り椿』では殺陣にも参加して見事に「アクションアワード2019」で最優秀アクション男優賞を受賞するとともに、アクション監督としてもノミネートを果たした。
©2019「ザ・ファブル」製作委員会
前置きが長くなってしまったが、『ザ・ファブル』ではオープニングにして岡田のガンアクションを十分なほど堪能できる構成になっている。サイレンサーを装着したハンドガンで敵を的確かつ瞬殺していく様は、岡田が見せるキレのある動きによって一層の輝きを放つ(ヘッドショットが連続するシーンに“輝き”というのもゾクリとするが)。思い返してみれば近年の岡田アクションは『関ケ原』や『散り椿』など時代物が続いていたので、『図書館戦争 THE LAST MISSION』以来になるのか。『来る』ではアクションを見せていないし松たか子にワンパンで沈められる場面もあっただけに、序盤で岡田の現代アクション流儀を目の当たりにしてこちらのテンションも一気に引き上げられた。
岡田演じる凄腕の殺し屋ファブルは、育ての親であるボス(佐藤浩市)に1年間の休業を命じられる。予告編にある通り殺しを禁止されたファブルが佐藤アキラの偽名で“プロの一般人”になろうとする姿も、物語を支える主軸のひとつになっている。常に“普通”を装うとするファブルの奮闘がコミカルに描かれるが、それでも随所に殺し屋としてのスキルが挿入されるのでダルさを感じさせることはない。
圧巻なのは、何と言っても壮絶なクライマックス・バトルだろう。本作のメインたる救出ミッションでは、“殺さず”の制約を受けたからこそのアクションが展開する。お手製の(威力を弱めた)改造銃を扱う際にはスライドを手動で動かして弾を装填しなければならないが、そんなワンクッションを置いてもファブル=岡田の射撃は目にも止まらぬ速さを見せる。またCQC(近接戦闘術)も相手を殺さないために、映画的なアクションに落とし込まれているのも特徴だろう。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=43&v=kjQLhtVxbmw
ちなみに本作ではファイトコレオグラファーとして、『ボーン・アイデンティティー』や『LUCY/ルーシー』に参加したアクション監督のアラン・フィグラルズを招聘。流麗なアクションを振りつけているが、岡田自身もまた本作でファイトコレオグラファーにクレジットされている点に注目してほしい。演技と共にアクションで魅せるスタイルは、現時点で岡田にとっての到達点になったのではないだろうか。
©2019「ザ・ファブル」製作委員会
■魅惑の共演陣、安田顕編
本作の主人公は間違いなくファブルだが、その一方で圧倒的な存在感を放っているのが安田顕だ。
©2019「ザ・ファブル」製作委員会
安田はファブルが大阪で世話になる「真黒カンパニー」の社長・海老原を演じており、オールバックにスーツでバシッと決めた姿。常に強面の表情を崩さない一方で義理人情に厚い面もあり、本作におけるトラブルメーカーの小島(柳楽優弥)を誰よりも気にかけている。その愛情ゆえに小島が真黒カンパニー転覆を狙う砂川(向井理)に拉致された際には、当初距離のあったファブルに頭を下げてまで事の解決を依頼する。いわば小島のためにファブルに危険な橋を渡らせる役目でもある。
安田と言えば今や主演も張る名優だが、やはり映画『銀魂』や『HK/変態仮面』などのようなコメディリリーフとしての印象が強い。ところが本作ではそういったキャラクター性を封印し、闇の世界に生きる海老原を殺人すら厭わぬ冷徹な男として演じきっている。その不敵さこそ当初はファブルに反目する要因にもなったが、前述のようにファブルという男を認めてからは彼との距離を縮めその存在を確かに受け入れるようになっている。また本作では多くのキャラがどこかネジの緩んだ性格を秘めているが、そんな中でも海老原という男は(闇の世界に生きながらも)冷静な視点だけは手放そうとしない。
そんな海老原が動揺する場面こそ弟分である小島の拉致事件だ。小島も海老原から向けられる愛情を受け止めつつも自分本位な行動に出て痛い目に遭うわけだが、そんな彼を何としてでも奪取したい海老原を、緩急つけながら演じる様は安田の芸達者な一面を見せられたように思える。そんな海老原が終盤に見せる“ある行動”は、安田の静かな熱演もあってグッと胸に迫るものが。安田のベストアクトではないかと思えるほどで、実は岡田アクションと同じくらい本作における肝の部分だとも言える。
©2019「ザ・ファブル」製作委員会
■魅惑の共演陣、女優編
本作にはファブルとともにもうひとり、木村文乃演じる殺し屋ヨウコが登場する。
©2019「ザ・ファブル」製作委員会
あっけらかんとした表情で恐ろしいほどの飲兵衛ぶりを披露するヨウコだが、彼女もまたボスからファブルの妹役を命じられて大阪へとやってくる。プロの一般人になろうと奮闘するファブルとは対照的にゴーイング・マイ・ウェイを行くといった様子だが、実はちゃっかりと面倒見の良さも兼ね備えているのだからどこか可愛らしい。その面倒見の良さがあるからこそファブルのパートナーが務まるのであり、ファブルが救出ミッションに挑む際にも何だかんだ言いつつ協力を惜しまない姿は健気にすら映る。
そんなヨウコに気に入られるミサキ(山本美月)の立ち位置もいい。
©2019「ザ・ファブル」製作委員会
ひょんなことからファブルに出会った彼女はやがて行動を共にするようになり、やがて蛇のような狡猾さを見せる小島によって追いつめられてしまう。一方でデザイン会社で仕事に励みヨウコに変顔を無理やりさせられる姿は等身大の女性像ともいえ、殺し屋として生きてきたヨウコと徐々に絆を深めていく様子もまた感慨深いものがある。それにしても山本美月の顔をイジりまくる木村文乃という構図もなかなかレアな瞬間なのではないだろうか(しかも割りと尺を割いている)。
■まとめ
岡田による怒涛のスタイリッシュアクションに加えて、本作ではキャストの何気ない演技にも目を配らせてほしい。ボスを演じる佐藤浩市が体現する存在感としての重みや、反対に完全なるギャグキャラ・ジャッカル富岡(宮川大輔)すらもちょっとした伏線になっているので要注目。漫画特有のリズムを取り込みつつ舞台となる関西のユルさもミックスして、本作はアクション映画ながら独特な空気感も醸し出している。そんな中で繰り広げられるアクションとサブキャストによるウィットな演技バトルは、『ザ・ファブル』という題材だからこそ実現した見どころではないだろうか。岡田アクションの魅力と共にじっくりとその世界観を堪能してみてはいかがだろう。
(文:葦見川和哉 )
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。