映画コラム

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2019年07月18日

高良健吾インタビュー『アンダー・ユア・ベッド』で描かれるストーカー的愛情

高良健吾インタビュー『アンダー・ユア・ベッド』で描かれるストーカー的愛情

大石圭の同名小説を映画化、7月19日(金)に公開される『アンダー・ユア・ベッド』。


誰からも必要とされることなく、家族や世間から存在を無視され続けてきた男、三井。唯一、自分の名前を呼んでくれた千尋を11年間思い続けた三井は、ついに越えてはならない一線に踏み込んでいく。

純粋で哀しい孤独な青年、三井を演じた高良健吾さんに役どころについて、また自身の俳優としてのキャリアのありかた、30代になった現在の心境を語っていただきました。




──原作を読まずに本作を拝見したのですが、とても意外な印象でした。

高良健吾(以下、高良):意外というのは?

──あらすじや予告編から受けた印象では江戸川乱歩の「人間椅子」のような話かと思っていたので。

高良:そうですね。僕も最初はそうなのかなと。でも、お話を読むと違うと分かる。三井くんはとても痛々しい人間なんだけど、これまでも僕はそういう役柄を演じる機会が多かったので、今30代になった僕がこの役を演じられるのを素直に楽しみだと思いました。




──20代の頃の高良さんとは違う向き合う方になると?

高良:若い頃の僕は、役柄の問題を自分の問題として受け止め過ぎていたんです。

──役と自分との線引きができなくなるということでしょうか?

高良:役としてただその場にいればいいのに、それができなかった。芝居なんだっていう概念がなかった。

──それはしんどかったですね。

高良:当時の自分の頭を撫でてやりたいです。三井くんが傷つくことで僕自身が傷付いちゃう。そんな感じでしたね。

──今はそうならなくなった?

高良:そうしたくない、と思えるようになりました。でも、実際は自分を客観視することなんてできないわけですから、演じてる僕自身は常に主観で三井くんをとらえているわけですけど。冷静でいられるというか。もちろん気持ちに入っていかなきゃいけない時もあるけど、そうじゃない時もあるなと。その切り替えが若い頃よりはできるようになってきました。




──そうなった高良さんが三井を演じてみていかがでしたか?

高良:楽しかったですね。面白いんです、三井くんって。とても笑えた(笑)。それが素直にうれしかった。彼がやってることは全部だめっていうか犯罪なんですけど(笑)。すごくまっすぐでピュアだから、滑稽で、かわいらしいんです。だんだんヒーローに見えてくるんですよ、ストーカーなのに。ベッドの下に潜伏するためにオムツを履くシーンがあるんですけど、あれは彼の戦闘服なんですよね。

──確かにオムツを履く三井はすごくかっこよかったですね!

高良:そういう一面も演じてみてとても面白かったです。

──三井は自身のコンプレックスを水島という男に重ね合わせて、同族嫌悪感を抱いていました。高良さんもそのような一面はありますか?

高良:とても近い存在の水島を嫌うという気持ちはとてもよく分かります。自分の嫌な部分を見たくないのに、感じさせられるのが嫌なんだと思います。嫌というか怖いのかな。自分が必死で隠してるところをダダ漏れにしている人を見るのが怖い。僕もそういうタイプなのでそれはすごくよく分かります。




──三井は千尋に関するもの、コーヒーやグッピーなどにも愛着を感じて、それを突き詰める傾向にあります。そういう面も理解できますか?

高良:本来の僕は飽きっぽくて、ひとつのことを続けられるタイプではないと思うんですが、この仕事は続いているので…。そういう面ではこの仕事には強い思い入れがあるかもしれない。

三井くんはきっと、千尋、コーヒー、グッピーなどを通して自分の存在を確かめようとしているんだと思います。三井君は幼少期に心に深い傷を負って、ずっと苦しんでいる。自分の存在を認めてほしいともがいているところに、名前を読んでくれた千尋、一緒に飲んだコーヒー、世話をしているグッピー。すべてが自分という存在があってのものだから、執着っていうと三井くんに失礼だけど、それらにしがみついているんだと思います。

──そういう自己存在の確認作業を、高良さんは俳優業を通してやっている、と。

高良:やっぱり、認められたい、評価されたいとは思います。でも、評価されたからといって自分の心が満たされるとは限らないとも思います。今の自分の年代においては、「こうあるべきだ」という固定概念を受け入れなくてはならない立場になってきていて。もともとこういう芸能界にいる人たちってどちらかというと、そういう固定概念から外れた生き方だったり、考え方をしてきた人だと思うんだけど…世間が望んでいる通りにふるまわなくてはいけないというプレッシャーというか、ストレスはあります。




──それが年齢とともにできるようになってくる?

高良:できるようになるというよりは認識ができるようになってきた。本来の自分の感情のままではいられない部分を「あ、今俺はここを抑えてる」って確認できるようになりました。だからこそ、そういう本来の自分ではない部分を俳優として評価されても、心が満たされるかどうかは正直分かりません。じゃあ、どうしたら満たされるんだろうっていうのをこれから年を重ねて、考えていきたいなと。

──少し見えてきましたか?

高良:もう少し世間に甘えてもいいのかなって(笑)。今回、三井くんを演じてそういう風に自分を振り返るきっかけにもなったというか。誰しもが、本来の自分を抑えながら生活してると思うんです。大人になるにつれ、そうやって型にはまって自分を抑えていかなきゃいけなくなっていくことに慣れてしまって、自分が自分を抑えてることにすら気づかない人もいる。そういう見えないストレスがたまり切って、爆発しちゃって暴走しちゃう人もいます。

そうやって「ため込んじゃってる人」こそ、『アンダー・ユア・ベッド』を見てほしい。欲望のままにやっちゃってる、三井君の雄姿をぜひご覧ください! きっと、自分が抑え込んでる〝何か″に気づかされると思います。




『アンダー・ユア・ベッド』は7月19日(金)公開です。

(撮影:八木英里奈、文:NI+KITA)

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