映画『彼らは生きていた』レビュー:現代の映像技術で再現された第1次世界大戦=戦争の地獄
カラー化されたことで際立つ
戦場の屍とその死臭
かくして完成した『彼らは生きていた』は、それがドキュメンタリーであることを忘れさせるほどに臨場感あふれる“映画”として、ピーター・ジャクソン監督の個性が濃厚に醸し出されていました。
冒頭、まだデジタル化されていないモノクロの記録映像が映し出されます。
それは私たちが普段見慣れた、コマ落としがもたらす滑稽(たとえばチャップリンの無声映画みたいな)かつノスタルジックな味わいのものです。
しかし、やがて一気に画面はカラー・ワイド化し、戦場の音が聞こえてくることで、記録映像は一気に“映画”へ転じて100年前にタイムスリップするとともに、映画100年の技術革新を衝撃的なまでに見せつけられる想いでもあるのでした。
さて、そんな『彼らは生きていた』では、戦場における兵士たちの日常が映し出されていきます。
それは移動や食事などの風景、塹壕での待機、そして戦闘……。
それらはどこかしらドラマ性を伴ったものとしても映えわたることで大いに興味をそそりますが、実はそれ以上に彼らの日常が死と隣り合わせにあるという過酷な事実が驚くほど見事に描出されています。
実はこの作品、兵士たちの死骸が画面のあちこちで散見されます。
それは腐りかけたものであったり、手足がちぎれていたり、またそういった光景の中を普通に歩き回っている疲れ果てた兵士の姿などなど……。
正直モノクロ映像ならばそこまでグロテスクに思えなかったのがカラーリングされて自然に映し出されることで、死臭漂う戦場のリアルな惨状がまざまざと見せつけられていきます。
もともとピーター・ジャクソン監督は『バッド・テイスト』(87)や『ブレインデッド』(92)などグロテスクの極みともいえるスプラッタ・ホラー映画で名を挙げ、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや『キング・コング』(05)などのファンタジーでもおぞましいクリーチャーの造形などに力を入れるなど、決して作品世界を綺麗ごとですまそうとはしない傾向があります。
本作にも彼のそういった資質は如実に反映されており、時に牧歌的でヒロイックな光景こそ見受けられても、「戦争は地獄である」という事実を観客にじわじわと叩きつけてくれるのです。
それはまもなくリバイバルされるヴェトナム戦場映画の一大傑作『地獄の黙示録』(79)でマーロン・ブランド扮するカーツ大佐が最後に放つ台詞“HORROR”とも相通じるものを感じずにはいられません。
“HORROR”とは恐怖であり脅えでもあり、突き詰めて考えるとピーター・ジャクソン監督は戦場の恐怖こそを描出することを目指した究極のホラー映画を作り上げたのではないでしょうか?
さて、映画ファンならずとも必見の傑作『彼らは生きていた』同様、第1次世界大戦の惨禍を見事に描いた劇映画『1917』も2月に公開されますが、こちらも全編1シーン1カット撮影という現在の映像技術を駆使した手法が採られています。
こちらのレビューはまた後日にて。
(文:増當竜也)
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