映画コラム
『1917 命をかけた伝令』驚愕のワンカット映像が凄い!「3つ」の見どころ!
『1917 命をかけた伝令』驚愕のワンカット映像が凄い!「3つ」の見どころ!
©2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
驚異のワンカット映像が話題の戦争映画『1917 命をかけた伝令』が、2月14日から日本でも劇場公開された。
第一次世界大戦をワンカットを繋いだ映像で描くという果敢な挑戦に、公開前から多くの映画ファンが注目していた本作。
先日発表されたアカデミー賞でも視覚効果賞に輝いただけに、その迫力ある戦闘シーンや切れ目の無い映像がどうなっているのか? 個人的にも期待して鑑賞に臨んだのだが、気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものだったのか?
ストーリー
第一次世界大戦真っ只中の1917年のある朝、若きイギリス人兵士のスコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)にひとつの重要な任務が命じられる。それは一触即発の最前線にいる1600人の味方に、明朝までに作戦中止の命令を届けること。
進行する先には罠が張り巡らされており、さらに1600人の中にはブレイクの兄(リチャード・マッデン)も配属されていたのだ。
戦場を駆け抜け、この伝令が間に合わなければ、兄を含めた味方兵士全員が命を落とし、イギリスは戦いに敗北することになる――。
刻々とタイムリミットが迫る中、二人の危険かつ困難なミッションが始まる…。
予告編
見どころ1:全編ワンカット風映像が凄い!
何と言っても本作最大の見どころは、第一次世界大戦の戦場がワンシーンワンカット映像で描かれる点!
大量の兵士の登場や銃撃・爆破のタイミングなどを含め、戦争映画をワンカット映像で描くことがいかに困難か?
その苦労はスクリーン上で見事な効果を上げており、前線から撤退したと見せかけて、実は待ち伏せによる反撃を狙っているドイツ軍の作戦を、翌朝に総攻撃を仕掛けようとしている1600人の友軍に伝えるため、危険を承知で敵の占領地を進む二人の兵士と同行しているかのような臨場感を観客側が味わえるのも、やはりこのワンカット映像によるところが大きい。
例えば、ふと気を休めた瞬間に襲ってくる思いがけない危機や、突然姿の見えない敵兵から狙撃される恐怖。更には自然の猛威などの様々な困難を乗り越えて、ボロボロになりながら敵陣を駆ける主人公の行動を観客が追体験できるのは、やはりワンカットという困難な道を選択した、制作スタッフの熱意の賜物と言えるだろう。
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見知らぬ敵の占領地を地図を頼りに進む二人が、翌朝決行される総攻撃を果たして食い止められるのか? このサスペンスとワンカットの緊張感だけでも充分凄いのだが、本作の面白さはそれだけでは終わらない。
なぜならスクリーンの中の登場人物と同様に、先の展開が全く分らないという状況に観客も放り込まれることで、「次に何が起こるのか?」という興味と緊張感が、最後まで途切れずに持続するからだ。
これから鑑賞される方のために詳しく書くことは避けるが、何が起こるか分らない戦場にいきなり放り出された二人を襲う様々な危機や、観客の想像を超える過酷なミッションに挑むスコフィールドの精神力の強さに、思わず感情移入してしまうことは間違いない、そう言っておこう。
特に、予告編でも印象的に登場する、敵の砲撃の中をスコフィールドが駆け抜けるシーンの迫力は、やはりワンカット映像ならではのもの!
それ以外にも、最前線まで延々と続く狭い塹壕を主人公が徒歩で進むショットや、トラックの荷台に乗った主人公を追うカメラの動きなど、鑑賞後に絶対メイキング映像が観たくなる、この『1917 命をかけた伝令』。
ぜひ劇場の大スクリーンで体験して頂きたい作品です!
見どころ2:実は様々な工夫が施されている!
イギリス軍兵士のスコフィールドとブレイクの二人は、夜明けと共にドイツ軍への総攻撃を計画している友軍に作戦中止の命令を伝えるため、危険な敵の占領地を徒歩で移動することになる。
実は、鑑賞中、疑問に思っていたのが、全編を通してワンカットのように見える映像のため、上映時間119分の中で、移動距離と時間の経過をいかに自然に描くのか? という点だった。
実際、本編中でも二人が出発するのは昼間であり、目的地に着くまでの大体の時間が伝えられるのだが、どう考えても上映時間内にはたどり着けない距離の移動になるため、「このまま徒歩で移動すると、目的地に着けずに終わるのでは?」、映画の途中まではそんな心配を抱えながら観ていた。
この部分も、これから鑑賞される方のために伏せておくが、心配しなくとも時間経過と移動距離の問題解決への見事な工夫やアイディアが用意されている! とだけ言っておこう。
特に見事だったのが、主人公の視点を観客が共有するという設定を逆手に取ることで、実に無理なく深夜から夜明けまでの時間の省略を成功させた、その秀逸なアイディアだった。
確かに、この方法なら大幅な時間の省略ができるため、119分の上映時間であっても、昼間から夜、更に明け方に至るまでの時間経過が表現できるのは見事!
もちろん、徒歩以外の移動手段も考慮されているので、時間経過だけでなく移動距離の短縮が実現している点も、実に上手いのだ。
いったいどのようにして、119分の上映時間内で昼から夜、そして明け方への時間経過を表現したのか? その素晴らしいアイディアと工夫は、ぜひ劇場でご確認を!
見どころ3:戦場で出会う人間ドラマが素晴らしい!
戦友のブレイクに指名されたことで、危険な最前線への任務に同行することになった、スコフィールド。
ドイツ軍が撤退したとはいえ、途中に様々な危険が潜んでいる敵の占領地を二人で進むうちに、彼らの身にも想像を超える危機が迫ってくることになる。
味方の軍に加えて兄の命も危険に晒されているため、一秒でも早く目的地に着こうとするブレイクに対し、軍人としての使命感から冷静に状況を判断して行動しているように思えたスコフィールドだが、実は彼にも生きて帰らなければならない理由があったことが明らかになる展開は見事!
加えて、敵の占領地を移動するという過酷な状況にあっても、スコフィールドとブレイクが決して良心を失わず、人間として正しい行動を選択する描写は、「彼が無事に生き延びて任務を果たして欲しい!」、いつしか観客にそう思わせる効果を上げているのだ。
敵の占領地を進む中で二人が出会う、様々な人間ドラマも本作の魅力のひとつだが、中でも印象に残ったのが、廃墟と化した夜の市街地を、スコフィールドが敵のドイツ兵に銃撃されながら疾走するシーン!
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なぜなら、そこで出会った現地の女性との交流は、たとえ戦争中であっても、個人同士は言葉を超えて分かり合えることを、我々観客に教えてくれるものだからだ。
このシーンで前半の伏線が生かされるのも上手いが、この時のスコフィールドの行動の理由が、ラストで明かされる彼が生き延びなければならなかった理由と密接に関係してくることで、鑑賞後の余韻と感動が更に深いものとなる点も、実に上手いと感じた。
戦友の兄の命を救い、軍人としての使命を果たすため、地獄のような戦場を駆け巡るスコフィールドは、果たして総攻撃を食い止めることができるのか?
ラストで明らかにされる、スコフィールドが生き延びなければならなかった理由の重さが、反戦へのメッセージとして観客の胸に刺さる、この『1917 命をかけた伝令』。
アカデミー作品賞の本命となったのも納得の素晴らしさなので、全力でオススメします!
最後に
戦争映画というジャンルを、若い世代の観客が興味を持って共感できる内容にアップデートするために、CGでリアルに再現された銃撃・爆破に重点を置くのではなく、行く手に何が待っているか分らない状況に観客を置き、圧倒的な臨場感とサスペンスを我々に体験させてくれる、この『1917 命をかけた伝令』。
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映画の冒頭に登場する、戦場と呼ぶにはあまりに静かで緩やかな日常風景に続き、主人公たち二人が塹壕の中を最前線まで移動していくに連れて、周囲の状況が次第に切迫した危険な戦場へとグラデーションのように変貌していくさまは、確かにワンカット映像でなければ描けなかった素晴らしさ!
同じ戦場の徒歩で行き来できる距離にありながら、その間には天国と地獄ほどの差が存在するという現実に続き、戦況や目的も分からず命令のままに動く最前線の兵士たちの姿と、自身の判断と行動で過酷な戦場を生き延びていくスコフィールドの姿が対比される展開も、実に上手いと感じた本作。
加えて、この対比によって個人の意志や判断力の重要性が浮き彫りになる展開は、まさに溢れる情報に流されがちな現代社会への問題定義ともとれるのでは? そう思わされたのも事実。
更に、スコフィールドが任務の途中で出会う兵士や女性を含め、よくある戦争映画のように登場人物が皆なぜか英語を話すという安易な展開を避けて、お互いに意志の疎通が十分にできない状況を設定することで、戦場に置かれた人々の不安や恐怖が引き起こす悲劇や、言葉や国を越えた人間同士の交流など、優れた人間ドラマが展開する点も、本作の大きな魅力となっているのだ。
例えば、建物の上からスコフィールドを狙撃していたドイツ兵も、ひょっとしたら上官から敵を近づけるな、との命令を受けて一人残っていたのかも? そう考えると、戦争の恐ろしさがリアルに感じられるのではないだろうか。
主人公の行動を追体験しながら、いつしか観客側も戦場の中に放り込まれたかのような臨場感を味わうことになる、この『1917 命をかけた伝令』。
ラストシーンに込められた平和へのメッセージが、観客の心に深い余韻を残す傑作なので、ぜひ劇場に足を運んで頂ければと思う。
(文:滝口アキラ)
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